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ハニーブルクの喫茶店  作者: 青咲りん
第一章 巻き込まれた勇者と喫茶店
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サボタージュ

「……勇者召喚については、ボクから」


 話してくれたのは、フードの少女だった。

 口を湿らすようにコーヒーを一口だけ含み、話を再開させる。


 彼女の説明を簡潔にすると次のような感じになる。


 まず、通常別の世界からマルクトへと生物を召喚するには、ある程度魂の強いものでなくてはならないという前提があった。

 魂の力が弱いと、そもそも世界の壁を超えてやってくることができないばかりか、無理をすると魂が砕けてしまうのだとか。

 そこで勇者召喚の魔法は、より効率よく兵力となる異世界人を呼び寄せるために、弱い魂を持つ者の魂をこの世界の人物に隷属させることで世界と楔を結び、弾かれないようにしているらしい。


 そう言った原理から、対処療法として隷属の魔法だけを解呪したとしても、魂だけがマルクトに拒絶され、肉体から追い出されてしまう──つまり、死亡してしまう可能性が非常に高いのだとか。


「──以上の理由で、勇者たちを解放するには元の世界へと送り返し、楔を解かなければならないのです」


 説明を聞いて、俺は顎先に指を当てて考えた。

 やはり、俺の師匠が発明した召喚魔法に起源があるように見える。


 あの人も、魂が弱いと渡って来れないって言っていたからな。


 ……でも、だとすると。


 俺は顔を上げて男の方を向いた。


「そういうことなら、協力できるかもしれません」


「本当か!?」


 俺の決断に、男が目を見開いて驚いた。


「でも、さっきは出来ないって──」


「それは元の世界に返す方法のことです。

 しかし今の話を聞いた感じ、どうやらそんな事をしなくても勇者たちを解放することは不可能ではないかもしれない、と感じました」


 楔によってマルクトに固定されているのならば、その楔が結び付けられる対象を変えればいい。

 その上で隷属と洗脳の魔法を解呪すれば、おそらく二人は助けられる。


 そんな俺の返答を聞いて、男はパッと顔を輝かせた。


「それが本当なら、ぜひ協力してほしい!

 藁にもすがる思いだったんだ!」


 一度は諦めかけた理想。

 しかし、俺がその理想へ届かせるための梯子を見せたお陰で、彼は今浮かれていた。


 ……いや、完全には浮かれていないか。

 やはりどこかに猜疑心を持っているように見える。


 彼の魂を覗けば、やはりそれは明らかだった。


 ま、それくらいが十分だろう。

 半信半疑でいてくれた方が、こちらとしても助かる。


「……あぁ、そうだ。

 そういえばまだ名乗ってなかったな。

 俺の名前は蓮太郎。日下部くさかべ蓮太郎れんたろうだ。

 以後、宜しく頼む」


間藤まとうおさむです。

 こちらこそ宜しくお願いします」


 差し出された手を握り、笑顔を交わす。

 正に、勇者解放への歴史的瞬間だった。


「それで、俺たちは何をすればいいんだ?

 できる事ならなんでも言ってほしい」


 改めて、日下部はそう依頼してきた。


「そうですね。

 ではまず、勇者召喚の魔法に使われた術式を採取してきてください。

 それと、勇者本人と、勇者をこの世界につなぎとめてる人物も。

 それさえ揃えば、どうにかできるはずです」


「魔法の術式か……。

 ユノー、何か知ってるか?」


 少しだけ考え込んで、フードの少女に問いかける。

 しかし彼女はふるふると首を横に振って『……詳しくは、知らない』と返答した。


「てことは、やっぱりまたあの国に戻るしかないか。

 どうせ、楔を繋いでる奴も捕らえて来ないといけないからどの道戻ることにはなるが……仕方ない」


 彼は懐からハニーブルク金貨をまた一枚取り出して提示すると、席から立って言った。


「前金だ。

 絶対材料を持ってくるから、それまで待っていてくれ」


 テーブル席に着いていた二人も、彼に続いて席を立ち、後を追いかける。


「承りました。

 それでは、ご武運を」


 カランコロン、とドアベルが鳴って、三人が店を後にする。

 残ったのは、今までの空気を名残惜しむような、静かな空間だけだった。


「……大きな仕事を引き受けちまったなぁ」


 感慨深げにため息を吐きながら、机の上のコインを収納する。


 それにしても、異世界から召喚された奴隷勇者か。

 ラノベみたいなことが自分の身に起こった時も高揚したが、今みたいに同じくラノベのような境遇にあった人を見ると……。


「面白くなってきたな、うん」


 呟いて、一人ニヤニヤと笑みを浮かべる。

 しかし、これはあくまでサイドストーリーのような物だ。

 きっとメインの主人公は、俺じゃなくてあの日下部という青年の方。


 それでも、そんな物語の一部にでも介入できるというなら、それはそれで楽しいし嬉しい。


 久々に湧き上がってくる厨二心に、意気揚々と仕事をこなしていく。

 掃除が終わったら次はゴミ箱にゴミが溜まってないか確認して、備品がなくなっていないかチェックして、といつものルーティンを粛々と辿る。


 ──と、そんな時だった。

 再び、カランコロンとドアベルが鳴る音が聞こえてきてそちらの方を見やると、見覚えのある人影が立っていた。


「いらっしゃいませ……って、ケレベルさん」


「やぁ、マトー。

 今は二人きりなんだから、敬語は無しにしないかい?」


 店にやってきたのは、俺と同じくらいの背丈の銀髪のハーフエルフで、銀光の二つ名を持つ元Sランク冒険者にして現ハニーブルク支部のギルドマスターを務めている元パーティメンバーだった。


