剣士vs魔術師
グラウンドには、二人の人影があった。
片方は俺。
そしてもう片方はAランク冒険者のユノー。
彼女の職業はメイジ、つまり魔法使いだ。
魔法による戦闘をメインとして用い、対する魔物を撃破していく。
対して俺は、賢者の二つ名を持つ元Sランクの冒険者。
職業は同じくメイジだったが、剣の扱いにも相当に長けていた俺は、以前は魔法を使いつつ剣も使うといつスタンスで戦っていた。
普通に考えれば、技量的にも俺が負ける確率は極めて低い。
元の世界の知識を日下部から受け取っていて、なんらかの知識を得ている可能性は少なからずあるにせよ、魔法の技術面において負ける要素はほとんどない。
あるとすれば、彼女が能ある鷹である場合だが、さて。
「俺は剣も魔法も使えますけど、どちらで相手をして欲しいですか?」
念のため、尋ねてみる。
あからさまな挑発である。
言い換えればこの質問は、手加減してやると宣言しているようなものだ。
無論、手加減はする。
そもそも俺が手加減をしなかったら、時間魔法を使って彼女の動きを封じて、その間にチェックをかけるという外道な方法を使って一瞬で終わらせるからな。
素材を長持ちさせたり、料理をいつでも出来立てで食べられたり、と、そういう用途でいつも使っている魔法だが、戦闘になるとそういう使い方もできる。
「……じゃあ、剣で」
「わかった」
俺はそう答えると、何もない空間から、至って何のエンチャントも施していない木製の片手直剣を抜き出し、自然体に構えた。
その様子を、互いに準備完了だと捉えたのだろう。
ケレベルは観客席のところから試合開始の掛け声をあげた。
「両者構えてッ、いざ尋常に……開始ッ!」
「……エクスプロージョンッ!」
瞬間、俺に両手を向けて超高速の炎弾が飛来する。
俺はそれを回避すると、更に回避した地点へ狙って放たれる炎弾を斬り払い、更にもう一発と飛来する同じ魔法をくるりと身を翻して回避し、続いて地面の中から突き出してきた岩の刺も同じようにして最小限の動きで回避する。
と、すべての魔法を回避した次の瞬間、後ろで先程の魔法が爆発。
その威力によって先程の岩の刺が爆散し、爆風に乗ってその礫弾がこちらへと飛来した。
「ふむ」
コンボ魔法。
複数の魔法を順番に組み合わせることによって戦術を組む魔法の使い方で、魔法による戦闘では高等技術に含まれる。
彼女が使っている技術はそれだけじゃない。
あの爆裂魔法、起爆するタイミングまできっちり計算されて発動している。
起爆のタイミングまで制御してあの短時間で連射できるとは、はっきり言って俺に追いつくか、さもなければ同等の天才だ。
「──上手いな」
背後からの無数の攻撃。
魔法を使えばどうということのないそれだったが、しかし今はハンデとしてそれを使うわけにはいかない。
なので俺は、その弾道をすべて剣で逸らして誘導し、術者の方へ向かって弾き返すことにした。
「……ッ!」
弾かれることまでは予想していたものの、まさかそのままこちらに向けて返されるとは思っていなかったらしく、一瞬驚いたような顔を見せるユノー。
しかしすぐに防隔で礫弾を受け止めて防いだところを見れば、瞬間的な魔法の術式構築能力にも長けているようだ。
普通のAランクメイジならここまでの瞬発力はまずない。
なぜならメイジは普通、パーティの中で前衛に守ってもらいながら大火力の魔法で敵を制圧するのが仕事だからだ。
しかしこれは間違いなく、ソロでの戦闘すら想定して鍛錬されている。
と、俺はそんな礫弾の影に隠れてユノーの懐まで潜り込む。
しかし、防隔で防いだ時点ですでにその行動は予測されており、防隔で受け止めていた礫弾の弾頭がすべてこちらを向いていた。
──が、彼女が見ていたのは俺の残像。
彼女は残像に向けて弾を放つが、当たらない。
既に俺は彼女の背後に回っており、その細い肩に向けて袈裟に振り下ろ──。
そこで俺は、彼女の片手が、脇腹から背後に向けて、つまりこちらの腹に向けられているのに気がついた。
──油断した!?
