異世界にて、幼女
ふわふわとした空間の中で、今までの人生の記憶が駆け巡る。
両親、家族、親友、友達、尊敬する人々など忘れていた人や物までも蘇ってきて感慨深い。
そんな人生の終着点は――魔王。
超ドストレートな外見に、開けてみれば中身もど真ん中。
もうこれは愛を叫ぶしかないと突っ走った結果死ぬような結果になったけど、思いは伝わったから別にいっか――
って死んだ?
ブツンッと強制的に思考が移動される。
そうして流れ込んできたのは、どこか誰かの子供の記憶。
両親の取り上げられて、生まれた赤ちゃん。馴染み深い黒い髪と白い肌、瞳が印象的な赤子。
両親に愛されて日々を過ごすが、何故かその両親は子供とは違う髪色、瞳の色だった。
子供の瞳の色は黄色だった。大きな目に黄緑色が淡く光って黄金に輝いているような神秘的な瞳。
両親とは何もかも違うその子に、しかし両親は愛情を捧げた。
それを、どうしてか何処までも嬉しく思った。
だが、その家族が住んでいる村は彼らを受け入れはしなかった。
不思議な外見の子供――女の子らしい――少女は蔑みと畏怖の対象になった。
村は小さく、村長が中心となった昔から続く、外とは接触を絶った村だった。
それが意味するのは、村の意見一つで全てが決定されるということ。
結果的にその少女がいる家族は、焼き討ちにあう。
子供の記憶が流れ込んでくるからか、感情が少女と一緒に煽られる。
――熱い。熱い。ママ、パパ、どこ?
ママとパパは死んだ。
黒い炭となって、物言わぬ亡骸になった。
『私』は生き延びた。
両親に言われ、押し込められた棚の中で大人しくしていたら、そこだけは何故か燃えなかった。
少女を見つけ、恐怖した村人達は私を殺そうとせず、森の奥深くに捨てていった。
――それが8歳になる今の話。
「……生きてる」
目を開いて、周り一面に生える木々を視界に納めて、自分の一回りも二周りも小さい手を見て、そう呟いた。
えーと、とりあえず、思考も出来て足もあって、色々記憶の混濁はあるが、一応は生きているということでいいのだろうか。
なんだか最近、忙しなく人生が過ぎているような自覚があるので、こんな事態が起きてもあまり混乱しなくなってしまったようだ。凄い、私超冷めてる。
冷静とまではいかないが、なんだか色々諦めて事態を把握しようと頭を働かせている時点でこういうのに慣れてしまったということなのだろう。
それに悲しめばいいのか、ハプニングいっぱい☆と開き直ればいいのか分からないが。
とりあえずは現状把握だ。今までのことも含めてきちんと理解しなくてはならないことが多いから、1から思い出してみよう。
1に、私は異世界にやってきた。
これは、魔城に挑む寸前でやってきたのだと推測される。
行き成り全感覚がリアルになったのはあそこからだし、一緒にいた仲間も消えてしまった。
それから考えると、彼らが消えたわけではなく、私だけがこちらの世界に飛ばされてしまったと考えていいだろう。
2に、私は死んだ。
魔王に殺されたわけではない。なんだかんだいって、私は彼から攻撃を一つも受けてなかった。だってあの攻撃全部致死だからね。
結局は自業自得で死んだわけなのだが。死因は毒と腰断裂と内臓破裂だろうか。ボロボロだな私。
3に、私は生まれ変わった。
これは、今だよくは分かっていないが、おそらくそうなのではないだろうか。
所謂『転生』的な。あれか、私が最後の最後で神頼みで信じたから神様がお情けで生き返らせてくれたのだろうか。僥倖!
とまぁ理由は分からないが記憶はそのままにまた生まれたらしいことは確かだ。
何故か8歳まではスルーで記憶だけ貰ったわけだが…。
だがその方がよかったかもしれない。子供らしく、というのはなかなか難しかっただろうし、この身体の両親から見ても、子供らしくない子供は気味が悪いだろう。
だが、とりあえず――村の住人は私的ブラックリスト入りだな。
そうしてこう考えて分かるのは、この少女の身体が――確かに『私』のものらしい。ということだ。
子供のころ、私という意識がなかったときの8歳までの記憶の中で、感じた感情が確かに私自身に感じられる。
だから両親には感謝しているし、愛してもいる。そしてその幸せを焼き払った村人には憎しみも持っているし、両親の敵を取ってやりたいとも思う。
…まぁ何も出来なかった私がとにかく言えることじゃないけれど。
これは、保留しておこう。機会があったら、ということで。
4に、このままじゃ飢え死ぬ。
そうだね。プロテインだね。じゃなくて。
この身体は、村人に忌み嫌われ、両親とまったく違う外見をしていようとも、ヒトであることに変わりは無い。
両親を見る限り、亜人種や天使、魔物の類ではなさそうなので、ヒトの中の人間なのだろう。
ならば水を飲まないと喉が渇くし、何日も食べ物を食べられなければ飢えるだろう。
幸いにここは食料がありそうな豊かな森だが――村人の話を回想すると、随分と危ないそうで。
この世界での『モンスター』の類が大量にいるようだ。死ねと?
