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逢魔が時の約束〜約束の続きを、夏の終わりに〜  作者: PeDaLu


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【第九話】曜日毎の彼女

「だからちょっと待って!マジで待って!」

 ベッドの上で壁に背中を押し当てて手を前に出す。と、その前と横には四つん這いになって迫る二人の女の子。

「真冬も!そんな格好してるとまた!」

「見る?」

 そう言って襟首を引っ張る。見える下着。僕は顔を斜め上にあげて目を閉じた。見えない見ない。が、それがいけなかった。一気に距離を詰められて胸元と右肩に手があてがわれてしまった。

 見ない見ない。見てはいけない。と、右腕に柔らかい感触が。これはもしかして……

「あ。ずるい」

「ひゃっ!」

 今度は半パンの内腿に手が。ちょっと冷たくて声が出てしまった。

 これはどうしたら。

 と、僕の胸に頭が押し当てられるのを感じた。

「ねぇ、健斗、私たちはどうしたらいいの?待っていればいいの?」

 真冬が聞いてくる。確かにこうして待たせ続けるのはよくない。出来るだけ早く結果を伝えるべきだろう。でも今の僕には冷静な判断ができる場面ではない。

「いいのよ……このまま続けても……」

 右耳の至近距離で文香が呟く。吐息が感じられて妙に艶かしい。これはどうするのが正解なんだ?そもそも正解なんてあるのか?と、この時の僕には答えなんて持ち合わせていなかった。


「結局こうなるのか……」

 なんとか堪えて二人を落ち着かせて。でも譲歩案として腕枕を要求された。ってことで今は両腕に左右それぞれ真冬と文香が寝転がっている。かれこれこの格好で一時間は経過しただろうか。ちょっと痺れてきている。当の本人たちは静かな寝息を立てているものだから腕を引き抜く訳にもいかず。

「はー。なんとか乗り切った。のか?なんにしてもはっきりさせなくちゃいけないよな」

 左右で静かに眠る女の子を感じながら自問する。しかし、恋人っていうのは何を基準に考えて選べば良いのだろうか。そもそも選ぶという状況がレアケースな気がする。かと言ってそうだんできるような人は……。

「マスターに相談するかなぁ」


 結局、その晩は僕もいつの間にか寝落ちしてしまって。朝になったら二人とも部屋から居なくなっていた。

「はー……。なんか疲れた……」

 贅沢な疲れ。これ以上にないであろうシュチュエーション。自慢するような相手は居ないものの、世間一般的には自慢できるものだろう。

「いやいや、そんなことじゃなくて」

 僕は頭を振って咳払いをした。いい加減、この先に進まれる前になんとかしないと。二人きりになったらいよいよって感じになりかねない。


「あ、いらっしゃい」

「あれ?マスターは?」

「風邪ひいちゃって。だから今日は私がお店やってるの」

「そうなんですか」

「昨日はあの後、何かあった?」

「真冬から何か聞きました?」

「なにも聞いてないけど、聞くような話があったって事かしら?」

「や……。まぁ、はい。あ!でも!」

「最後の一線は超えなかった、って感じかしらね。その歳でよく我慢できるわね。私だったら魅力ないのかなって落ち込んじゃう」

「そんなものですか?」

 真面目に聞いてしまった。半ば冗談だっただろうに。でもそれが分かった上で答えてくれた。

「自分の心を開いてるからそんなことをするのよ。だから早く安心させてあげて」

「それは真冬と文香のどっちの事を言ってますか?」

「さあ。どちらでしょう」

 今の返答を鑑みるに、どちらかを推している可能性がある。相談するにしても難しいな。僕は珈琲を一杯飲んでから講義に向かった。


「なぁなぁ、この前のあの子は来ないのか?」

 席に着くと顔は知っているが名前がわからない男子に聞かれる。あの子って真冬のことだよな。

「今日はモグリないよ。どこに行ってるのか分からん」

「なんだ。そうなのか。な、今度あったら紹介してくれよ」

 そんな機会があったらな、と答えようとしたところで教授が入ってきたので席に戻って行った。真冬はやはり普通にしてたらモテそうだもんな。それに加えて先日の立ち振る舞い。モテない方がおかしい。文香も人気がある、ような気がする。ちょっと聞いてみるか、そう思って講義が終わった後に見知った顔の同学年の女の子に文香の様子を伺う。