いや、油断するようにさっきの礫弾で誘導したのか!?
「……エアバレット」
ニッ、と一瞬微笑んだ顔が、視界をよぎる。
俺は瞬時に剣を逆手に持ち替えると、剣の腹で彼女が打ち出してきた風の魔法を防いだ。
──ダンッ!
防ぐと同時に自分から後ろへと飛び退くことで衝撃を分散させ、着地──しようとした瞬間、地面がいつの間にか氷に覆われていることに気付いて、木剣を地面へと突き立て転倒を防いだ。
うんうん、魔法のコンボの仕方といい、相手の誘い方といい、バレずに魔法を発動させる技能といい、なかなかの戦闘センスだ。
それに、あのエアバレットにはヒヤッとした。
もしあれがエアバレットなんて初級の風魔法ではなく、貫通能力の高いピアシングランスだったり、切断力の高いエアスラッシュだったり、なんてしたら、おそらく並のAランク程度の剣士なら死んでいてもおかしくなかった。
着地しながら、頭の片隅でそんなことを考える。
と、そんな俺に向かって今度はまた火属性の魔法を放ち始めた。
「……エクスプロージョン!」
またその魔法か。
俺は滑りやすい地面の上であるにも関わらず、木剣を構えて炎弾を斬り払い、身を翻して回避する。
そして回避したところに地面から生えてくる円錐状の氷柱を剣で流しながら回避する。
最後に後方で爆発が起こり──って、ワンパターンだな。
まさか、コンボ魔法をこれしか知らない……のか?
爆風によって氷柱が砕け散り、衝撃波に乗って襲い掛かる雹の嵐。
それはたちまち爆発の熱によって溶かされ、水に変わり──水?
いや、違う。
いくら魔法の氷とはいえ、溶けるのが早すぎる。
これは意図的に氷を水に変えたんだ。
爆発の熱で氷が溶けたように錯覚させたのか。
そして、対象人物の周囲に水がある状態で用いられるコンボ魔法は大きく分けて三種類。
その中で今一番警戒しないといけないのは──ッ!?
「……ショックボルト」
ユノーが掌をこちらに向けて、薄く微笑んだその瞬間、爆炎を構成する彼女の魔力がうねり、雷の魔法へと変化。
それは爆風という、いつの間にか指向性を持たせられていた流れに乗って俺へ向かって襲い掛かる水滴一つ一つに感電していく。
その空間を、俺は後方に大きく跳ぶことで回避を試みる。
「ッせい!」
ドゴッ、と少しだけグラウンドに小さなクレーターができるほど踏み込んで、間一髪その感電した水滴の嵐から逃げ切った。
そして空中で身を翻し、地面に着地した。
「そこまでッ!」
と、そこで試験終了の合図がケレベルの方から聞こえてきたところで、俺は木剣を見下ろした。
持っていた剣はいつの間にかボロボロで、もう使い物にならなくなっていた。
これが鋼の剣だったならまだもう少し保ちはしただろうが……。
俺は、剣を何も無い空間に収納した。
観客席の方からはプレイサの、ユノーの勝利に喜ぶ声が聞こえてきている。
「ユノーさん、お疲れ様です。
見事なコンボ魔法でした」
「……ん」
あの最後の魔法。
あれは恐ろしかった。
跳躍して逃げる以外の選択を極限まで潰すことで、相手を無防備にし、そうなったところで一気に畳み掛ける作戦だったのだろう。
普通の剣士なら最初のエアバレットの時点で死んでいただろうし、それを回避できたとしても同じようなコンボ魔法を何弾も重ねられては、魔法が使えない冒険者や魔物にとっては脅威的すぎた。
間違いなく、この実力はSランクだろう。
ただ、同じレベルの魔法使いと戦えばもう少し苦戦したはず。
戦う相手によって結果は変わるのは誰でもだが、それでもちゃんとSに届く実力はある。
