【第六話】朝食
ピリリピリリ……。
スマホの目覚まし音で目を覚ます。
「ああ。今日は土曜日だったな……。二度寝するか……」
朝の六時に一度目を覚ましたが、休日と言うこともあって二度寝……。
ピンポーン
なんだなんだ。こんな朝早くに。勧誘とかにしては早すぎる。
ポコン
今度はスマホのメッセージ通知音。朝からやかましいな。と、完全に目が覚めてしまった。
ピンポーン
玄関からは再びインターホンが鳴らされた。
「はいはい。誰ですか。っと」
念のためチェーンロックを掛けてからドアを開ける。
「どちら様……。って、なんだよこんな朝早くに……」
「いいから開けて」
「分かったよ。ちょっと待ってて」
一度ドアを閉めてから再び開けたら、そこには意外な光景が。
「なんで二人とも居るんだよ」
「朝ご飯作りに来た」
と。それぞれがビニールの手提げ袋を持っている。あらかた、僕の家に来たときにブッキングしたのだろう。
「なぁ……。なんでこんなに朝早くに?」
「健康的でしょ」
そう言って文香の方が先に部屋に入ってきた。続いて真冬も入ってくる。
「はぁ……。もうなるようになれだ」
二人に続いて僕も部屋の中に入っていってベッドに座った。二人はキッチンに入って材料を取り出していた。
「あのさ。二人前作ってくれたりするの?それぞれで」
「って、思ったんだけど、流石に勿体ないから半分で作る」
文香がそう返事をしたので、これはどうにも「どっちが美味しい?」というイベントは免れないな、と腹をくくった。
と、暫くしたらキッチンから朝ご飯を手にした二人が部屋のテーブルまでやって来た。
「ううん?シンプルだな」
てっきり手の込んだものを想像していたからシンプル過ぎるその朝食に少し面食らってしまった。
だし巻き卵に普通の目玉焼き。それにカリカリに焼かれたベーコン。パンはこんがりと焼かれていてジャムが入っているであろう瓶が添えられていた。
「これって、何がどっちのなんだ?」
そう言うと文香と真冬は目線を合わせたかと思ったら、
「当ててみて」
と真冬が言ってきた。これの料理で当てるって。性格的なものが出そうなのはだし巻き卵にベーコン、よりもこのジャムだな。真冬はお店から持ってこられるかも知れないけど、明らかに手作り。もしかしたら、昨日の買い物の続きは材料の果物だったのか?
うーん……。と悩んでいたら真冬から「冷めるから早く」と急かされてしまった。
「頂きます。って、二人の朝食は?」
「後でお互いのものを食べっこする」
「そうか」
と言ってだし巻き卵に箸を伸ばす。と、いや、しかし分かりやすすぎるだろ、明らかに真冬が首を少しだけ前に乗り出してきた。ということは。これは真冬が作ったやつか。
「少し甘いな。砂糖多めのだし巻き卵だ。嫌いじゃないよ」
そう言うと今度は文香が一息吐いた。なんだ?これは文香が作ったのか?と、次は瓶を開けてジャムをパンに塗って食べてみた。
「このジャム、美味しいな」
店で出しても問題ないほどのクオリティ。これはやはり真冬が店から持ち出したものなのかな。最後にカリカリベーコン。これは個人的に好きなやつだ。流石に特徴とかないし、どっちが作ったのかは分からないけど。
「ごちそうさま」
「それで。何が誰のものか分かった?」
「うーん……。決め手に欠けるけども、直感的にはだし巻き卵が真冬で、ジャムが文香かな」
ジャムをお店から持って来た可能性も考えたけど、昨日の買い物、多分ジャムの材料を買っていた線が濃厚。そう思って言ってみた。
「すごい。あたり」
文香が反応を返してきた。
「ふいー。なんとか当てたぞ。そうだ。折角だから二人の朝ご飯は僕が作るか」
「えー。別に良いのに」
文香がそう言ってきた。お互いに作ったものという事は、今目の前にあるものを交互に食べる事になるだけなんだが。それが味気ないかなと思っての提案だったのだけど、僕の批評が自分が食べたらどうなるのか気になったらしい。
そして、追加のだし巻き卵とかパンを焼いたりとか。準備が整った時には僕はもう完食していたので、お互いの反応を楽しむ事にした。
「ねぇ、健斗が作ってくれた場合ってなにが出て来る予定だったの?」
「そうだな。キャベツ刻んでシーチキン入れてマヨネーズと胡椒で和えたものを焼いた食パンに挟んで食べる」
二人はよく分からない、という顔を見合わせていたので作るか?と思ったけども二人ともジャムパンを食べてしまってるし、流石に多いかな、と思ってまた今度、ってつい言ってしまった。また今度家に、それも朝から呼ぶ事になるのか……。
その後は昨日の買い物について真冬から色々聞かれたけど、下着を買いに行っただけ、という事実をそのままに伝えたら要らぬ誤解を生みそうだったので口ごもっていたら、文香が真冬になにか耳打ちしている。
「健斗。私とも買い物に行って貰える?」
「え?ああ、うん。良いけど。いつ?」
「この後」
「この後は講義があるから午後からでもいいか?」
なんか納得がいかない、というような顔をしていたが流石に講義をすっぽかして買い物は単位的に……。
「で?なんなんだ健斗」
