想定より早かったな
全てを知る”神知”。だが、この能力は知らなかった。
正確には魔女の呪術で動いている事は知っていた。だが魔女の呪術は体形の無い、いわば気まぐれだ。
例え神知であっても、分かった所で解析まで出来るわけではない。
魔法のように正しい方程式があるわけでもないだけに、おそらく本人にも自覚はないだろう。
しかし完全に使いこなしている上に、その判断の速さ。
どう考えても、ユニークスキルもなしに人間1人で導き出せる数と速度ではない。
――こ奴をいじったのは”魔略”の師匠ではあるが、さてはて、この男を使ってどれほどの実験をしたのやら。やっている事は分かるが、やったことはさっぱりじゃわい。
しかもかなり狂っておるのう……それは魔女であるから当然か。ただそれ故に考えも分からぬ。いつ以来であろうかの、考える事が面白いだなどと感じたのは。
能力、思考……常人とは思えない。
しかも、普段の能力を超えているのに、その自覚すらない。何かのストッパーが働いているのだろうが、不明か……これがワシの限界といったところか。
しかも作った人間が人間だけに、自分でも知らない事がまだ隠されているかもしれないのう。
――もし将来の危険を感じたら、迷わず彼を殺したまえよ。だが、少なくとも戦闘に長けた上位3人は集めるべきだな。もし自分を殺せるものがいるとしたら、人型の魔物か奴だけだろうさ。
”絶懐不滅 ”からの言葉。
幾百年と生きた不敗無双の言葉だ。
しかし――これは無理じゃのう――とも思う。
今仕掛けたら逃げるだろう。そう、このメンツを相手にしても、逃げおおせる未来が見える。
誰も死にはしないが、それは奴が誰も殺さないからだ。そして、復讐にすら来ない。
その理由も分かってしまう。
――危険は危険よ、ケニー。だがその危険が、無意味に我らに直に向くことはあるまいて。こいつは自分の命には何の興味がない。最も、他人の命にも興味はないがの。
しかし、自分たちは王室の武器だ。国家の、ではない。あてがわれた人間によっては身内でも殺し合いとなる。
自分はエナのかけた誓約により守られてはいるが、それもまたお互い様。
他の者が戦う時、ヘイベス王子もそれに協力する命令は出せない。
――難儀な者を抱え込んだものじゃのう、姫様どのよ。
だがむしろ、あの姫様だからこそ、この人の様な深淵の底ともいえるモノを人間にしているのだとも思う”神知”であった。
しかしこれ以上、クラムに思いをはせる必要も時間もない。
突然の爆音が、正門から響く。
吹き飛ぶ破片の音。火の付いた音。地面を転がる重厚な金属音。
「いきなり正門が破られたぞ」
「本当にいきなりじゃな。狙いは――」
「考えるまでもない、レベル屋だ。あの騎士5千は、ただそこを破壊するためだけの特攻隊ろうさ」
「ヒッヒ、さすがに良く頭の回るやつよ」
「他にないだろ。で、俺が色々やっている間にどのくらい兵を集めた?」
「既に分かっておるじゃろうが」
「数だけならな。使える方の数だ」
「暢気なものだな。お前らはこれまでもこうだったのか?」
ハインスとかいう”無色無響”は怪訝そうだが、今までこんな事はなかったよ。
「ヒヒ、ここにこれだけのメンツがいて、この”魔略”が作ったレベル屋の壁に、かすり傷一つ付くと思っておるのかえ? ヒヒヒヒ」
「中からなら軽々と壊しそうな奴ばかりだがな」
「まあそういうでない。しかし参ったのう。正門の守備隊としていた2千の兵が全滅したわ」
「血の匂いで分かるわそんなの。それより、”歪みの繭”まで吹き飛んだぞ」
――普通は分からないのじゃよ。
そう思う”神知”ではあるが、別に口に出しても仕方ないだろう。
代わりに口にしたのは――、
「自分は気にならのかのう? 領主が死んだとなれば大騒ぎじゃぞ」
「首が晒されたら、影武者でしたと言えばいいさ。俺はここに居るからな。しかしそんなこと、気にする必要もないだろう。兜で顔は見えなかったし、もう肉片だ。それより、アレは魔法か?」
「随分と薄情だな。お前の身代わりで死んだのだぞ」
「本物が死んだのなら、花くらい飾ってやるさ。多分な。兵士の方は死ぬのも仕事だ。その位、割り切っているのはお互い様だろう? 合同葬儀と遺族への支払いくらいはするよ」
「確かにそうだな。お前のような割り切りは嫌いではないよ」
「なら話を戻すが、さっきのアレは――」
「そうじゃな。特殊能力という訳ではない。純粋な魔法じゃ。突入した騎士とは別に進んでおるのう」
純粋な魔法だけで巨大な城門ごと兵団を吹き飛ばすのか。
あれだけ考えたのに、いきなり切り札を切って来るとはね。
「屋根の上か。じゃあそっちは俺も行くが――」
「ヒッヒ、まず、お主はここで5千の騎士を討て。もう確認は出来なとはいえ、領主が正門に行ったという噂は流れておる。まずは、それがガセであると知らしめねばのう。キシシシシ」
「軽々と言うが、完全武装の騎士5千だぞ」
「出来よう、ヒヒヒ」
「連中の目的が俺ならな。だがここに突入する事が目的の連中だ」
ここに居る奴らが暴れたら、騎士の攻撃前にレベル屋は廃墟になるぞ。
「それなら心配ない! この”暴鬼”がおるのだからな。ここら一体、全て消し飛ばしてくれようぞ! ハーハッハッハ!」
再びゴチンッという、しかも先ほどより大きな音が響く。
「貴様には考える頭がないのか? ええ!? そんなもの外してしまえ! 取れないなら切り落としてやろうか!」
うん、”無色無響”様はお怒りだ。
俺だって、そんな事をされたら困るがな。
レベル屋は吹き飛ぶし、俺まで消し飛ばされそうだ。
半分くらいは冗談だろうが、半分くらいは本気でやりそうだ。
どうも無色無響”には多少なりとも常識は感じるが、そもそも兵を指揮できない絶対的な”個”の戦力。それが王室特務隊だしねえ。
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