末っ子の一声
どこかの国の言葉に、「孤食」というという言葉があるらしい。意味は、「孤独な、食事」。
まさに今の私だろう。
入れ違いすれ違い。
夜も各々の部屋の明かりはついている。だが、部屋の主人同士が話すことはない。
無論、家の雰囲気は張り詰める一方だった。
とある休日、朝食でミリーが叫んだ。
「今日は、全員私と遊んで!!」
カイトが困った顔をした。
「ミリー、兄さん今日勉強しようと思ってたんだけど…」
「いつもでしょ!!!!」
絶句する兄さんに構わずミリーが言い募る。
「お父様もお母様もいつもお仕事!!リゼ姉様はお稽古!!遊んでくれるのはルイ兄だけ!でもルイ兄も寂しそう!!」
「ミリー、俺寂しくないよ」
「うそよ!!!」
顔色を悪くしたお父様が口を開いた。
「すまないミリー、仕事が、」
「前も言ってた!!ねぇ、いつ?お仕事、いつ終わるの?」
うっと両親が言葉に詰まる。ぼろぼろとミリーが泣き出した。
「お父さん!遊んで!今日くらい、ミリーと遊んで!」
この子はまだ6歳だ。遊びたい盛りなのに。いっぱい遊んでいたのに。
「父さん、母さん」
そう声をかけるとびくりと肩を震わせた。
久々に、顔をまじまじと見たかもしれない。2人とも随分とやつれていた。
「…悪かった」
「えぇ。悪かったわね」
「カイ。今日は休め。クマが酷いぞ。リゼもだ。父さんから先生に頼んでおく」
え。
「……寂しい思いをさせて、悪かった」
父さん。
隣のルイスが俯いて震え出した。
がたっっ!!
「ふっ、ふっざけんなよクソ親父!寂しくなんて、ない、し!」
ぼろぼろとルイスが泣き出した。兄さんが便乗する。
「そうだぞーークソ親父!説明もそこそこにこんな状態にしやがって!!在学中に平民から貴族とかどんだけ大変だと思ってんだよ!!人間関係作り直しじゃねえかふざけんな!!平民のやつは線引いてくるし貴族のやつは見下してくる。俺は見せ物でも人形でもない!責任取りやがれ!」
カイト兄さんの視線が私に向く。
「おいリゼ。今のうちに言っとけ!!」
ぐっと手を握った。
「……教育」
「え?」
「淑女教育!!!なんですかあれ。突然明日からやるとか言い出して!受けるのは私です。勝手に決めないでください!」
濁流のように言葉が溢れてくる。
「大体、なんで親だからって様付けしないといけないのよ!様付けされる立場ならもっと、」
言葉が詰まる。
「もっと!ちゃんと周りを見てください!」
父から目線を外し、母を見る。
「母さんも!いつもは一緒にお茶していたのに最近は一度もしてくださらない!!」
母の目が見開かれる。
「悪、」
「悪いと思うなら今流行りのお菓子を大量に買ってきてください!それから本もたくさん欲しいです。ミリーに絵本も読んであげてくださいね」
にっこりと微笑む。母の顔が崩れた。
「えぇ、えぇ。そうね。そうしましょう」
もう一度父を見る。
「父さん!淑女教育は控えめに言ってクソです。面白くないわけではありません。強制されるのが嫌なのです!今後も続けはしますが、他は私の好きなようにいたします。黙っててください」
ぜいぜいと息をする。
ポツリと父がつぶやいた。
「大きく、なったな」
涙目の母がこくりと頷いた。
⭐︎
その夜、トントンと部屋の扉が叩かれた。
「どうぞ」
ミリーがひょっこりと顔を出した。
「あらどうしたの?」
「これ読んでほしいの」
「トルム物語…」
懐かしい。王子と姫の恋物語だ。
「リゼ姉様」
「なぁに?」
「こんやく?するんでしょ?」
「えぇ」
「どんな人かな、王子様みたいな人かな!」
「さぁ。ねぇミリー。私を好きになってくれる人なんているのかしら」
「姉様は素敵よ?きらきらして、頑張ってるもん。こんにゃくしゃさまも、めろめろになっちゃうかも!」
「婚約者、ね」
そんな物語みたいなこと起こらないわ、と思ったが胸に留めた。せっかくだし試してみるのもいいかもしれない。
「えぇ、そうね。私を見てくれる人だと、いいな」
⭐︎
数日後、グランデン家から顔合わせの日取りを決める手紙が届いた。
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