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逢魔が時の約束〜約束の続きを、夏の終わりに〜  作者: PeDaLu


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【第三話】大工カフェ

 夢じゃないのか。朝の五時に目が覚めて床に寝ている自分。昨日のことは夢ではないのか。立ち上がってベッドを見ると、真冬がタオルケットにくるまって静かに寝息を立てている。

「さて。これからどうしたものかな……。文香には何らかの説明は必要だろうな」

 別に文香とは付き合ってるわけではないけれど、昨日のことがあったんだ。そこはキチンと説明すべきだろう。

 僕はいつもの朝ご飯を真冬の分も作った。トーストにベーコンとチーズを載せて焼くだけ。お好みでマキシマムとかをふりかける。僕はそれに加えてヨーグルトにカフェオレを作って食べる。一緒に食べるために、真冬を起こそうかと思ったんだけど、あまりに気持ちよさそうな寝息を立てているので、そのまま寝かせておくことにした。


『突然女の子が部屋に転がり込んできた』なんてSNSに書き込んでみた。投稿するか迷ったけどもネタの一つにでも取って貰えれば、少しは気が紛れるかと思ったのだ。しかし、帰ってきたメンションは『何歳だ?』とか『可愛いのか?』とか。もっと過激に『やっちゃったのか』なんてのも帰ってきた。三者三様だけど、嘘だろ、みたいな内容は帰って来なかったのが意外だった。

 これはこのまま意見を求めた方が良いのか?と、思って『幼馴染みが転がり込んできたんだけど、どうしたら良いと思う?』と書き込んだら、途端に『病院に行った方が良い』とか『あまりに寂しくてそんなことを言い始めたのか』とか帰ってきた。どうやら幼馴染みというワードが悪いらしい。僕はスマホを机に置いてから頭を少し掻来ながら立ち上がって、洗面所に行って顔を洗いに行った。すると、洗面所には真冬が着て来た服が干されていた。

「こんなところに干してたら生乾きになるぞ……」

 と呟きながら選択物干しを部屋の方が持って行こうとしたら、案の定というか当たり前なんだけど下着も一緒に干してあって思わず元の位置に戻した。僕はさっさと顔を洗って髭を剃ってから洗面所を出て行った。

「おはおよう……」

「なんだもっと寝ててもいいんだぞ。僕も大学は午後からだし」

「目が覚めちゃったから。その……。昨日はごめんなさい」

「もう別にいいよ。それより早く朝ご飯食べて。パンが乾く」

 僕はそう言ってからベランダに向かって座った。そして僕の後ろを真冬が歩いて行って朝ご飯を部屋に置いてあるテーブルに載せてた音がした。

「なんでそっち向いてるの?」

 なんでって。また胸が見えたら困るからだろ。そう思ったけども、確かにこのままこっちを向いたまま過ごすのは無理がある。僕は深呼吸してから真冬の方に向き直った。

 真冬は僕の貸したティーシャツが大きすぎたのか片方の肩が少しはみ出ていた。身体に悪い。妙にセクシーじゃないか。やっぱり幼馴染みだからなんともないとかいう漫画のような展開にはならない。

「真冬は恥ずかしくないの?」

「それ。ちょっと考えたんだけど、健斗とは一緒にお風呂とかにも入ってたから……」

「え。そんなことあったっけ?」

「覚えてないんだ」

「それは勿体ないことをしたな」

「ふふ……。今度一緒に入る?」

「そんなことは冗談でも言うものじゃないぞ」

「冗談でなくても良いのに」

「僕が困るって話」

 そこまで言うと真冬はパンを食べ始めた。

『部屋に転がり込んできたやつが僕のティーシャツを着て朝ご飯を食べている』

 頭の中に転がり出したワードをSNSに放流する。『妄想乙』とか『大きめのティーシャツなのか?』とか帰ってくる。『肩が片方出てるな』事実を返答すると写真を上げろ、という論調になってきた。写真か。確かにこの姿、写真に収めたくはなる。人生においてなかなかの体験だし。なんて考えていたら、なんか慣れてきている自分がいた。やっぱり困ったこととかSNSに放流すると自分の頭が整理できるらしい。言葉って偉大だな。