「あの。ちょっといいですか」

「えっと……」

「あ、すみません。三宅といいます。文香のことで……」

「あー。私も相談されたのよ。あなたどうするの?」

 どうやら文香から相談でもされたようだ。困ったな。こっちが相談したかったんだけど。でもちょうど良いかもしれない。

「変なことを聞くようだけど、文香って人気あるのかな」

「ホント変なこと聞くわね。あるんじゃないかしら。でも、あの子、あなたの事を好いているって雰囲気バリバリじゃない?だから誰も手を出してないって感じかなー」

 予想していた通りの答えで少し困ってしまった。やはり側から見てもそう見えるのか。

「それと、この前の女の子いたじゃない?モグリで一緒に来てた。あの子って三宅くんの彼女だったりするの?」

「そういう訳じゃないんだけど、幼馴染って感じ」

「あー。もしかして?それで私に相談?客観的な意見を求めて、みたいな?」

「ええ。まあ」

「うーん。正直私は二人のことをよく知らないから、そういう方向の話は出来ないけれど、客観的に二人の女の子から好意を寄せられている、という問いに関しては一言だけ。二股だけは絶対にやめておいた方が良いわよ。地獄を見るわよ」

 そう言って先に行っていた友人のところに行ってしまった。

「二股、ねぇ」

 真冬がアメリカに帰ってから文香とそういう関係になったら二股になるのだろうか。仮に僕が真冬を選ばなかったとしても。いや、それは無いか。それにしても贅沢な悩み、何だろうなぁ。当の本人は困ることが多いのだけれど。


「いらっしゃい。今日もカフェオレでいいのかな?」

 大工カフェのカウンター席に座るとマスターが聞いて来た。最近よく寄っているのですっかり常連客のような感じなっている。

「あれだろ。二股になったらどうしよう、とか考えてるだろ」

「え?」

「なんだ。図星か。どうしても決め切れないなら、試しに両方と付き合ってみれば良いんじゃないのか。相性なんて付き合ってみないと分からんだろ。それにもう時間もないしな」

「そんなのどうやるんですか?」

 交互に期限を決めて付き合うとかそういう感じなのかな。マスターには何か考えがあるようだが……。

「日付とか曜日を決めて。ってのはどうだい?」

「なんか取っ替え引っ替えみたいな感じですね……」

「実際そうなんだから仕方ないだろ?それとも、そういうことをせずして答え出せるのか?」

 それは正直なところ厳しい気がしている。友人としての付き合いなら分かるのだが、恋人としての接し方が良く分かっていない。そもそも恋人って何だ?一緒にいるだけなら、それは親しい友人と何が違うのか。

「あ、そうだ。体の関係は持たないほうがいいぞ。後に引けなくなる」

「はは……。それはもう向こうからやられてるんですよね。我慢しましたけど」

「ほう……。それは難儀なことだな。まぁ、そうやって流されるようにしないほうが良いぞ」

「分かりました」

 何が分かったというのか。そんなのは分からず、とりあえず二人とは話をしないと。


「というわけで。今日来てもらったのは……」

「マスターから聞いてる」

 と口火を切ったのは真冬だった。

「何の話?」

 文香が不思議そうな顔をしている。まぁ、いきなり呼び出されて、急にそんなことを言われてもって感じか。僕はマスターから提案されて内容を説明した。

「うーん。日替わりじゃなくて三日間くらい連続の方が良いかなぁ」

 文香の意見。確かに毎日変わるんじゃ相性も何も分からないかもしれない。ということでこうすることになった。

『月火水は文香、木金土は真冬。日曜日は考える日』

 考える日。真冬がロスに帰るまでには数える日数しかない。

「とりあえず今日は火曜日だから私の番ね」

 文香はそういうと「行きたいところがある」と言って来た。

「どこに行くの?」

「内緒」

「なんだよそれ」

 僕はそう返事をした後にバイトに入って行った真冬に会釈をして店を出た。


「で。どこに行くんだ?」

「健斗って免許持ってたよね?」

「ん?ああ。去年取った」

「それじゃ、レンタカー借りよう」

「今から?もう遅くない?」

「遅いから良いのよ」

 何が何だか。取り合えず駅前のレンタカーのお店に行って一台借りてくきた。教習所を出てから初めての運転で少々怖い。初心者マークのついた「わ」ナンバーなんて周りの車も近寄りたくないだろうな。

「で、だ。どこに行けば良いんだ?」

「ちょっと待ってね……」

 文香はスマホで目的地を検索しているようだ。そしてナビに……目的地を入力するのかと思ったら、自分がナビをすると言って目的地をナビに入れることはなかった。

「目的地は秘密ってこと?」

「まあ、そんなところ」

 と、ここまでは文香の予定通り、何だろうけど、ナビが酷い。交差点の直前になって「ここ右!」とか言ってくる。当然のように右折車線にいないので通過してしまう。

「出来ればもうちょっと前に言って欲しいかな……」

 地図の再検索のために道路の隅に寄せて停車。すると、致し方ないと言った感じで目的地をナビに入力し始めた。

「城ヶ島?なに?そこに何があるの?」

「今日は新月だからもしかしたらって。あとは行ってみてからかな」

 ナビに目的地を入れてからは順調に道案内されて、徐々に目的地が近づいてくる。

「あのさ」

「なんだ?」

「もし、私が居なくなったらどうする?」

「居なくなったら?どこかに行く用事があるのか?」

「だから、もし、だよ」

「そうだなぁ……」

 それは考えていなかったが。仮に文香と付き合うことになって真冬がアメリカに戻って。それで文香も居なくなったら、僕は一体何になるのか。文香を追いかけるのか?