「とりあえず、実技試験は合格です。
あとは面接だけですから、頑張ってください」
「……当然」
最後に握手わ交わすと、彼女はニッと笑顔を浮かべて、こちらへ向かってくる義手の青年、日下部の方へと向かって行った。
プレイサとケレベルは、まだ観客席だ。
「よくやった、ユノー」
「……ん。
……レンタロー、頑張って」
「おう、まかせとけ」
通り抜けざまに、拳と拳をぶつけて入れ替わる二人。
見せつけてくれるなぁ、ホントに。
まぁ、主人公なんだし、仕方ないか。
「よぉ、マスター。
さっきは劣勢だったみたいだが?」
「手加減してましたからね」
「それは剣術を、か?」
「……痛いところをついてくれますね」
実際、剣術の方は九割くらいは本気で相手をしていた。
というかそもそも、魔法を封じられている時点で剣術を本気でというのは無理がある。
身体能力強化の魔法だとか、もろもろエンチャント系の魔法が使えたなら問題はなかった筈だが……って、これは言い訳にしかならないな。
相手に完全に誘導されてた時点で、俺は負けてた。
肩を竦めて答える俺に、しかし彼はニヒルに笑いながら右手を差し出した。
「なら、俺は手加減無用で相手をして欲しい。
Sランクのあんたにそれくらいできなきゃ、安心してあのクソ王国をぶっ潰せないからな」
「なるほど。
では、そのようにさせていただきます」
相手の手を握り返した。
手加減無用でって言ってたし、本気でやらせてもらおうか。
さて、どんな戦い方をしてくれるのか楽しみだ。
グラウンドを歩き、互いに距離を取る。
ユノーと戦った時と同じ距離で十分だろう。
十分離れたところまで歩いて、何もない空間から今度は魔鉄鋼製の片手半剣を手に取る。
魔鉄鋼とは、魔力に良くなじむよう、青生生魂という金属と鋼を合金にしたもので、若干青味を帯びているのが特徴の金属だ。
純正のアポイタカラほど魔力の伝導率は良くないが、それだとあまりにも脆すぎるので鋼が混ぜられているのだが……それはまた別の話ということで。
次に今着用している普段着を結界魔法と空間魔法を組み合わせて、瞬間的に装備を変更。
魔鉄鋼製の脛当てと膝当てが付いた黒い革のズボンに木綿のシャツ、それから同じく魔鉄鋼製の肩当てと胸当ての付いた黒い革のロングコート、さらに魔鉄鋼製の長手甲を両腕に付けて、靴も戦闘用のブーツに履き替える。
うん、少しだけ重いが、問題ない。
最後に全身に対して付与魔術をいくつか掛け、右手に持っている剣にもいくつかの付与魔術を施し準備は完了。
全て完了するのにかけた時間は、約二秒。
それだけあれば俺の最強モードは完成だ。
これで、本気で相手ができる。
「準備できたか?」
日下部の方はといえば、既に準備ができていたのか、俺が尋ねる前に向こうの方から聞いてきた。
「お待たせしました。
ケレベルさん、お願いします」
笑って返して、観客席の方に視線を向けながら頼む。
彼女の隣に腰を下ろしているユノーの方を少しだけ伺ってみると、そこには見てはいけないものでも見てしまったかのような、そんな恐ろしげな表情を浮かべていた。
ふむ、この付与魔術の組み合わせの凄さがわかるとは、流石だな。
俺の合図を聞き取った彼女は、うんと頷くと、片手を上げて試験開始の合図を送った。
「わかった。
それじゃあ二人とも構えて……いざ尋常に、始めッ!」
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