銃士vs賢者
「──始めッ!」
──ズダダン!
ケレベルの合図と同時に、日下部蓮太郎は二丁拳銃を構え、二発の弾丸をこちらへ向けて放った。
一発目のそれは全ての防御魔法を破壊し、貫通しながら飛来。
その後ろにもう一つの弾丸がぴったりと続き、一発目が開けた防御魔法の隙間を縫って追随する。
俺の防御魔法は、破壊されると同時に修復されるようプログラミングされてある物だった。
しかし修復するまでに若干のタイムロスがある。
後ろの弾丸は十中八九その隙を狙って放たれた物なのだろうことは容易に推測できた。
「フッ!」
右手の剣で斬り払い、二発ともの弾頭を弾く。
剣に付与されたダメージ変換の付与魔術が起動し、剣が受けたダメージが魔力に変換されて剣身に蓄積される。
それにしても。
「まさか、銃を使ってくるとは思わなかったな……」
ポツリ、と一人言ちる。
この世界において遠距離からの攻撃で主流となっているのは、主に魔法を除けば弓か弩、そうでなければ槍ぐらいのものだ。
一応銃も開発されていないわけではないが、彼の使うような自動拳銃、しかもバレルにライフリングが施されているようなものはまだなかったはず。
だというのに。
これは、きっと自作だな。
にしてもよく作り方とか知っていものだな。
偶々今回のは動体視力強化の付与魔術の効果範囲内で弾が遅く見えたから良かったものの、普通ならなすすべなく射殺されていたところだ。
「やっぱり防がれたか」
チッ、と舌打ちしつつ、銃を腰のホルスターに仕舞いながら案の定とばかりに言葉を吐く。
これが想定通りの結果だというのなら、いくらなんでもSランクを信用しすぎではないだろうか。
「だったら、これならどうだ?」
次に彼がそう言って引っ張り出したのは、明らかに背中には隠しきれないサイズの巨大なライフルだった。
──キュィィイ……!
バレルの中を魔力が巡り、充填していく気配。
以前冒険者だった頃ドラゴンと戦っていた時に感じたことのある、ブレスの予備動作に酷似している。
とっさに爆裂魔法を放ち、追撃する。
──ズドン!
しかし彼は義手に持つ拳銃で迎撃、圧縮された炎弾が真っ向からはじき返された。
チッ、やっぱり術式ごと破壊されるか。
しかし、銃も魔法も数撃ちゃ当たる。
諦めず、今度は発動速度が最も速く、かつ弾速も速い、単純な圧力の弾丸を放つ魔法で迎え打った。
圧縮された圧力の弾丸は実態を持たず、触れたものに有無を言わさず破壊をもたらす不可視の弾丸。
それを雨霰と大量に撃ち込んだ。
──スドドドドドドドドドドドドドド
魔法が着弾すると同時に地面が抉れ、弾け飛び、岩石が宙を舞って、土煙で覆われていく。
土煙が弾丸の軌道に合わせて道を開けるが、すぐに新しい土煙が上がってそれらを隠していく。
しかし、そんな最中であっても、彼は寸分狂わせずに、自分に向けて放たれる魔法の弾丸は、義手に持った拳銃で術式ごと破壊し、位置取りを変更しながらこちらへと回り込みつつ、足元に飛んでくる魔法は跳んで回避していく。
しかもそれと同時に、彼はこちらへと反撃として銃弾を何発も何発もこちらへとものすごい勢いで撃ち込んできていた。
大量の弾丸を剣で弾きながら、魔力を蓄積していく。
あと少し、あともう少し。
そうやって銃弾が飛来してくる方角から彼の座標を割り出して、魔法で迎撃する。
迎撃、迎撃、迎撃、迎撃。
それにしても、視線で弾道を予測しているのか、もしくは魔力が見えているのか……。
真偽はわからないが、相手から魔法の気配が一切しないのは確かだ。
つまりこの行為全てを自分の力だけで、地力だけで行っているのだろう。
凄まじい身体能力だ。
走りながらライフルを構え、タイミングを伺う日下部。
こちらからも土煙でほとんど彼の姿が見えない中、足音と強大な魔力の反応を手がかりに魔法を連射していく。
連射しつつ、魔法の強弱と斑を利用して相手を誘導して──
──ドガン!
突然、日下部の足元が爆発した。
俺が事前に仕掛けていた地雷魔法が発動したのだ。
土煙の中で上がる赤い炎だけが、俺の視界に映し出された。
しかし彼はそれを身を翻すことで勢いを受け流し、そのまま銃口をこちらへ向けて引き金を引いた。
──ズゴォォォォォオオオオ!!