「ねえ、さっきからなにをしているの?」

「ああ、SNSだな。真冬の一挙手一投足をポストしてるぞ。反応は羨ましいから爆発しろみたいな感じだ。あと、妄想は身体に良くないぞ、みたいな」

「疑われるのね。ね。それじゃ写真をアップしてみたら?」

「そんなことをしたら、なんて言われるか分からないし、このアカウントは知らせてはいないけど大学の同期も見てるかもしれないし」

「良いじゃない。事実なんだし。顔が写らなきゃ平気だって。それに……。この姿、写真撮影したいでしょ?男の子はこういうの好きでしょ?」

「まぁ、嫌いじゃないというか……。願望の塊だな」

「じゃあ」

 と言って一応両腕で胸を覆ったのでカシャリと一枚撮影した。真冬にどんな感じなのか聞かれたので見せたら、なんかエッチ、とか言ってきた。

「だろ?こんなのアップしたらなんて言われるか分からん」

「じゃあ、健斗の独り占めだ」

「そんなことをしなくても目の前に実物があるけどな」

 と言葉にしたら、少し自慢したくも成ってきた。僕は撮影した写真の肩の部分だけ切り出してアップロードした。

「なんだって?」

「おまえ、女だったのか、とか。とにかく、誰かと一緒に居る、という選択は誰も取ってないな」

「そうなんだ。よく分からない反応ね。それじゃ」

 と机に手をついて立ち上がるものだから、またしても胸が襟首からチラッと見えてしまって男の性を感じてしまった。

 真冬が洗面所から出て来て、昨日の服を着ている。一応乾燥機かけたから乾いたようだったが、ブラなんて乾燥機大丈夫だったのか?などとかんがえていたら、なんか出掛ける気満々と言った感じだ。服を買いに行く、と言うのだろう。

「買い物か」

「うん。でも……」

「まさかお金がないとかそういうんじゃないよな?」

「えへへ……。飛行機代高くて」

 頭を抱えてしまった。でも下着は買わせないと、この先マズいことになる、と言うわけで少しでも安く抑えようとファッションセンターしまなみに向かった。ここなら有名メーカーのやつよりも安いだろう。有名メーカーがいくらするのか分からないけど。兎に角、安いに違いない。

「それじゃ、これで買える分だけ買ってきて」

 僕は真冬に一万円を手渡して、店の外のベンチに座った。と、そこに文香からメッセージが飛んできた。

『今日の午後なんだけど、大学に行く前に大学前の大工カフェに来てくれない?』

 大工カフェ。元大工さんが経営するカフェで、特徴的な調度品や全て木製の食器類が人気のカフェだ。僕の大学の学生がよく待ち合わせに使う。

『おっけー』

 そう返して何度かメッセージを往復させて講義の一時間半前にお店に行くことになった。今から二時間後だ。

「お待たせ。ここのお店安いのね。下着以外も少し買えた。ありがとう。借りたお金は返すから」

「どうやって?」

「バイトとか」

「なるほど、バイト。そういえば、大学前にある大工カフェがバイト募集してたな。時給はまぁまぁな感じだ。受けてみたら?」

 そう言って少し早めに大工カフェに行ってコンビニで買った履歴書に書き込む。学歴は……。

「え?」

「ん?なに?」

「なんで大卒になってるの?」

「ん?飛び級ってやつ?今はグラデュエートスクール。日本で言うところの大学院に……。通ってる事になる、のかな?でもこっちに来ちゃったし、中退になるのかなぁ」

「国際スクールの大学院って何かスゴいな」

「できた。写真撮影してくる。あ、健斗。写真ていくらするの?」

「分からんから千円持って行け」

「ごめん。これも絶対に返すから」

 と言って駅前に向かっていった。

「さて……。文香にはなんて言うかな。仕方なく?違うな……。でもそれ以外の言葉がないなぁ」

 あれやこれやを考えていたのだが答えは出ない。仕方ない。行き当たりばったりで行くか。と、結論を出したところで真冬が帰ってきた。そして。真冬はその足でカウンターの中にいたマスターに面接をしたい。といきなり話しかけていた。順序ってものが……。まずは電話で話すとか……。と思ったらすぐに返事が出たようで。

「健斗!大丈夫だって!」

「え。そんなに簡単に?意味を勘違いしたりしてない?」

 と僕はマスターに一応確認をしたのだが、問題ない、という返事が返ってきた。マジか。


「それじゃ、早速だけど、裏に制服があるから着替えてきて」

「はい!」

「マスター、本当に良いんですか?」

「英語ができるんだろ?この辺、海外の人も住んでてね。英語ができる人を探してたんだよ」

「そうなんですか。それじゃ、真冬のこと、頼みます」

「彼女さん?」

「いえ、そういうわけじゃないんですけど……」

「まだ、ってところか。お。真冬ちゃん、似合ってる。それじゃ早速だけど、これ、窓際のの席の人に持って行って貰えるかな」

 と、着任早々に仕事が始まった。お昼過ぎということもあってお店は満席に近い。いつもはマスター一人で出来たものはカウンターに自分で取りに行くスタイルだから、給仕されたカップルは少し驚いていた。

