【第十二話】夕暮れ
「ん?なに?」
「いや、別に」
橋を渡った。最近渡った橋だ。
「とうちゃーく。とりあえずお店が閉まる前にご飯食べよっか」
到着した漁港の海鮮丼の看板が出たお店に入る。マグロカツなるものがあったのでそれを注文したら、なんで鮮魚にしないのかなんて聞かれたけど、珍しいものを食べた方がいいじゃないか。
「で?おかなも満たされたけど、このあとは?」
「ふふーん。こっち」
ここにはつい先日来たばかりだ。あの時は月も出ていなくて真っ暗闇だったが、今回は真田日も出ていて、こんな風景だったのかと思いながら真冬の後を歩く。
「あつーい」
「だなぁ。潮風が更に暑い」
「でもこの先にはご褒美が待っているのです」
「ご褒美?」
「そ。ご褒美」
そう言って更に歩くと、文香と行ったい岩場に出て来た。
「おお……」
そろそろ夕陽になろうかという太陽が海に向かって落下を始めていて海面がキラキラと煌めいてる。
「ね?ご褒美でしょ?でもこれからもっと凄いんだから。見てて」
そう言われてしばらくの時間が流れた。途中、病院のことについて聞こうと思ったのだが、なぜか聞けずのままで。風邪とか言ってたのにこうして元気にしているし。
「ん?どうした?」
「あれ?あれ?あーん……」
「なんだなんだ」
「冬だった……」
「何が?」
「あそこの岩のドーナツみたいなのがあるでしょ?あの中を夕陽が沈むの。それを見せようと思ってたのに季節は冬です、だって。あーん!」
「でも今でも十分に綺麗じゃないか」
「そうなんだけどぉ」
そんなことを言っているうちに太陽はどんどん海に吸い込まれていって幻想的な色に空が染まって行く。
「逢魔時っていうんだよ」
「おうまがとき?黄昏時とかじゃなくて?」
「それと同じ意味なんだけど、この時間は異世界と繋がって魔物が出る時間なんだって」
「魔物か。それは怖いものなのかな」
「どうだろ。こんなに綺麗な時に出てくるくらいだからきっと優しい魔物かも」
「優しい魔物ってどんなのだ」
「うーん。優し過ぎて魔界を追い出された可哀想な魔物?」
「可哀想な魔物、か」
そして、太陽は完全に沈み、逢魔時も終わりを告げて代わりに月の出番がやってきた。
僕と真冬はしばらくその場所に居たけれど、夕陽を見に来た他の人達が帰るのを見て、それに混じってバス停まで戻って行った。
「バス、なくね?」
「あー。帰りのこと調べてなかった……」
「どうする?」
「うーん……」
と、真冬がスマホでなにか調べている。
「え?ここ泊まるところたくさんあるよ。ほら」
画面を見るとマップに宿泊可能なマークがたくさん並んでいた。
「仕方ないか……。ちょっと待ってて」
僕も宿をスマホで探す。手持ちのお金もそんなに無いので、出来るだけ安い民宿を探す。
「ここに行くか」
真冬にホームページを見せたら、こっちのリゾートホテルが良いとか言って来た。
「財布を見てから言え。こっちの民宿に電話するぞ」
「いらっしゃい。今日急に泊まるなんて連絡ですから夕飯が少し寂しいですけど……」
「あ、夕方に食べてるので大丈夫ですよ!」
宿に到着して部屋に案内される。これぞ民宿、というような部屋で他の宿泊客は居ないようだった。
「真冬、分かってると思うけど……」
「大丈夫だから。何もしないから。うん」
不安だ。非常に不安だ。
「それにしてもどうしたものかな」
「何が?」
真冬がなんのこと?とばかりに聞いてくる。
「着替えだよ。汗かいてるだろ?」
「洗濯機借りれないかな。ほら、浴衣があるし」
「嫌な予感しかしないな」
「大丈夫だから」
と、言って部屋を出て行ってしまった。
「さて。どうしたものかな。まさか泊まりになるとはなぁ」
部屋に仁王立ちして今夜のことを考えていたら、真冬が戻ってきた。
「貸してくれるって!それじゃ、私お風呂行ってくる!」
と言って浴衣とタオルを持ってそそくさと部屋を出て行ってしまった。お風呂は男女分かれていないって言ってたから帰ってくるのを待つしかない。
ポコン
「ん?」
スマホから音がした。誰かからメッセージが届いたようだ。知らない電話番号からのショートメッセージだ。
『真冬ちゃんをよろしくね』
そう書かれていた。誰だ?真冬のことを知っていて……。今日泊まりになることを知っている?最初、文香かと思ったけども、電話番号が違うし、こんなことを送ってくるのも不自然だし。
「分からんな……」
と、真冬が戻ってきて入れ替わりでお風呂に入る。あがった後に宿の女将が洗濯物を回収して行ってくれた。洗濯もしてくれるとのことだ。
そして、部屋に戻ると真冬がスマホをジッと見て止まっている。
「何を見てるんだ?」
「うん。占い」
「その占いの今日の運勢は?」
「最高だって」
「なるほど、当たってるってことか」
「自惚れ?」
「違うのか?」
「違わないけど、ちょっと気になることが書いてあって」
と言って画面を見せてくる。
『幸せの陰に注意して』
最高な文言が並んでいるのに、注釈みたいにそんなことが書かれている。
「ね、健斗」
「なんだ?」
「もしも、もしもだよ?大切な人が居なくなったらどうする?」
「どこから?」
「健斗の前から」
「そうだな。今生の別れなのか、単純に地球の裏側にいるのかで違うんじゃ無いのか?」
「近くにいるのに、会えない、みたいな感じ」
「もどかしいな。声は届くのか?」
「どうだろう。届くかも知れないし、そうじゃないかも知れない」
「よく分からんがどうした」
「ん。健斗の占いにはそんなことが書いてあった」
「そうか。って!お前!」
「へへ……」
「へへ、じゃなくてさぁ」
座ってた真冬を上から見てしまって、浴衣の隙間に目が向いてしまった。と、案の定というか下着を着けていない。あの日と同じなのか……。一応、確認しておくか……。
「なぁ、真冬、まさかとは思うけどさ」
「そのまさかなんですねぇ。きゃー、襲われちゃう」
「襲わねぇよ。そういう約束だ」
「健斗は真面目だよね。据え膳食わぬは男の恥、だよ?」
そんなことを言われてちょっと思うところがあったけど、頭の片隅から文香の顔が出てきて我を保つことが出来た。
「ねぇ、健斗」
「なんだ?まだ起きてたのか?」
「健斗だって」
「で?」
「さっきさ、私が居なくなったらって話したでしょ?あれ、本気にしてる?」
本気にしているかどうか。あの日の病室にいたのは真冬そのものなのだろうか。もしそうなら。
「心配にはなったかな。でも真冬は嘘つきだからな」
「そう?私って嘘つきだったんだ」
そう言われて嘘の内容を考えたんだけど、あまり思いつかない。思いつくのは病気のことだけ。
「なぁ、真冬。さっき双子の……」
「え?あれ本気にしたの?うっそ」
「やっぱり嘘つきだな」
やたらと気丈にしている気がしてなんか心が削られる思いがする。
「もう寝るぞ」
僕は何を話したら良いのか分からなくて、そこで話を切って目を閉じた。




