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前代未聞の異能力者~自ら望んだ女体化だけど、もう無理!~(改正版)  作者: 沙風(すなかぜ)
第六章/愛のある我が家
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Episode82/5.真の敵(前)

「やっぱり。異能力者は咄嗟の痛みで頭が真っ白になり、異能力を一瞬使えなくなる事は侭あるけれど、きみの場合、本当に立ち上がった状態でなければ、異能力を扱えないんだね。ふんふむ……」


 と、ようやく倉庫の外からパトカーのサイレンの音が聴こえてきた。

 

「んっ! んーッ!」


 と、裕希姉がなにかを言いたげに、拘束された範囲で悶えるように身体を動かし、私たちに聴こえるように「んー」だけのうめき声を上げはじめる。


「杉井くん。お姉さんを早く解放してあげたらどうかな? 偶々きみのお姉さんを身を挺して助けようとした男の子も、警察と救急車への対応も、異能力者保護団体のーー死体痕跡清掃員も、私がなんとかしておくよ」


「でも……もし緑色が死ぬ気で立ち上がりでもしたら」

「んん? 安心していいよ。緑色って子は、疾うに気を失ってるからね」

「え……?」


 私は緑色に視線を向けた。

 痛みには不慣れだったらしい。

 緑色は、意識を完全に喪失していた。


 ふと、直感が働く。

 もう緑色は放置して問題ない……と。


「わかりました。その……後の処理はお願いします」

「了解したよ。きみはお姉さんを連れて、早くお家に帰ったほうがいいからね。杉井くんは、戦いを終えても苦難はまだ終わらない。むしろ一番大変なのは、お家に帰ったあとかもしれないよ?」


 忘れかけていた。殺し合いでアドレナリンの過剰分泌で興奮していたせいか、このあと不可避の難題をパスする必要があることを……。


「その……宮下のこと、お願いします」

「もちろん、任せなさい。宮下くんがこうなったのも、橘くんがしくじって、他人の高校生がきみのお姉さんを守ろうとしたおかげだからね。責任はきちんと果たすよ。約束しよう」

「はい。ありがとうございます」


 私は、入口から大勢の警察官がぞろぞろ入ってくる。

 それを尻目に、私は裕希姉に近寄ると、まずは口を塞いでいるガムテープを剥がした。


「はぁ、はぁ……ゆったー……これって、いったいなにがあったの? ゆったー? この男の人たち、わけのわからない魔法みたいなのをつかって、ナイフで刺し殺してたよね? もしかして、悪い夢でも見てるのかな、私?」


 裕希姉は喋れるようになった途端、酷く困惑した表情で、次から次へと、私に疑問を問い詰めてくる。

 裕希姉を巻いている粘着力の強いガムテープの切った部分に爪をかけ、そこを始点にしてパイプ椅子の周りを回りながら、少しずつガムテープを剥がしていく。


「……ごめん、裕希姉。詳しい事情はーーいや、違う。今まで家族についていた嘘と、私が立たされてる本当の事を、禁止されていない範囲で、父さんと母さん含めて、洗いざらい全部打ち明けるよ。六花の正体も、私がどういう組織に所属しているかも、発端となった出来事も」


 ガムテープを剥がしながら言葉をつづける。


「可能な限り、一切の嘘偽りのない真実を、全て、全部、なにもかもぜんぶ……一から説明して打ち明けるよ。たぶん、裕希姉も母さんも父さんも、みんな私を許さないと思ってる。最悪、勘当されても文句は言えない」


「私の目の前で、ゆったーは平然と、三人ものひとを、殺してたもんね……? ひとつだけ、いま訊いてもいい?」


 ようやく、ぐるぐるに巻かれたガムテープを全て剥がし終える。

 後ろからやってきた警察官は、私たちを一瞥するだけで、死体となった男たちにビニールシートを被せ、包み始めた。


「……いいよ。一切の嘘を吐かず、正直に答えるから」


 裕希姉は、血の着いたナイフを握ったままでいた私を微塵も気にしていない、異様な光景に暫く口を噤む。

 けど、裕希姉はすぐに頭を左右に振り、口を開いた。


「私が……私と友達が襲われたのは、ゆったーとは、なんにも関係ないよね? 男たちが言ってたから……おまえとおまえの友人が酷い目に遭うのは、全部豊花って奴のせいだ……って。あ、あはは、私ってば、なに言ってんだかにゃー。ごめんごめん、いまのは忘れーー」

「……そうだよ。全て、私のせい。裕希姉や、父さんや母さんが襲われたのも、全部……全部私のせいなんだ……」


 裕希姉は無理して普段通りに振る舞おうと、固い口調を切り上げて、たまに口にする猫っぽい語尾まで無理してつけて、明るく振る舞おうとする。


「……え? ……………………うそ?」


 裕希姉は、私が肯定すると、無理やり明るく振る舞っていたのをやめて、目を見開いて声を震わせて、必死に言葉を絞り出す。


 たしかに、直接手を出したのは、誘拐犯三人組だ。

 そして、三人を騙して私の家族を拐わせた巨悪は、神無月に他ならない。

 でも、私が家族を巻き込むような真似をしなければ、こんな惨事は起こらなかった。


 言い訳はしない。

 悪いのは私なんだから……。


「裕希姉には、少しだけ、先に言っておくよ」

「……」

「私は、さ? 愛のある我が家っていう組織の一員なんだ」

「愛のある我が家……って?」


 私は覚悟を決めて、それを口にする。


「聞いたことくらいあるでしょ? 特殊指定異能力犯罪組織ーーって用語くらいは」

「な……なん、で……どう、して? 冗談……きついよ……? 犯罪組織って言っても……本当の犯罪者の集まりって、訳じゃ……ないでしょ? ねえ……ゆったー……。ねえ、答えてっ! 豊花ッ!」


