【第八話】事後と事前
「はぁーー」
脱力。と同時に勿体なかったかも、とか思ったりする自分もいたりして。まぁ、仮に受けてもそんな人とはできません、とかになってた可能性が高いか。なんにしても丸く治って一安心だ。
ピンポーン
「ん?なんだ?忘れ物かな。はいはーい」
てっきり三人が返って来たのかと思ってドアを開けたら、そこにはマスターが立っていた。
「あれ?マスター?僕の家知ってたんですか?」
「話は聞いてるから。でだ。どうだった?」
「どうって……。大変でしたよホント……」
「俺の嫁さんの誘惑に勝てるなんて信じられないな。本当はどうだったんだ?」
「何もなかったですって。それで三人で買い物に出てますよ」
「ほぉう」
「まだ疑ってますね……。何をしたら信用してくれますか」
「いや。大丈夫だろ。ところで真冬ちゃんのこと、どうするんだ?」
「真冬ですか?」
例の期限付きの話だろうか。そう思って僕はあと二ヶ月で一応の答えは出すつもりだ、と返答したのだが、実際問題はそういう事ではないらしい。
「真冬ちゃん、お母さんが迎えに来ただろ?なんの事情なのか分からないけど、すぐに連れ戻すんじゃないのか?」
「え?そんなことを言っていたんですか?」
「直接は聞いていないが、真冬ちゃんが少々焦ってたからな」
後二ヶ月、そう思って少し余裕を持っていたつもりだったが、そうもいかないらしい。そもそも仮に真冬を選んだとして、僕は海外に行く腹づもりはあるのだろうか。
「仮に真冬ちゃんを選んだとして、健斗くんが日本にいて欲しいって説得したら、真冬ちゃんは日本に居続けるんじゃないのか?」
「でも僕のわがままで真冬のキャリアを壊すのは……」
などと話していたら四人が帰って来た。
「あれ?あなた。呼んだっけ?」
「呼ばれてないな。ちょっと健斗くんが困ってるんじゃないかと思ってね」
「そう?、まあ、あなたも朝ごはん食べていきなさいよ」
ここは僕の家なのだが、決定権は無いらしい。そして狭いキッチンに四人で作業をしようとするものだから入り切らずにいた。
「そんな狭いところでむりですよ」
「何とかなってるから大丈夫よー」
真冬のお母さんからそんな声がした。まぁ、大丈夫っていうならそれで良いか……。
「ところでマスターは奥さんとどこで出会ったんですか?やっぱりお客さんですか?」
「俺がな」
「ん?」
「俺がお客。彼女のお店だったんだよ。俺が店にに立つことになって、かなり改装したがね」
「あれ。それじゃ大工カフェって新装オープンだったりしたんですか?」
「そうだよ。君が大学に入る前の話になるけどね」
「マスターが惚れて声をかけたんですか?」
ちょっと気になった。
「いや、彼女の方かな。会計をしてたら紙を渡されてね」
なるほど。良くあるパターン……。
「その紙には、私は一生あなたのもの、なんて書いてあってさ」
「惚気、ですか?」
「惚気、だな。でも健斗くんは今、真冬ちゃんと文香ちゃんの両方から言われてるんだろ?それを友達にでも話したら、もっと贅沢って思われると思うよ」
確かにそうなんだが。モテるって羨ましいって思ってたけど、いざ自分がそうなると迷うというよりも困る、のほうが強く感じる。どちらを選んでも残される人間が生まれるわけで。いや、こう言う時は徹底的に振ってあげたほうが良いとも聞くし……。さて、どうしたものかな。
「ご飯できたわよ」
と、出て来たのは旅館の朝食か、って感じのものだった。あの狭いキッチンで良く作ったものだ。
狭い丸テーブルでは三人が使ったら満員になる。なのでマスター夫妻は家に、真冬のお母さんはホテルに帰るとなって、先ほどの三人に戻ったわけで。
「なあ、真冬」
「ん?なあに?」
「お母さんが来たのってさ、やっぱり」
「様子見だと思うわよ。すぐに連れ戻すとかそういうのじゃなくて」
「そうなのか。てっきりそんな感じの話なのかと思ってた」
「でも、結局はロスに帰らないといけないから……」
「そう。それ。僕も大学があるし、遠距離になるの?」
「そうねぇ……」
そう言って真冬は文香の方をチラッと見た。言わんとしてることは分かる。仮に真冬と一緒になっても日本には僕と文香が残る。文香にしたらチャンス以外の何者でも無いはず。しかし、それは僕が浮気をする前提になるが。そうはならないようにしようとか思うけど、目の前のナニカに負ける可能性もある訳で。
「真冬はさ、なんで日本に帰ってきたの?」
「なんでって。健斗に会いにきたに決まってるじゃない。でも文香ちゃんがいるとは思わなかったから……」
「そう。それなんだけど、あの時、僕と文香がそういう関係だった場合はどこに行くつもりだったの?」
「うーん。それは考えてなかったから一泊だけお願い!ってやってたかも」
ここまで僕のことを考えてくれるのは嬉しいが、僕の気持ちはどこに置いてあったのだろう。幼馴染という関係はどこまでのことを言うのだろうか。
「ねぇ、健斗」
「ん?なんだ文香」
「仮にだけど私と付き合うことになったらどうなるの?」
「どうなる、とは?」
「その……。住む場所とか」
「住む場所?」
「だって真冬ちゃんと付き合うことになったら一緒に住むつもりだったんでしょ?」
「まぁ、ほっぽり出す訳にもいかないしな。でも一緒に済んだからってなにが……」
「何がある訳じゃないって?本当に?目の前にエッチな女の子が居ても?」
「それはさっき大丈夫だっただろ」
「さっきのは異常事態じゃない?二人きりだったら状況は違うじゃない?」
「健斗はそういうのがいいの?」
真冬がちょっと困った声を出した。てっきり対抗してくるかと思ったのだが。
「別に……。あ、いや……真冬に魅力を感じないとかそう言うのじゃなくてだな……」
「私は?」
文香が聞いてくる。ちょっと腕で胸を寄せながら。
「そういうのはずるいだろ。嫌いな男子はいないだろ」
「健斗は大きい方がいいの?」
マズイな。変な方向に話が流れていってるな。修正しよう、と思ったのだが……。
「あ、いや、そういうわけじゃなくてだな」
「だってこの前見たでしょ?でもそういう感じになってくれなかった」
「あれは不可抗力で……」
「何かあったの?」
当たり前のように文香が聞いてくる。かといってシャツの隙間から見えてしまったとは言えず。
「あ、いや、ホント不可抗力だから!何もなかったから!」
「見たんだ。覗いたの?いやらしー」
覗き見えたのはそうなんだが、自ら進んで見たものではないし。と、言い訳を考えていたら文香がシャツのボタンを一つ外した。思わず目線がそちらに向く。
「あ、やっぱりいやらしー」
「そんなことされたら見ちゃうって!そういうのを不可抗力って……」
「じゃあ、この後に二人が脱いで迫ったら不可抗力で?」
「それはさっき……」
とキョドっていたら文香と真冬が目線を合わせて頷きあっている。これは嫌な予感が……。