「そういえば、制服があるってことは、以前はバイトとか居たんですか?」

 カウンター越しにマスターに話しかけた。

「居ないよ」

「だって制服が……」

「今回の募集で作った」

「サイズとか……」

「その理想のサイズがやって来た」

「はぁ……。なるほど……」

 少々変な感じもしたけど、そんなものなのかと思って気にしなかった。


「あれ?なんでカウンター?」

 扉が開く音がして振り向くと文香が入ってくるのが見えたので手招きをして隣の席に呼んだ。

「それがさ……」

「あ、いらっしゃいませ」

「え?真冬ちゃん?なんで?」

 僕に聞いてくる。まぁ、そうなるよね。そして、僕は事の経緯を簡単に話した。

「へぇ。そういうこともあるんだ」

「まあ、これが運命っていうやつなのかも知れないな」

「ところで、なんだけどその袋なに?」

「ああ、これ?真冬が服が全然ないっていうから買い物に付き合ってた」

「なんでファッションセンターしまなみ?おばちゃんなの?」

「しまなみを馬鹿にしちゃいけないぞ。めっちゃ安いんだ。最高だぞ」

「そうなの?ユニフロとかあるじゃない」

 主に下着を買いに言ったとは言いにくかったがなんとかごまかして話題を変える。

「それにしても、あの制服は真冬ちゃんのために作ったみたいね」

「ほんとな。偶然にしては出来すぎよな。なんにしても食い扶持が得られて良かったと思うよ」

「食い扶持?」

「そう。バイトとかして無くてお金がなかったらしい」

「ふうん。ところで真冬ちゃんはどこの大学に通ってるの?」

「あー……」

 知らない、と言うのもアレだし、ロスの大学、と言うのもアレだし。なんて答えたら良いのかな……。と口籠もって居たらマスターが突然の助け船を出してくれた。

「彼女、ロサンゼルスの大学院に通ってるよ。さっき履歴書で見たからな。あと、この店の三階の空き部屋に住むことになった」

「へえ。空き部屋に……。って!ええ⁉」

「良いだろ別に。それもとも俺の事が信用出来ないのか?」

「そう言う訳ではないんですが……。家賃とか……」

「留学生には格安で出してるんだ。でも保証人は必要だから……。君、なってくれるか?」

「僕ですか?学生ですよ?」

「身元の引受人になってくれれば良いから。それで。君、名前は?」

「三宅健斗と申します」

「そうか、それじゃ、この書類に……。そう。ここ。印鑑はなくて良いからサインで」

 と、ここまでのやりとりを聞いていた文香は当然の疑問にたどり着く。

「真冬ちゃんっていつから日本にいるの?住んでるところが遠かったとか?あ、でもロサンゼルスの大学院だっけ?」

 隠し通しても仕方がないか?でもあの時間からビジホとかに放り込んだと言う方が文香に怒れる気がしたので、事実をそのままに伝えた。

「はぁ。幼馴染が部屋に来て何もしないで一晩。なるほど?」

「疑ってるだろ。僕の精神力を甘くみてるな?って言うのは冗談で、僕の一般常識くらいは持ち合わせてるよ」

「私もからかっただけよ。でも、ロスの大学院はどうするの?中退?休学?」

「分からん。でも向こうの真冬のお母さんには状況を伝えてあるから……。あー」

 返品は受け付けません。ということは日本から帰ってくるな、という事なのか?そうなのか?

「なに?何かあるの?」

「いや。なんでもない。任せるって言われてたなって思ってさ」

「健斗は信頼が厚いのね」

「買い被り過ぎだと思うんだよね。僕はまだ学生だし。生活費も仕送りの身だしね。それで女の子の人生を預かるというのは無責任だと思うのよね」

「そう?単純に彼氏彼女の関係なら普通じゃない?それとも結婚でもするの?」

 実際はそう言われてしまったから、このような考えになっているのだが。でもここでそれを言うと余計にややこしくなりそうだったので言葉にはしなかった。

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