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全員初見だな

 翌日も、レベル屋は忙しい。

 両男爵家が攻めてこようが天変地異が起きようが、俺の日課は変わらない。

 今日もここを守る兵士達のレベル上げだ。

 首都と違って一般兵にまで手は回らんが、指揮官クラスは出来る限り上げておきたい。


 なにせ小規模のレベル屋は、もう各地にある。

 男爵領にもあるだろう。

 まあカースドスパイダーやプリズムポイズンワームの様な大物は無いにしろ、レベル20ほどに上げる店は何件も持っているはずだ。

 兵士の能力差は歴然だな。勝負にもならん。


「さて、では始めようか」


 合図と共に人員が素早く走る。

 今日もいい感じで進めそうだ――と思うが、事前に”魔略”から指示があった。

 本日は清掃と管理のみ。ただもう魔物は満杯だ。さっさと使っていきたいのだが指示とああっては仕方あるまい。

 どうせ碌な事じゃないだろうがね――と思ったと所で、いきなりレベル屋の扉が開いた。


「邪魔をするぞ」


 振り向かなくとも、空気が変わったのが分かる。

 しかし、こんな連中が来たのなら都市に入った時点で分かるものだがね。

 いきなり移動して来たか、わざわざ気配を消してきたか……どちらにしても趣味が悪い。

 ただ、来る事自体は分かっていた。ただ予想外に早かっただけだ。


 昔はレベルが100になると神の領域になれるとか言われていた時代があったそうだが、これは邪神とかの類だろうねぇ。

 従業員の連中は気圧されて固まっているが、お前らはさっさと仕事をしろ。

 後ろの連中も、無駄な威嚇はやめろ。そんな事はしなくても分かっているさ。

 ”怪物どもが揃ってやって来た”って事くらいな。


 ここが攻められる事が確定なら、フェンケの死は避けられない。

 裏切り者の親族として、”神知”が言うように処刑されるだろう。

 ご丁寧に、日数まで教えてくれやがったしな。


 しかもヘイベス王子一行は、魔女の制約によって王命であってもフェンケに手は出せない。

 つまり、彼女への処刑命令を出すのは俺だ。

 だがそうは言わなかった。


 他の者にやらせる?

 ここで第2の権力者は姫様だ。そんな命令出すわけがない。下手すりゃ反乱を起こすぞ、あの姫様は。

 ならもっと上の立場の人間が来るか? このご時世で? 無いね。


 なら簡単だ。それに変わる功績があればいい。

 単なる撃退じゃない。それ以上に、誰もが納得する功績が。

 それは、今まで自分たちではできなかった事。

 ならやることは1つだろうが、それを俺一人にやらせるつもりもあるまい。

 まあ、そう言う事だ。

 だが、甘く見ていた事は反省しないとな。


 振り向けば、白にオレンジラインの鎧を着た御一考。

 言うまでも無いな。王室特務隊だ。それも4人。大男に、何処がとは言わんが大、中、小という感じの女性か……ただ。


「ババアがいないな」


「ハッハー。いいね、聞いていた通りだ。お前の言うババアは別任務でね、いずれ合流する」


 来るのかよ。


「それと相手は伯爵だが礼は尽くさんで良いと言われた。お互い様だし、好まないともな。その点はどうだ!」


 空気を震わす巨声(きょせい)が空気を震わせる。

 さっきから話している奴だな。

 見た目通りの大男。身長はそうだな……185……いや、186センチか。

 もう見るからに筋骨隆々。絵に描いたような戦士ってやつだ。

 背中のマントの間には大斧を担いでいるが、何というか似合い過ぎる。しかも純白だ。

 一見よさそうだが、斧の中央には巨大な目玉。それが興味深そうに周囲のギョロギョロと見ている。

 見た目の良さがあれで全部台無しだ。


「ああ、その通りだ。俺を伯爵などとは思わなくていい。礼儀だの作法だのに時間を食う余裕はない。事はもう始まったのだろう?」


「見事だな。いや、もちろん考えがじゃない。既に事情をそこまで把握している事だ。本番はこれからだが、それは今の段階では厳しい。そこで、今回はこちらも動いたわけだ。自己紹介がまだだったな。自分は”無色無響”。そう覚えてくれればいい。それとこの大男が“滅びの舞い”だ」


 本当に、甘く考えすぎていたな。


 この大男が“滅びの舞い”?

