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逢魔が時の約束〜約束の続きを、夏の終わりに〜  作者: PeDaLu


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【第四話】訪問

「ねぇ、真冬ちゃんってさ……」

「そこ!私語はやめなさい!」

 怒られた。ってか地獄耳だな。あの教授。僕たちはその後、ノートに質問と回答を書き合って話をする事にした。

『真冬ちゃんって彼氏とかいた事ないの?』

『知らん』

『文通してたんでしょ?』

『最近はしてなかった』

『あんな可愛いから大工カフェで告白とかされちゃうんじゃない?』

『かもな』

『なんか淡白な返事ね』

『真冬の人生だからな。とやかく言うことは出来ないだろ』

 そこまで文字を往復させたら文香は、さも当然講義はキチンと受けます、みたいな態度で僕の横から少し離れて黒板の方を見始めた。

「真冬の人生、ねぇ……」


 夕方になって真冬はまだ働いているのか、と思って文香と一緒に大工カフェに戻ると、そこにはもう真冬の姿はなかった。

「マスター、真冬は?」

「真冬ちゃんなら上に居ると思うよ。そうだ。家具の配置とかあるだろうから手伝ってきてあげなよ。と、ところで、その子は彼女さん?」

「えっと……」

「希望は出してます」

「ほう……。真冬ちゃんもそんな事を言っていたな。そう言うのは早めに答えを出したほうが良いぞ」

 とそこまで言ってから注文の品を作りに行ってしまった。

「文香、やたらとそう言うことをだな……」

「アピールは大事だし。既成事実?そう言うのもありかなって」

「既成事実って……」

 これは文香を家に入れたらマズイな……。


「真冬ー。手伝いに来たぞー」

 三階は外階段で二階に上がって玄関に入ってから階段で登るらしい。つまりマスター家と繋がっている、と言う事になる。大丈夫なのか……。

「はいはい。今開けますよ」

 と言って出て来たのは、身なりの綺麗な女性。これぞ大人の女性って感じだ。

「あ、真冬ちゃんのお友達?」

「えっと。はい。そうです。部屋の片付けとか手伝いに来ました。それで、あの……」

 お前は誰だ、とは言えないので遠回しに感触を確かめる。

「大丈夫よ。主人はそんな人じゃないし、私もいるから安心して」

「マスターの奥さんでしたか。真冬は随分日本にいなかったので日本の常識を忘れてるかもしれません。ご迷惑をお掛けいたします」

「保護者みたいね。それで、そちらの子は彼女さん?」

 マスターと同じことを聞かれた。既成事実にする、と宣言されていたので、今度は僕の方から。

「いえ。違います。仲の良い友達、ですかね」

「男女に友情、ってやつね?まぁ、良いけども。あ、そうそう。真冬ちゃん、食事とかは我が家と一緒にするから安心して」

「そうですか。なんか色々すみません」

「それじゃ、真冬ちゃんのところに行ってあげて」

 そう言われて靴を脱いで三階に向かう。と、三階の扉を開けたら唸り声が聞こえた。

「何やってるんだ?」

「このソファをこっちにっ……」

「そんな大きいもの一人じゃ無理だって」

 広い。この広さを一人で使うのか。リビングにはソファが置かれていて、大きめのテレビまで置いてある。カウンターキッチンの冷蔵庫もファミリーサイズ。あっちのドアの先にはベッドルームってところだろうか。

「なあ。真冬。ここ高いんじゃないのか?払えるのか?」

「大丈夫。四万円だって」

「は?なにそれ。僕が住みたいわ。何か条件でもあったりしないの?」

「うーん。通訳?海外からのお客さんが多いからって」

「そうなのか。まぁ、真っ当な理由があるのなら良いけど……」


「こんなもんか?」

「うん。ありがとう。お礼に下のカフェで何か奢るわ」

「奢るってお金無いだろ」

「自分で作るのなら、って言われてるから」

 そうなのか?いいのか?そう言うのは自分の分だけとかそういうのでは無いのか?なんて思いながらカフェに下りて行ってマスターに聞くと、少し考えた後に「いいよ」という返事が帰ってきた。

「ああ、そうそう。そこのハヤシライズソース、余っても捨てちゃうからそれを食べて」

「あ、良いんですか?」

「いいのいいの。真冬ちゃんの帰国祝いでもしてあげな」

 と言われたので、三人分のハヤシライスを。テーブルに持って行って三人席に着くとマスターがケーキを持って来てくれた。

「これは俺からの帰国祝い」

「あの、店長はなんで祝い、って……」

「お前さんを追っかけて来たんだろ?無事に出会えたし、お祝いで良いだろ」

 なんか真冬の方も既成事実を作ろうとしてる節があるな。と言っても、ここで断るのも難しいので有り難くケーキは頂く事にした。


「真冬ちゃんはなんで日本に帰ってきたの?健斗に会いに来たっていうのは本当?」

 文香が真冬に質問。それは気になっていた。なんの確約もなく僕の元に来るのはリスキーだ。仮に僕に彼女が居たりしたら、この前だって泊まることなんて出来なかったし。

「僕が一人暮らしっていうのは知ってたの?確か言ってなかったと思うけど」

「なんか質問ばかり……、だけど、そうよね。不思議に思っても仕方ないか。あのね、健斗が一人暮らしっていうのはママから聞いた。ママは健斗の両親に聞いたって」

「にしたってさ、僕が独りかどうかなんて分からなかったわけだろ?」

「うん。だから、あの日文香ちゃんが居たからどうしようってなった」

 なるほどね。結果的には二人同時で助かったって事か。にしても、二人から好意を寄せられた自分は贅沢かも知れないが、正直なところ困っている。

 文香のことは嫌いじゃないし、真冬の事も嫌いではない。でも、付き合うということ、事に今回は真冬に至っては結婚を前提に、とか言われてるわけで。二十歳の自分にはそこまでの判断が出来るとは思えない。