「それもそうか。

 ……で、どうしたんだ、こんな時間に。仕事は?」


「ちょっと息抜き」


「サボったのか……」


 目を逸らしながら言う彼女に、肩を竦める。

 すると彼女はそんな俺の言い方に『心外だ!』とカウンター席のテーブルを叩いて身を乗り出した。


 今日はよくテーブルを叩かれる日だな。


「息抜きってのはついでだよ、ついで。

 本題は別だよ。

 ……とりあえずコーヒーくれよ。

 ブレンドはいつもので、砂糖多め」


「かしこまりました」


 きっと本音は逆なんだろうなぁ、とか考えつつ、カウンターに設置していた豆を数種類すくってコーヒーミルに入れる。


「他には?」


「じゃあ、チーズケーキ。トッピングはブルーベリーと生クリームで」


「りょーかい」


 魔法の冷凍庫から出来合いのものを引っ張り出し、生クリームをホイップして、その上にブルーベリージャムを垂らして台座を整える。

 最後にクリームの頂点にブルーベリーの実をデコレーションして、完成。

 ケレベルの前にケーキを出した。


「相変わらず料理上手だなぁ、お前」


「そう素直に言われると俺も嬉しいよ」


 言いながら豆を挽く。

 ゴリゴリゴリという音が機械から漏れて、静かな店内を満たしながらコーヒーの香りを振りまいている。


「んで、ここに来たついでの理由なんだけどさ」


 フォークでチーズケーキを切り分けながら、話題転換を図る。

 その出だしを聞いて、そういえばバイトを募集したのって昨日だったか、とか、もう揃ったのか?仕事が早いな、とか一瞬考えたが、多分きっとそれじゃないんだろうなと考えを改めて相槌を打つ。


「今Sランクに昇進したいってAランクの冒険者が来てて……めんどくさいから、かわりに試験官やってくんない?」


「なんでそんな唐突な……」


 相手が誰なのか大体予想つくけども。


「あのなぁ、ケレベル。

 俺だって忙しいんだ。出てる間に客が来ないとも限らないし、放課後にやってくる学生に売るための菓子だって焼かなきゃいけない。

 だいたい、ギルドの仕事なんだから自分でなんとかしろよ」


 ギルドマスターの仕事。

 そのうちの一つが昇級試験の監督役、つまり試験官だ。


 一応、各ランクに昇進するためにこなさなければならない課題というのが決まっていて、本来はそれに従って審査されるのだが……いかんせん、Sランク昇格となるとそれを審査する審査員が少ない。

 なぜならSランク昇格の為には、Sランクと同等の力量を持つ人物が請け負わなければならないからだ。


 そのせいか、だいたいの冒険者はAランクで頭打ちになる。


 ……そもそも、Aランクまで上がれたからといって、Sランクに昇進するのは簡単な話ではないのだが。


「ちなみに、相手の職業は?」


 とりあえず参考程度に尋ねる。


「確か、アーチャーとメイジ、だったかな」


「……アーチャー?」


 メイジはわかる。

 多分あのフードの少女だ。

 名前は確か、ユノー。


 昨日初めて会った時、俺に対して魔法を行使しようとしていたし、その練度も速度もなかなかのものだった。


 それがメイジと言うのならまだわかるが……あの男。

 俺と同郷の人間、日下部蓮太郎。

 あの義手の男がアーチャーには見えなかった。


 アーチャーとは、文字通り弓使いだ。

 弓を使って狩りをする冒険者で、戦闘職の中でも支援職寄りな立ち位置に類する。


 あのパーティの組み合わせでアーチャー。

 なかなか、興味深い。

 というか、普通にどれだけ戦えるのか興味が湧いてきたな。


「ふむ。

 臨時休業続きで乗り気はしないが、そういうことなら引き受けるのも悪くないか」


「え、ホントにっ!?

 いやぁ、ダメ元でも一応聞いてみるもんだなぁ、相棒!」


 ニヘラ、と緩んだ笑みを向けるケレベル。

 その表情に一瞬ドキッとしそうになるのを顔中の表情筋を総動員して隠蔽する。


 元がかわいいんだから、こういう不意打ち的なの本当に困る。

 ……俺、ちゃんと隠せてたよな?