 裕希姉の瞳が、徐々に涙で滲み出す。


 つらい。


 つらい……けど……もう、隠し通す事なんて出来ない段階なんだ。


 嫌われても、気持ち悪がられても、無視されても、縁を切られてもーー全部、全部、全部全部全部全部……白状するしかないんだよ。


「異能力が使える犯罪者の集まった犯罪組織だよ。嘘なんかじゃない。六花だって、実際はその特殊指定異能力犯罪組織の一員なんだよ」


「…………もうやめて! それ以上、なにも話さないで! 私の……私の友達、凄い強く殴られたんだよ……生きてるかわからないくらい強くだよ? その原因をつくったのが豊花なんて……いやだ……いやだ! やだやだいやぁっ!」


 裕希姉は、ほとんど半狂乱になりながら怒鳴るように叫び拒絶する。


「裕希姉の前で、私は男たちを三人……刺し殺したのを見てたでしょ?」

「…………うそ、だよ」


 警察官が死体を全てブルーシートに包むと、数人で外へと運び出していく。


 私は裕希姉と目を合わせるのが辛くて、血に染まるナイフに目を下ろす。ナイフの刃を指で拭い、付着した血液を少しずつ刃から取り、手を払い床に飛ばす。


「どうして……警察の人たちは、血の付いた凶器を普通に持ってる……豊花に何にも言わないの? 殺人事件なのに、現場検証とかしないで、死体を片付けてるの?」


「……神奈川県警と愛のある我が家、異能力者保護団体は……グルなんだ。裏でみんな、手を繋いで協力してるーー信じられないと思う。でも、いま目前で行われてる光景を見たら、少しは本当だって、わかるよね?」

「………………………………うん」


 救急車のサイレンも微かに聴こえてくる。

 すぐに音が大きくなり、近づいてきたのがサイレンでわかる。


 裕希姉は、弱々しく頷いたあと、なにも喋らなくなってしまった。


「おい、杉井? 緑色って異能力者は、この女で間違いないか?」


 唐突に後ろから肩を掴まれ、思わず振り返る。


「美夜さん……?」


 そこに居たのは、渋澤さんが言っていた通り、現場に駆け付けた第1級異能力特殊捜査官ーー美夜さんだった。


「そうならそうと、違うなら違うと、早く答えてくれ。ボクだって暇じゃないんだ」

「あ、えっと……そうです。この女の子が緑色で間違いないです」


「はぁ……最近は面倒事ばかりつづいて、魔術の基礎訓練さえ儘ならない状況だって言うのに……まったく」美夜さんは後ろに顔を向けた。「おい! お前たち! 聞いてるか? さっさとこいつを、異能力者研究所まで連行するぞ!」


「あ、はい!」

「わかりました!」


 見知らぬ男女が駆け付けて、二人が脇に腕を通し、美夜さんも協力して、気絶したまま目覚める気配のない緑色を、引き摺るようにして倉庫の外へ運び出した。


「おや? まだ残っていたのか。杉井くん、君たちはもう帰っていいんだがね。遅くなると、打ち明ける時間が足りなくなるんじゃないかな?」

「……はい。帰らせていただきます」


 私は裕希姉に「今はとりあえず、お家に帰ろ?」と伝えた。


 裕希姉は、ただただ小さく頷くだけ。


 と、救急車へタンカーで運ばれる宮下を目にした裕希姉は、宮下へと駆け寄った。


「巻き込んじゃって、ごめんね……私なんかを、助けようとしてくれて、ごめんなっさいっ! ごめん、ごめんね。ごめんなさいごめんなさい……ごめん……なさい……」


 裕希姉は涙を流しながら、救急車に運ばれていく宮下に対して、ひたすら謝罪を繰り返す。意識のない状態の宮下に、何度も何度も、頭を下げて謝罪を繰り返す。


 宮下……私の責任なんだ。

 家族には隠し通せなくなった事情があるから、打ち明けることができる。


 でも、事情を知らない宮下に、果たして沙鳥は、真実を明かす事を許してくれるだろうか?


 ……ごめん、宮下。


 私と裕希姉は、俯いたまま外に出た。

 目の前の大通りで、運良くタクシーを捕まえられた。


 二人でタクシーに乗り込む。


 タクシーのなか。裕希姉は終始無言のまま、なにも言わない。

 なにも、話しかけてこなかった。




 私と裕希姉は、自宅に着くまで、一言も会話を交わさないまま無言の時間を過ごすのだった。


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