【第一話】突然の修羅場
「それで?」
「説明して」
落ち着こうとは言ったが、部屋で落ち着いて詰問を受ける事になってしまった。こういう時は嘘をつくのが一番ダメだ。と、経験なんてないけど、感覚的にそう感じた。
「まずは落ち着いて欲しいんだけど、まずは文香、僕たち、正式にお付き合いしようって話はしてないと思う。そして真冬、ずっと一緒にってのは約束したけど、あれは幼馴染として……」
とここまで言って少し無理があるなと感じてしまったが、引っ込めることも出来ず、最後まで言い切った。
「ふむ……」
先に反応を示したのは真冬だった。
「健斗。ちょっといい?確認なんだけど、私のことは嫌いではない?」
「まぁ。それは大丈夫だけど」
何が大丈夫なのか分からないけど、肯定的な返事ではあった。
「あ、私の事も」
文香も聞いてくる。好きか嫌いか、と言われたら嫌いではないが、それ以上の事はまだ分からない、が正解か。
「そうだな……。文香のことは真冬と比べるとまだまだ知らないことが多いけど、嫌いではない、かな」
それを聞いた文香は少し不満そうな顔をしていたが、幼馴染には負けるか、というような目線を真冬に送っているのを感じだ。
「ねぇ。健斗に彼女がって話、島凪さんの事だったりするの?」
文香の問いに答える。
「違うな。ってか、真冬がこっちに帰ってきてるのを今回初めて聞いた」
「言ってなかったし」
言ってなかったじゃないよ……。しかし、何でこのタイミングになったのか。まさか文香が僕の家に来ているのを見て……。と思ってから真冬が持っている手提げ鞄の中を確認して違うと認識した。
「それ、何か作りに来たの?」
「そう。どうせ碌なものを食べてないんでしょ?オムライス、作るから。キッチン借りるわね」
と立ち上がって材料を持ってキッチンに行ってしまった。文香はそれを確認してから僕に聞いてきた。
「島凪さんって幼馴染って言ってたけど、いつからなの?」
「小学生からかな。でも高校に上がる前に海外に行っちゃってさ」
「ふーん。好きなの?」
「真冬のことか?」
「そう」
「どうなんだろうな」
「昔の話」
「ああ、昔にどう思っていたのか、って事か。そうだなぁ……」
好きかどうか。確かにいつも一緒に居て友人からは付き合ってるんだろ、と散々言われたのは確かだ。でも僕たちはそんなことを意にかける事もなく一緒に登校して、一緒に下校していた。部活も美術部で同じだったし。
「ずっと一緒にいたから恋愛感情みたいなのは……。どうだったかな」
「男女に友情は無いわよ」
それはよく聞く。が、大学の仲間たちの中に女子は他にも居るし、仲良くやっている、と思う。なので友情はあるのではないか、というのが自分の考えなんだが、文香的には違うらしい。
「なぁ、それ、よく聞くけど、僕と他の女の子が話してたら、それも友情にならんのか?」
「ならない。それは単に話しているだけ。でも……、そうね。二人きりでご飯に行ったりするようなのは違うかも」
「手を握るとか?」
「それはもう付き合ってる証拠でしょ」
「それもそうか」
なるほど。文香的には二人きりでご飯に行ったら単なる友達の枠を超えるという判断なのか。だから今回のような感じなったってことか。
「それで、なんだけど。島凪さんとは手を繋いだりしてたの?」
「うん?あー……どうだろう。小さい頃は繋いだりしてたかもしれない、でも中学の頃とかは自転車で二人乗りした時に掴まったりされた、というのはあるな。仲良く手を繋いで登下校ってのはなかったと思う」
「部屋に行ったりとかは?」
「それはあったな。家も近かったし」
「そう……なんだ。ねぇ、今誘われたら島凪さんの家に行ったりする?」
「どう誘われるかによるんじゃないの?単純にご飯とかなら……って、二人でご飯を食べるのは友情を超えるんだっけ」
「何だかなぁ。なんか私が付け入る隙なくない?」
「なんだ?真冬とはまだ何もないぞ」
「そう?それじゃ、私と付き合ってくれる?」
「そこはまだ分からん。もうちょっとお互いを知ってから、かな」
「そっか。じゃ、私も島凪さんのこと手伝ってくる」
と言って文香もキッチンにとてとてと歩いて行った。
付き合う、なぁ。正直なところ、大学に入って一人暮らしを始めて彼女持ち、というのは正直憧れた。でも実際にそういう事になることを想像すると真冬のことを思い出してしまったのは本当だ。
