【第十五話】その後
そして。あれから一年が経った。相変わらず真冬の行方は分からない。真冬のお母さんに電話をかけてみたりしたけども、ずっと通話中の状態で繋がらなかった。
「健斗くん」
「マスターは何か知らないんですか?」
「知ってても言わないかな」
「なんですかそれ。でも知ってても、って事は知らないってことですよね?」
「そういえば、だが」
「何かあるんですか?」
一縷の光を求めてマスターの顔を見る。
「差出人が分からないメッセージが飛んできててな。最初はイタズラだと思ったんだが、何回も送られてくるので返事をしたんだよ。そうしたらこの住所が送られてきてな」
そう言って見せられた住所は……。
「僕の家?」
「君の家なのかい?」
「はい。メッセージにはなんて書いてあったんですか?」
「いつ会えますか?ってさ。それにイタズラだと思ったからお店に来てくれればいつでも、って返事したんだよ。そうしたらこの住所が送られてきてな。何のことだか聞いてみたんだが返事はなくてな。何か心当たりはないのかい?」
少し考える。
「あ‼」
「何かあるのかい?」
「マスター!お会計!」
僕は千円札をカウンターに置いて急いで家に向かった。走った。真夏の空気が喉を焼く。でも、一秒でも早く家に戻りたかった。
「真冬!」
家の前に誰かが立っている。きっと真冬だ。そう思って駆け寄った。
「久し振り」
「え?」
そこに居たのは……。
「ふみ……か?真冬は?真冬はどこに⁉」
「そか。真冬ちゃんを選んだのね。真冬、良かったわね……」
「文香?どういうことだ?」
「ずっと入院してたの」
「ああ。真冬もそうだろ?」
「真冬ちゃん、ずっと考えてたみたい。健斗になんて言って会えば良いか分からないって」
上がった息が収まってきた。そして、文香の小さな両肩を掴んでもう一度聞いてみた。
「真冬は……」
「ここに居るよ」
「嘘だ……。だって真冬は……」
「逢えたの?」
「ああ……」
理解が追いついてきてしまった。真冬は……。
波の音が聞こえる。
僕はあの日、真冬と逢ったあの場所にいた。季節は冬。真冬が僕に見せたかった夕陽を見に来たのだ。
岩の輪に沈む夕陽。綺麗だ。
「真冬はこれを見せたかったんだな」
ダイヤモンドのようにキラキラと海面が輝き、昼の主人公は徐々に退場してゆく。
「逢魔が時、か」
海を見ながらそう呟く。振り向いたら真冬が居るんじゃないか。そう思って振り向こうとしたけども、誰も居なかったら、そう考えたら振り向けなかった。
「健斗」
「分かってる」
「分かってない。絶対に分かってない」
隣に立つ文香がそんなことを言ってくる。
「理解しているよ。今度、真冬のところへ連れて行ってくれないか?」
「大丈夫?」
「ああ」
逢魔が時の怪しい空は瞬く間に闇に飲まれて夜の主人公が煌めき出す。
「帰ろうか」
「うん」
翌日、僕は文香に案内されて真冬の待つ場所へ向かった。途中、寄るところがあるというので寄ったその場所には真冬の母親が待っていた。
「健斗くん、これ、真冬から」
渡された手帳にはあの日からの毎日が綴られていた。そして最後のページには、こう書かれていた。
『泣かないで。私は健斗を縛りたくない。だけど少しだけわがまま。少しの間だけで良いから逢いたい』
「逢えたよ。あの日、逢えたよ……」
僕は忘れない。あの時の君の顔をずっと忘れない。
「健斗、行こう?」
「ああ……」
僕は一生忘れることは無いだろう。
君に逢えたあの時間を。笑顔を。そして、時間を。
その一瞬の輝きを胸に僕は生きてゆく。
君はきっとそう願っているだろうから。