講堂に入って席に着くと一応の同級生から声を掛けられた。いつも一人なので、声を掛けられることが稀なんだが、今回はちょっと違う。
「いや、友達?」
「ほう。友達か」
同級生がなんでこんなに絡んでくるのかと言えば、僕の両隣に女の子が座っており。更には一人は今までに見たことがない女の子。それも容姿もそこそこ、いや、結構良い女の子が。遠回しに誰だ?と聞かれているので「友達」と答えたのだが、真冬はその紹介に不満だったらしくて膨らんでいた。それを見て「本当に友達なのか?」と聞いてきたのだろう。さて、どうしたものか……。と思っていたら教授が入って来たので追及を免れた。と思ったのだが。
「そこの人、我が校の生徒かね?」
今度は教授から「誰だ?」と聞かれてしまった。当然のように真ん中に座っている自分に聞いてきている。
「あー。違うんですけど、教授の講義に興味があるという事で……。その、今回だけなんですが……」
という苦しい返事をしたのだが、わざわざ自分の講義を聞きにきた、というワードに反応したのか、特別に、という返事が返ってきて一安心。
「ねぇ、健斗。この授業ってなんの授業?」
「刑法」
「健斗って法学部だったのね」
小さな声で返事をしたのだが、静かな講堂では目立ってしまった。教授がこちらを見て質問を投げ掛けてきてしまった。
「えっと……」
急に振られた僕が口篭っていたら、真冬が立ち上がって質問に答えてくれた。
「ほう」
教授の反応。急に降った質問、それも今日初めて受けている講義。簡単にスラスラ答えたので少しびっくりしているようだった。
「私も専攻は一緒だから」
確かに飛び級してるくらいだから詳しいかも知れないけど、ロスで日本の法律を学んでいたのか?とか考えていたら、それに気がついたのか「両方」とだけ返事がきた。
講義はその後も続き、追加の質問を真冬は受けていたのだが、これも完璧な回答だったらしく、教授はひどく感動したようで、講義が終わったと同時に手招きされてしまった。
「君、すごいね。どこの大学に?」
「えっと……」
そういえば、ロスの大学院とだけ聞いていて大学名とかは聞いていない。僕もどこの大学なのか興味があったので教授と同じく返事を待っていたのだが、帰ってきた返事は……。
「独学なんです」
だった。それに関しても教授は感心していたが。
「なぁ、さっきのってさ……」
「うん?」
「独学ってやつ」
「嘘はついてないわ。日本の法律は独学だもの」
「で、どこの大学院なんだ?」
「秘密」
「なんで大学の名前が秘密事項なんだよ」
「女の子は秘密を持っているものなんです」
確かに、女の子には秘密が多いと聞くけど、そういう秘密は初めて聞いたぞ。文香も聞いていたが、その質問に関しても「秘密」を突き通していた。
講義が終わって真冬との買い物が始まったのは良いのだが……。
「なんで文香ちゃんも一緒にいるの?」
「なんとなく?暇だし?」
二人きりにはさせまいとした牽制なのだろうか。僕たちの一歩後ろを歩いている。気にしないで、とか言ってるけど気になるに決まってる。
「なぁ、文香。この前は二人きりだっただろ?だから今回はさ……」
「ふぅん」
納得いかないのか、何かを疑っているのか。別にやましい事なんて無いけども。ってか文香の方が下着売り場に連れて行ったりと微妙な感じだったのだが。そして三度目の説得というか声かけをしたところで観念したのか「私は映画を見て帰る」と言って僕たちと反対方向に歩いて行った。
「文香のやつ、何を心配してるんだか」
「心配させちゃう?私は別に良いけども」
「いやいやいや。それは……」
「何を想像したの?エッチなこと?」
「いや、その……まぁ、少し?」
「そういえばさ、健斗は私とそういう雰囲気になったらどうする?」
「どうするって。そうなったら、ねぇ」
ちょっと想像してしまったが、何故かそういう雰囲気になっても僕の方からアクションを起こすイメージが湧かなかった。
「それじゃ、買い物。いいかな」
「いいよ。どこに行くの?」
「ホテル」
「お前なぁ」
大真面目な顔で言うものだから半分本気な気がしたけど、ホテルに何の買い物に行くのか。僕が買われるのか?なんて思っていたら、本当にホテルに入ってきてしまった。
「何があるんだ?」
「スイーツ」
入ったホテルがいわゆるいかがわしいホテルではなく、立派なホテルだったので万が一の子とは回避出来たと思って一安心していたのだが……。
「なんで?」
「お昼のゆったりプラン」
買ってきたスイーツをお部屋でゆっくり、というプランだった。なんかしてやられた感は否めない。が、とりあえずは買ってきたスイーツを楽しむことにしよう。
「美味しいな。流石ホテルスイーツ」
「私も美味しいかもよ?味見してみる?」
真冬はそう言ってスカートをピラッとめくって太ももを見せて来た。
「だから、お前なぁ」
「冗談よ」
「冗談に聞こえないから困ってるんだろ?」
そう言うと、持っていたフォークを置いて膝の上に手を置いて僕の方に向き合ってきた。そして顔が真剣なったので、何を言われるのかと色々考えて生唾飲んでしまった。
「あのね」