 名前くらいは知っているさ。この世界で知らない様な馬鹿が生きているわけがない。

 王室特務隊ナンバー2。純粋な戦闘力なら、ナンバー5の“暴鬼”、ナンバー1の“鐘の主”に次ぐと言われている。

 だが総合力では“暴鬼”をしのぐからこそナンバー2って訳だ。


 そして”無色無響”はナンバー7。

 もうこの時点で、一人で人型魔族に対処しようと考えていた事が、いかに愚かで夢物語だったかが分かる。

 更に2人。それに俺を加えてようやく対処できるって相手か。

 決めたのは“魔略”だろう。

 少しだが、現実を教えてくれた事に感謝だな。


 それにしても、口調は男性的だが”無色無響”が女性だとは知らなかったな。

 身長はそうだな、161センチメートルほどか。風格からすれば少し小柄だが、全身から騎士というオーラが出ている。

 腰に下げている剣も聖剣だろう。風格といい姿勢といい、理想的な女騎士という感じだな。


 それに、他の2人も女性だ。

 よく来るババアに“神知”と“魔略”。随分と女性ばかりが集またもので。

 黒一点の“滅びの舞い”はどう思っているのかとも思うが、こいつら普段から混浴なんだっけ?

 男も女もないんだろうな。

 それで、残りの2人は何者やら。名前くらいは教えてくれるとありがたいがな。


「ふふ、気になるようですね。わたくしは“変主”。それ以上は不要でしょう?」


 高く澄んだ声。宮廷の謁見上にいる様な上品さと凛とした所作。おそらくドレスを着ていたら、とても王室特務隊とは分からないな。

 今声を覚えたから、もう見分けはつくけどね。


 こちらも細いが、全体的に細い”無色無響”と違って、体のラインははっきりしている。

 というか、出る所は凄く出ていて、引っ込むところはとても細い。

 上背は156センチメートルくらい。見た目は20台後半か。何処まで信じていいのか分からんが。

 顔は分からんが、こういったのは美人と相場が決まっている。

 実際、モテモテの超美人とは聞いている。

 だが本人の素質とかだけじゃなく、かなり戦略的にモテる。男を手玉に取る典型的な女だ。

 それと、実は会いたかった相手でもある。

 姫様を調べた時、チラチラと影に名前が出ていたんだよね。

 何かの関係者であることは間違いない。


 最後の一人は……これが一番薄いな。身長は152センチメートル。

 ”神知”や”魔略”よりは上だが、やはり低いか。

 それと兜の前後から長い髪が見えている。

 あれ、兜を脱いでも顔は見えないんじゃないか?

 それと、武器は細いステッキか。魔法系か?


「ほら、”暴鬼”、自己紹介くらいしないか。相手はここの領主であり、伯爵の地位にいる男だぞ」


「それにひめちゃんのガード様ですのよ」


 ひめちゃん? (セネニア)様の事だろうが、やはり“変主”と姫様は顔見知りか。


 とうか、聞き間違いか?

 今何と呼んだよ。


「”暴鬼”である。ヌシの事は聞いておるし、こちらの事も知っておろう。ならば、この”暴鬼”の戦いに立ち入らぬ事だ」


 完全に子供の声だが、迫力は段違いだ。目の前に”ある”のは本当に人間か?

 もし俺に感情があったらどうするつもりなんだ? 震えていた方が良いのか? ただ俺の事は知られているはずだしなあ。

 そもそも”暴鬼”だと?

 ここにケニーのババアも加わるって、冗談のようにしか聞こえねえ。


 王室特務隊ナンバー2。実質的な副隊長の地位である”滅びの舞い”。

 ナンバー7、”無色無響”。この中では交渉役兼まとめ役なのか?

 姫様がらみで来たか、それとも能力の関係で呼ばれたか……まあ後者だろうが、ナンバー10、”変主”。

 そして王室特務隊の中では、単純戦闘なら最強と呼ばれているナンバー5、”暴鬼”。

 これに合流するのがナンバー4、“絶懐不滅”のババア。


 さてどう返事すればいいんだこの怪物どもに……と考えていたらあ、ゴチンという金属音が響く。

 ”無色無響”が”暴鬼”のヘルメットが凹みそうな勢いでぶん殴ったのだ。


「この城塞都市の領主を威嚇してどうするのだ、馬鹿者。何度同じ事を繰り返すつもりだ! だから”暴鬼”などと言われるのだ。理解しているのか!?」


「これから共闘するのだ。先ずはどんな人間かを知ろうとしてもおかしくないのだ。今までとは違うのだ! それに“絶懐不滅”の言葉も確認せねば、こいつの命は保証できないのだ!」


 なんか酷い事を言ったぞこいつ。

 というか、”暴鬼”が悪口ねえ……まあおかしくは無いか。

 自分の”危機感知”も、そんなもんだろうと言う程度。

 ユニークスキルに本来名前なんてない。

 こんな事が出来るからや、やっているからこんなのだろうという程度の呼び名だ。


「お・な・じ・だ! この馬鹿者が! このたびは”暴鬼”が失礼をした」


 王室特務隊のナンバーや階級は単なる命令系統で序列ではないとは聞くが、よく”暴鬼”を殴れるものだ。

 武名を知っていれば、近くにいるだけでも普通は恐怖の存在だぞ。

 身内だからかねえ。



いよいよ王室特務隊が集まり始めました。

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