「健斗はさ。えっと。その……。すぐに答えを出す必要はないから」

 文香が言ってくる。それは真冬もそうなのか。答えを待っているのではないか。

「私も……。健斗がきちんと結論を出すまで待ってる」

 というわけでボールは僕の方にやって来たわけだが。


「さて、どうしたものかな」

 とりあえず真冬をカフェに置いて、文香と家路につく。そして僕の呟きを耳にした文香が聞いてきた。

「迷惑じゃない?」

「何がだ?」

「その……。私と真冬ちゃんのこと」

「迷惑とはちょっと違うな。なんて言うか戸惑ってる。正直モテ期がいきなり来た気分だ」

「モテ期って。でもまぁ、確かにそうかもね。でさ。もし私が何もしてなかったら真冬ちゃんと付き合ってたりする?」

「どうだろうなぁ……。確かに昔から真冬のことを知っているけど、知っているからこそアラが見えたりするものでさ」

「アラ?真冬ちゃんにそんなところあるの?」

「今回だって無鉄砲にこっちに来てるだろ?そういうところかな。よく言えば積極的、だけど」

「なるほどなぁ。でも可愛いじゃん?」

「それは認める。だから世間一般的には今回の件は贅沢って言われると思う」

「あれ?それって私のことも可愛いって思ってくれてるの?」

「だって、文香だってモテるだろ?なんか聞いたぞ。後輩から告白されたとかなんとか」

「もう。そんなのどこから聞いてくるの……」

「本当なのか?」

「そうね。でもバイトの帰りに声をかけられていきなりだったから」

「ん?初対面だったのか?」

「ううん。一応、顔は知ってた。でも話したりした事はなかったかなぁ」

 相手と話をする事なく告白か。一目惚れとかそう言うのだろうか。なんにしても自分には無理な芸当だな。だからその積極性は少し羨ましい。

「私、こっちだから」

「おう。それじゃな」


 文香と別れて自宅に向かって、玄関に到着したところでため息をついてしまった。

「お前なぁ」

「おかえり」

「おかえり、じゃなくてさ。マスターのところでご飯なんじゃないのか?」

「健斗はもう食べてきたの?」

「いや、食ってないけど。その荷物ってもしかして材料だったりするの?」

 なんで真冬がここにいるんだ。

「じゃあ、作るから。それだけだから。作ったら帰るから」

「なんでそんなに焦ってるんだ?」

「焦ってるわけじゃ……。ううん、そうね。そうよね。そう思われても仕方ないよね。実はね……」


「なるほど。三ヶ月か」

「そう。休学の期間が三ヶ月。それ以上は無理だって」

「その期間を経過したらロスに帰るのか?」

「うん」

「なるほどなぁ……。真冬は仮に僕と付き合うとしたらどうするつもりなんだ?」

「結婚」

「お前なぁ……」

 まぁ、でも大学院を中退するような理由といえばその位になるのか。僕がロスに行くという未来も考えてしまったが、仕事もないし、そもそも英語が喋れないし厳しそう。

「はい。ハンバーグ」

「ありがとう。それで、今日はこれで帰るのか?遅いから送って行こうか?」

「ううん。大丈夫。自転車で来たし」

「そうか」

「それじゃ。私は帰るわね」

 と、そう言って玄関に向かっていったので手を振って見送る。と、目線を玄関からハンバーグに移したところだった。


 ピンポーン


 インターホンが鳴る。この時間に来るような届け物はない。尋ねて来るような者もない。と、なると考えられるのは……。

「まさか文香か?」

 またブッキングするのか?ご飯を作ってもらっただけだから。それで弁明出来るのだろうか。いや、なんで弁明する必要があるのか。事実をそのまま伝えれば良いのではないか?なんて考えていたら、真冬が玄関を開けてしまった。

「郵便……です?」

 なんだ郵便か。しかし、文香に良く似た配達員だな。制服も着ていない。

 眩暈がした。なんでこうなる。そもそもの郵便ってなんだ。

「文香、なにか用事か?真冬はご飯を作りに来ただけだからな。別に僕が呼んだわけじゃないからな」

 弁明なんて不要だと思っても何故か言い訳っぽくなってしまった。

「私も手紙を渡しにきただけだから」

 そう言って封筒を僕の方に出して来たので、立ち上がって文香の持つ封筒を受け取った。

「それじゃ、確かに手渡したからね。あ、中身は見なくても良いから」

「え?」

 なんだ?中身は見なくても良いって。付き合うことになったら開けてもらう、とかそういうやつなのか?文香は理由は告げずに玄関を出て行った。特に真冬のことには何も触れずに。

「なんか、私も帰るね」

「お、おう……」

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