先に相手の魂を覗いてどこを狙っているかを確認し、最小限の挙動で土煙を振り払いながら突っ込んできたビーム砲を回避。
同質量の魔力砲を、さっきまでの銃弾斬りで蓄積させた魔力を使って再現させるべく、いざ剣先から砲撃──しようとした瞬間、背後から何かが迫る気配を覚えて、振り向きざまに剣を振るった。
「──ッ!?」
溜め込んだ魔力が飛ぶ斬撃となって、いつの間にか俺の背後に設置されていた菱形をした盾のような機械に反射して迫っていたビーム砲を真っ向から切り裂いた。
──のとほぼ同時。
──ズダダダダダダン!
その隙を狙って六発の弾丸がこちらへ向かって放たれる。
俺はそれを振り向きざまに、結果として円を描くようにして同じように飛ぶ斬撃を彼の方へと見舞った。
弾丸が全て魔力の熱によって蒸発し、弾け飛んだ。
彼はその斬撃をしゃがんで回避しながらリロードすると、再び数発の弾丸を放ってきた。
また同じ手かッ!
振り抜いたままの腕を強引に戻して弾丸を剣で弾こうと試みる。
しかし、それが剣に触れるか触れないかというギリギリの間合いに来た時、一斉に爆発して俺の剣撃を逃れた。
「ッ!?」
思わぬアクシデントに一瞬対応が遅れた俺は、その爆発によって体がよろめく。
危なかった。
事前に防隔を纏っていなければ、きっとさっきの爆風で頭が吹き飛んでいた。
──ズダダダダダダン!
ここぞとばかりに大量の銃弾が俺に向けて降り注ぐ。
しかし俺は結界魔法で自分の体をその場から押し出すことで緊急回避、着弾を逃れることに成功する。
「よく避けたな」
「避けなきゃ普通は死んでたと思うんですがね」
まぁ、俺の場合は事前にそうなったとしても大丈夫なように、ちゃんと対策用の魔法を使っているんだがな。
……それにしても、なかなかの腕だ。
この俺が、とりあえず試験だからと時間魔法と空間魔法を使わない縛りプレイで相手しているとはいえ、ここまで押されるとは。
俺も、腕が少し鈍ったかもしれない。
そもそも、魔法による防御を貫通してくる攻撃がとても厄介だ。
剣ができたとしても、Aランク程度の実力しかない剣士ならまず見切れないだろう。
少なくとも、初見で見切るのは確実に不可能。
魔法も剣もAランク程度に実力があれば、あるいは防げるかもしれないが……さっきの爆裂魔法もどきの銃弾。
あれは知らなければ対処のしようがない。
銃弾そのものに同じく魔法を貫通してくる能力が付与されていた場合、どう頑張っても避けるしか方法が無くなってくる。
仮に全部避けたとして近距離での組討ちに持っていくことができたとしても、一瞬でも気が緩めば蜂の巣確定。
ガン・カタなんて慣れない人間がすれば、一瞬でこの世とおさらばできる。
あるいは、ケレベルならどう戦っただろうか。
きっと相性が悪いのではないか?
魔法が不得意であるにしろ、剣を魔力で強化したり、剣に纏わせた魔力を振るって砲撃したりは彼女でも可能だろうから、あるいは勝ち目もあったかもしれないが、わからない。
だがしかし、確実に今言えるのは、彼はAランクでは収まらない戦闘力を有しているということだけだろう。
その技量の全貌は、今戦った感じでは、ここでは察することはできない。
なぜならSランクの本領というのは、一対大多数の世界だからだ。
百や千を超える敵兵力に対して、単体で制圧できる能力。
しかしそれを調べる術は今ここにはないし、そんな機会は滅多に訪れない。
だからSランクの冒険者と一対一で戦い、面接で戦歴を洗って、合格か田舎を判断するわけだが。
……間違いなく、彼は合格だろうな。
俺は日下部の方へと視線を向けると、ため息をついて口を開いた。
「日下部蓮太郎さん。
実技試験、合格です。
最初は武器の性能だけに頼っていただけかと思いましたが、戦略もきちんと練れていましたし、実力の方は十分でしょう」
そう告げると、彼はふぅと息をついて銃を何もない空間へと収納した。
と、そこへ観客席から彼の試験を見ていたユノーとプレイサが日下部の方へと駆け寄ってきた。
「……レンタロー、おつかれ」
「おつかれ!」
……やっぱり、遠慮せず時間魔法使っても良かったかな。
目の前でいちゃいちゃと見せつけてくる一行に苦笑いを浮かべながら、そんなことを考える。
「あぁ、ありがとう。
……じゃあ、次は面接だな。頼む」
二人の頭を撫でながらこちらへと視線をよこす日下部。
仕方ない、ケレベルとも約束したからな。
そのかわり、俺も今度は彼女に何か要求することにしよう。
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