「それで、いつやるの?」


「今でしょ。

 何言ってるの、今来てるって言ったじゃん」


 ──と、そんなこんなで一時閉店。

 看板にはとりあえずランチタイムには間に合わせるよう努力しますという旨を書き残して、店を出て試験会場へ向かうことになった。


 冒険者の昇格試験は、主にマナーを確認するための筆記試験と、戦闘の実力を測る実技試験、それから試験官との面接の三つからなる。


 今回試験に参加するという二人の冒険者は、既に最初の試験を合格していて、残すは後の二つのみとなっていた。


「できれば面接もお願いっ!」


「お前、そんなのでよくギルマスが務まるよな」


「てへっ?」


「てへっじゃねぇわ。

 つぅか、面接だけならわかるが、どうして実技試験まで俺が?

 お前、戦うの得意だっただろ」


 試験会場である地下闘技場へ向かう最中さなか、ふと疑問に思ったことを尋ねてみた。


 ケレベル。

 彼女はハーフエルフの元Sランク冒険者で、俺の元パーティメンバーだった。

 だから彼女のことはそこらへんの人より少しは詳しい。

 例えば、彼女がなぜ銀光なんて二つ名で呼ばれているかも知っている。


 銀光のケレベル。

 彼女はハーフエルフであるにもかかわらず、いや、だからこそと言っていいのか、魔法が苦手だ。

 しかし彼女には、それを補って余りある剣の才能があった。

 その剣の閃きは正に太陽の光に反射する刃の銀光そのもの。

 鋭い一閃は光の速さに達すると噂されるほどの細剣使い。


 そして、根っからのバトルジャンキー……だったはず。


「それは……まぁ、ちょっとした理由があると言うか」


「?」


 明後日の方向へと視線を逸せながらはぐらかすケレベル。


 一体、何を隠してるんだ?


 そんな疑問について答えを出す間もなく、二人は地下に続く階段を降り切った。


 一気に視界が開ける。

 少し大きめの体育館くらいはありそうな大きさの長方形のグラウンド。

 それを囲むように立つ対魔レンガという特殊な紫色のレンガの塀があり、その後ろにはさらに四段の観客席がずらりと並んでいる。


 俺たちが出てきたのは、そんな観客席の最上段、短片の下手後方の出入り口だった。


「待たせたかな」


 そんなグラウンドの奥の方で何やら話し合いをしていたらしい四人組に、ケレベルが声をかける。

 四人のうち三人は見覚えがある。

 日下部一行だ。

 ユノーと呼ばれていたあのフードの少女は、今は素顔を晒していて、最初は誰かわからなかったが……。

 意外とかわいい顔をしている。

 金色の髪に赤い瞳。

 そして顔が小さいし童顔だし……。


 もしかして日下部、あいつロリコンなんじゃ……?


 残りの一人は……ギルド職員だな。

 黒い髪のサイドアップに吊り目気味な黒い瞳。

 スレンダーな体格の背の低い女性だ。


 ……日下部のロリコン疑惑が深まったな。


 職員はこちらが近づいてくるのに気づくと、ケレベルの方を見て、それから俺の方を見て少しだけ驚いたような表情を見せた。


 しかしそれも一瞬の事で、彼女は頭を下げるなり二言三言ケレベルと言葉を交わしてその場を後にしていった。


「試験監督は銀光だと聞いたんだが」


 日下部が口を開く。


「押し付けられたんですよ。

 全く、仕事が忙しいって言うのに」


「いいじゃないか。

 どんな戦い方するのか、気になってたんだろ?」


 クフフ、と揶揄うように笑いながら肩に腕を回すハーフエルフ。


 そんな様子の俺を見て、大体察したのか同情するような目で俺の方を見た。


「……レンタロー、ちょっと楽しそう」


「ねぇ、レンタロー、どうして楽しいの?

 私、気になる」


「ちょっと思い出しただけだ、気にすんな」


 怪訝な反応を示すプレイサの頭をわしわしと義手の方の手で撫でて黙らせる日下部。

 もしかするとアマイモン王国にいる二人の勇者の事でも思い出していたのかもしれない。


 プレイサは訳の分からない彼の反応に疑問符を浮かべつつも、撫でられるのが気持ちいいのか、ふわふわと笑みを浮かべて目を細め、抱きついた。


 ……ハーレムとはいい御身分だな。

 ちょっとくらい本気を出しても怒られないよな?


「さて、いちゃいちゃはそこまでにして、お二人さん。

 どっちから試験を受けるんだい?」


 そんな雰囲気に幕を落とすように、ケレベルが尋ねた。


「……レンタロー、ボクが先にやりたい。

 ……だめ?」


 進み出たのは、金髪灼眼の少女、ユノーだった。


「いや、構わないさ。

 俺は後でも十分」


 言って、生身の右手で彼女の頭をポンポンと叩く。

 叩かれた方も満更ではないらしく、少しだけ頬を赤く染めていた。


 ……垂らしか。

 垂らしなのか。

 さすがなろう系主人公、補正がすごい。


「よし、順番は決まったね。

 それじゃあ残りの二人は私と一緒に観客席へ行こうか」


 こうして、俺のSランク昇格試験監督としての仕事が始まった。


 ここまでお読みいただき、誠にありがとうございますm(_ _)m

 もしよろしければ、ここまで呼んだついでに感想、いえ、評価だけでもしてくれたら嬉しく思います。

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