5に、私は何がなんでも魔王に逢いに行かなければならない。
絶対だ。これは絶対だ。だって逢いに行くっていったからね。あの時はちょっとした慰めでだったけれど、今はその言葉どおりまた新たな人生を授かったんだ。これで逢わないわけがない。
世界も一緒だし、きっと魔王も存在していることだろう。というかしていなかったら色々終わる。主に私の人生が。
だって折角(無理やりの超強引だったが)想いが伝わって両思い(どうしよう考えただけでも頭が沸いてしまいそうだ)になったというのに、それでもう一度逢えないとかなったら私世界に喧嘩売るぞ?やり方は知らないけど。
あー…にしても本当に魔王、愛してるって言ってくれたよね。なんかツンデレ風だったけど、言ってくれたよね。
どうしよう。本当に嬉しすぎる。逢ったらどうしよっかな。外見が変わっちゃってるから、直ぐには気付いてもらえないかな。いや、でもそこは愛のパワーでどうにかして…でも直ぐには逢えないよなーあそこ(魔城)まで行くのにどんな困難が待ち受けていることか。
でも私、今は一介の少女に過ぎない、8歳だし。少女でもないな、幼女か。
以前の名残があるとすれば、この淡い黄色の瞳だけだろうか。瞳孔は縦に割れてはいないが、その色は以前の『シオン』の瞳と瓜二つだ。
髪の色は――鴉の濡れ羽色。要するに真っ黒だ。艶やかで、綺麗と言えば綺麗だが、シオンの面影はまったくなく、どちらかといえば初期設定したシオンに転生する前の女キャラクターの髪の毛そっくりだ。
――と、なんだろう。重要なことを忘れているような気がする。
今はそんなことを考えている暇はないはずなのだが、どうしようもなく気になるのでちょっと確認してみよう。
私は今幼女だ。それはまぁいい。ヒトで、人間。これもいい。
……そういえば、魔王と出会ったときのシオンはどうだっただろうか。
愛の言葉を口にして、最終的に落としたわけだが……うん?そういや、シオンの身体って男じゃなかったっけか。
竜神族の雄。類希ない美貌を持ち、中性的だがその逞しさで男らしさを主張する男前。
そうだ。シオンは男だった。それはいい。それはいいのだが……。
魔王も男だったよね?
「亜f歩psgじゃソjあ―――魔王ってゲイ!?」
頭を抱えた。その場でうずくまった。もだえ苦しんだ。
嘘だろ。そんな馬鹿な。っていうか、なんというか自身のキャラクターが男だというのに気にせず口説いた私も私だが、受けちゃった魔王も魔王だと思う。
マジで!?魔王ゲイ!?なんていうか言い方悪いけどゲイ!?
そういえば告白の最中に結婚は男同士も出来る――と思って開き直っていた気もしないでもないが、それは私が精神的に女だと分かってもらった上での結婚であって、心も身体も男だという認識の上で成立する結婚ではなくてですね。
傍から見れば年端も行かない幼女が森林の中、草むらの上で悶え苦しんでいる図だろうが、今の私には関係ない。
だってここ誰もいないもの。今だけは森の奥深くに置いていった村人達に感謝しよう。それでも憎悪は桁違いですけどね。
一通り転げまわって、むくりと身体を起こす。因みに体制はorzだ。
……そうだ。何か間違いがあるかも知れない。
そんな希望をもって、あのときのことを思い出す。甘く切なく幸せで、色々幸せすぎて吐血しそうなあのときを、ちょっと回想してみよう。
――彼の膝に寝かされて、死にそうになりながら既に目も本来の働きを果たしていないというのに見える彼の顔。
その顔は今にも泣きそうで、そうして彼はそんな顔で言った。
『ああ。愛そう。愛してやろう。だから、死ぬな』
……もうさ。男とかどうでもよくない?
確かに魔王はどこからどうみても男で、本当は女でした。っていうオチはなさそうだ。
そうして私も男だったさ。シオンというキャラクターのままこの世界に紛れ込んだのだから、それは当然だ。
だが、魔王は男でも『私』を愛してくれた。ならもうどうでもよくね?うん、いいよ。どうでもいい。
ただ重要なのは!魔王が!私のことを愛してくれるって言ったことだけなんだから!!!
ほかはもうどうでもいい。彼さえいればようどうでもいい。というかこの世界で彼以外の支え今のところないし。
よしよし。万事解決。それに今私少女=女だし、本当に問題はなんにもないよね?
…少々外見の変わってしまった私に対する魔王の反応が気になるが、そこはやっぱり愛の力でゴリ押しで行こう。
いざとなれば私が婿役でも万事OKだ。バッチ来い。
一応の今の現状はまとめ終わっただろうか?
1異世界にやってきた。
2,3一度死んで生まれ変わった。
4このままでは飢え死ぬ。
5魔王に逢わなくてはいけない。
まぁ、分かりやすいといえば分かりやすい。
そうして、こんな現状の中で私は何をしなくてはならないかというと。
―――先ず生き延びられる方法を見つけなくては。
道も何も分からない森の中で、一つため息をつく。まだまだ道のりは長そうだ。
とりあえず、この話はここで終わりです。
続きが読みたいという心の広いお方がいましたら、感想を下さい。
気力を振り絞って書く可能性も…ある、のか…!?
修正しまくりました…(汗)