「どこに行くかによるんじゃないのかな。あと時期とか」

「現実的な答えが返ってきた」

「それ以外にどんな返事があるんだよ」

 そんな会話をしていたら大きな橋を渡って目的地に到着した。

「お店なんて全部閉まってるし、何があるんだ?めっちゃ暗いし」

「だから良いのよ。えーっと……」

 文香がスマホを片手に進んでゆく。ハイキングコースだろうか。やや登りを攻めてから少し開けたところに出た。あたり一面真っ暗で景色も何もあったものではない。

「こっちの方がいいかな」

「まだ歩くのか?」

「そうね。もうちょっとだと思うから」

 スマホのライトを頼りに歩き続ける。そして海岸線に続くであろう岩場に出てきた。流石に足元が危ないと思って文香を呼び止めた。

「おい、これ以上は危ないんじゃないのか」

 と言ってからあたりを見回すと赤い灯りがチラホラ見える。なんだ?誰かいるのか?

「健斗。ちょっと目を閉じて」

「ん?なんだ?どのくらい閉じれば良いんだ?」

「スマホの灯りの残像が消えるまで」

「分かった」

 二〜三分経っただろうか。僕は目を開けてあたりを見回す。文香は僕の隣に立ってまだ目を閉じている。暫くすると暗闇に目が慣れてきたのか辺りの様子が分かってきた。

「三脚?カメラかな……」

 僕がそう呟いたのを聞いて文香も目を開けたようだ。

「健斗、空」

「空?」

 そう言われて空を仰ぎ見ると、薄っすらと何かが見える。都会では見えない何かが。

「モヤ?」

「天の川」

「あれが?」

「そう。もっとハッキリ見えるのかと思ってたんだけど……。ちょっと残念。でも星は綺麗でしょ?」

「ああ、そうだな。夏の大三角ってあれか?」

「そうね。デネブ、アルタイル、ベガ」

「星に詳しいのか?」

「そこまで詳しくはないけれど、昔にお父さんに連れられて谷川岳に行ったの。そこでは肉眼で空一面の星に天の川が見えて。調べたら東京から気軽に行ける範囲ではこの場所がそうだって」


「お嬢ちゃん達。天の川を見に来たのかい?」

 後ろから声をかけられて振り向くと三脚と大きなバッグを抱えたお爺さんが立っていた。

「はい。でもハッキリ見えなくて……。少し残念です」

 文香は本当に残念そうにそう答えた。

「どれ。見せてあげようか。ちょっと待ってて貰えるかな」

 お爺さんは三脚を立ててカメラをセットした。カメラと三脚の間の機械はなんだろうか。僕が不思議そうに見ていたら、それに感づいたのか教えてくれた。

「これかい?これは赤道儀と言ってね。星の動きに合わせて回転するんだ」

 そう説明しながら準備を進める。

「これで良いかな。まずは……」

 そう言ってファインダーを覗いてカメラの設定を弄っている。

「よし。ここかな」

 カメラのシャッターが切られた。と、シャッター音が遅れてもう一度鳴る。

「ふむ。良い感じじゃな。ほら。見てごらん」

 そう言われてカメラのモニターを見ると、そこには一面の天の川が写っていた。

「わぁ……。なんでカメラだと見えるんですか?」

「光を集めるからね。人間の眼よりも高感度だ。お嬢ちゃんは見たことあるみたいだね」

「はい。昔に」

「そうかい。見に行った場所は標高が高くて山奥じゃなかったかな。どこかの天文台とか」

「谷川岳です。ロープウェイに乗って上の方まで行って」

「ほうほう。良いところだ」

「そこでは星の集まりとかも見えて、すごい綺麗だったんです」

「星団じゃな?ほれ、こことか」

 お爺さんが撮影した写真を拡大してくれた。そこには星が密集していて青白い輝きを放っていた。

「俗称すばる、だな」

「車メーカーのですか?」

「そう。あのマークの由来のところだよ。他にもいくつかあるから撮影してあげよう」

 そう言って名前だけはなんとなく聞いたことがある星々を見ることができた。

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