「どう思ってるんだろうな。ほんと」
答えが出ないままにペットボトルのお茶を飲んでからキッチンに目を移す。文香と真冬が狭いキッチンに並んでオムライスを作っている。お米はレトルトのものを買ってきたようだ。僕の家に米なんてないって知っていたのかな……。なんて考えながら昔のメールを探してみた。
「あった。これだ」
当時は今のようなメッセージアプリは無かったからメールでのやり取りが基本だった。フォルダ分けされた中に「真冬」と書かれたフォルダがあって二人のやり取りが保存されていた。最後に送ったのは自分。内容はなんて事でもないもので「昨日の夕飯は何食った?」だった。これの返事が来なくて。どうした、と聞けばよかったのに自分とのやり取りを面倒くさく感じていたのか、とか思ってしまって聞けなかった。
「ローストビーフね」
「わ」
「なに?懐古主義者?というより、そんな昔のメール取ってあるんだ」
「なんか消すに消せなくてな」
「そうなんだ。私は綺麗さっぱり消しちゃった。メール容量が一杯になっちゃって」
思い出に押し出されたいった僕との関係、って感じか。
「なになに?メール?昔の?」
文香もやって来て僕のスマホを覗き込んできた。
「なに?これ。昨日の夕飯って」
「いや、文通でもないし」
「そう?あ、真冬ちゃん、お茶いる?」
「そうね。戴くわ」
「ん?なんか仲良くなった?」
文香が真冬ちゃんなんて言うものだから何かあったのかも知れない。と思っていたら真冬が教えてくれた。
「同じ人を好きになったんだから気が合うわね、って話」
「なるほど……」
と、軽く聞いていたけども、好きになった、というワードがあって少し気が焦ってしまった。
「食べないの?冷めるわよ」
「お。んん。食べる」
オムライス。外食でもあまり食べないものだ。勿論、自分でも作らない。なので美味しいのかどうかの判断基準はないが、単純に答えるなら美味しい、だろう。
「感想は?」
「うまい」
「だけ?」
真冬に聞かれて文香に文句を言われてしまった。しかし、料理番組のリポーターのような気の利いた感想は出て来ない。
「いやさ。料理に関しては素人だから、こうして作ってくれたものは珍しくてさ。だから、比較もできないけど、味覚的には美味しい、と言うしかないかな」
「なにそれ。でもそうなんだ。こうして誰かにご飯作ってもらったことはないんだ」
文香が少々満足そうにそう言った。
「バレンタインとかどうだったの?」
続けて文香が聞いてくる。バレンタインか。確かにそれは毎回義理だとか可哀想だからとか言われながら貰っていたけど……。綺麗な包装だったから既製品かと思っていた。でもあれは今思えば手作りだったのかも知れないな。
「真冬、あれって手作りだったことってあるの?」
「はー。やっぱり」
呆れられた。やはり手作りだったらしい。しかし、それならそうと言ってくれれば良かったのに。
「ねぇ、健斗」
「ん?なんだ?」
真冬が話しかけてきた。
「男女の友情はない、としたら、あのバレンタインのチョコレートは何になるの?」
友情の証が義理チョコなのか。しかし、文香的には男女の友情なんてないということらしいから、バレンタインチョコを貰ってる時点で恋人相当、という事になるが。
「うーん。どうだろう。真冬以外から貰った事がないからなぁ。だとしたら友達以上のなにか、とか?」
「友達以上、ねぇ……。文香ちゃんはどう思う?」
「そんなの完全に愛の証じゃないの?私、本命以外に渡した事ないし」
「文香ちゃんには本命って今まで居たんだ」
「居ないけど。だから健斗が初恋かな」
大学に入るまでそういうのが無いというのか。かく言う自分も誰が、とか明確に感じたことはないかも知れない。でもそれは真冬が居たからかも知れない。
「初恋って何するものなの?」
真冬が意外な質問を文香に投げかけた。初恋とはなんぞや。
「それは……。憧れたり?一緒にいたいと思ったり?こうしてご飯を一緒に食べたり?何だろう。なんか友達と恋人の線引きって難しいかも。さっきはあんな事を言ったけど」
「だよな。よく分からん。でも分からないからお互いの事を知り合うんじゃないのか?付き合うとかそう言うのは先の話だと思うんだよ」
自分は自分にそう言い聞かせて、うんうんと頷いた。




