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辞令:人災育成課配属を命ずる 〜ノルマ8192万人。転生した元最強勇者の転職先は、人災級のポンコツ勇者を 育てるブラック職場でした〜   作者: Ruru
ケース2 カイト

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16日目『口の中』

初めは、一人だった。


東の国に、魔法使いが一人。それがオレの担当で、それで全部のはずだった。


蓋を開けりゃ、北に戦士。南に吟遊詩人。


そんで今、目の前の木陰で、四人目が、ナイフを回してやがる。


「……勇者の、バーゲンセールかよ」


「バーゲン? なにそれ」


「安売りだ」


「うわ、ひど」


そいつは、けらけら笑った。


「まぁでも、否定はしないかなー。俺、そんな強くないし」


「……名乗れ」


「マークでーす。西の国、レーグから来ました。職業は盗賊。よろしくねー」


ぺこり、と、頭が下がる。


軽ぇ。軽すぎる。


「オレは勇者育成課の梶だ。今日からテメェの教育係やる」


「うん」


「オレの姿も声も、勇者にしか届かねぇ。手出しは一切できねぇ。できんのは口だけだ。以上」


「へー」


そいつは、フードの下から、じろじろとオレを眺めた。


「じゃあ梶さんって、幽霊じゃん」


「ちげぇよ」


「あ、でも触れないんでしょ? 幽霊じゃん」


「幽霊は勇者育成課に所属してねぇんだよ」


「まじ? 就職してるんだ、幽霊」


「話を聞け!」


(……こいつ)


オレは、あごを撫でた。


喋る。よく喋る。愛想もいい。


なのに、フードの奥の目が、一度も、こっちに据わらねぇ。


笑いながら、ずっと、値札を読んでるみてぇな目だ。


(……腹が、見えねぇな)


「じゃ、順番に自己紹介いこっか」


マークが、手を叩いた。


「はい、コハルちゃんから」


「え、えっ、あ、あの、南の国の、コハルです、吟遊詩人で、その」


「はいオッケー。次スヨン」


「めんどくせぇ」


「はい終わり。次カイトくん」


「東の国、ルーチェのカイトです。魔法使いをしています。よろしくお願いします」


「ちゃんとしてんなー」


「待て」


オレは、割って入った。


「今のどこが自己紹介だ。スヨン、テメェ一言しか言ってねぇだろうが」


「言ったろ。めんどくせぇ、って」


「それは感想だ!」


「えー、俺は伝わったけどなー」


「テメェは黙ってろ!」


「ひぃっ、大きい声……!」


「テメェは謝るな! まだ何も言ってねぇ!」


「すみません!」


オレは、頭を抱えた。


(……おいおい)


戦士は喋らねぇ。盗賊はふざける。吟遊詩人は縮こまる。


まともなのが、一人しかいねぇ。


(こんなのに、オレは命を張んのか)



息を、一つ吐いた。


聞かなきゃならねぇことが、ある。


「一つ、聞くぞ。……勇者は、これで最後か」


三人が、顔を見合わせた。


「僕は、他に会ったことがないので……」


「知らねぇ」


「わ、わたしも……」


「そうだよ」


マークだけが、即答した。


ナイフを回す手も、止めずに。


「四人。それで全部。増えないよ」


「……根拠は」


「んー、根拠っていうか」


そいつは、指を四本、立てた。


「国が四つしかないから」


「あ?」


「東のルーチェ、北のオーガス、南のアニマ、西のレーグ。で、国ごとに勇者は一人」


指を、一本ずつ、折っていく。


「魔法とスキルってさ、勇者しか使えないじゃん」


「――は?」


「生活魔法は誰でも使えるよ。火ぃ点けるとか、水出すとか。でも、戦うやつは無理」


「……待て」


オレは、カイトを見た。


「テメェ、独学だっつったよな。図書館で、本を片っ端から読んだって」


「はい」


「本は、あったのか」


「……ありました。たくさん」


カイトの目が、少し、丸くなる。


「そういえば、僕以外に、借りてる人を見たことがなかったです」


「そりゃそーっしょ」


マークが、鼻を鳴らした。


「読めても、撃てないもん。だから、どこの国も、勇者を囲い込むわけ」


「囲い込む」


「うちが一人、あっちも一人。手を出したら、こっちも出す。……そういう均衡ってやつ?」


オレは、口の中で、舌打ちをした。


(……なるほどな)


四つの国が、一人ずつ、抱えてる。


だから、女神は、四人まとめてオレに押し付けた。


一人でも欠けりゃ、その均衡が、崩れる。


(――で、オレの腹に、穴が開くってわけか)


「あ、そうそう」


マークが、思い出したみてぇに、顔を上げた。


「歌、もらったっしょ? 王様から」


「あー」


カイトが、うなずいた。


「歌?」


「はい。出発の前に、謁見の間で。……古い祈りの歌だそうです」


「わ、わたしも!」


コハルが、はじめて、身を乗り出した。


「もらいました! 短い、一節だけの……あれ、変わってて」


「なんて歌だ」


「ええと、確か……『息吹を纏い』って」


「僕のは『光を束ね』でした」


「……途中で切れてんな、それ」


「そうなんです!」


コハルの目が、ぱっと開いた。


「続きが、無いんです。おかしいですよね、歌なのに」


「テメェのは、マーク」


「え? 覚えてないなー。紙もらったけど、どっか行った」


「……テメェ、情報屋じゃねぇのかよ」


「情報だよ? 歌詞は情報じゃないっしょ」


「スヨン」


「あ?」


「テメェは」


「知らねぇ」


「もらってねぇのか」


「……もらったかもな。覚えてねぇ」


オレは、天を仰いだ。


(……歌ねぇ)


王様ってのは、どこの世界でも、ヒマらしい。


祈りだの、祝詞だの、そういうもんに割く手間があるなら、勇者に飯でも食わせてやれ。


(……まあ、後回しだ)


今は、目の前に、片付けなきゃならねぇもんがある。



「スヨン」


オレは、あぐらをかいたままの大男の前に、立った。


「テメェ、なんで宿を抜けた」


「……散歩だ」


「北から南へか。ずいぶん歩くな」


「…………」


「言え」


そいつは、しばらく、地面を睨んでいた。


「……酒場でよ。聞いたんだ」


「何を」


「南に、厄介なのが出るって。……村が、やられるかもしれねぇって」


「誰から聞いた」


「知らねぇ。……男だ。隣に座ってた」


「顔は」


「覚えてねぇよ。酔ってたんだ」


「あー」


横から、マークが、手を挙げた。


「それ、俺かも」


オレの首が、勢いよく、そっちを向いた。


「あ?」


「南に厄介なのが出るって話、俺が流したやつ。何日か前」


「テメェ、なんでそんなもん流した」


「え、だって面白い話じゃん」


(――こいつ)


オレは、拳を握った。


「面白い、だと? そのせいで、こいつは一人で南に下ったんだぞ」


「えー、それは俺のせいじゃなくない?」


マークは、悪びれもしなかった。


「俺は、聞いた話を、そのまま言っただけだし」


「誰から聞いた」


「んー……街のおっさん? 荷揚げ場にいた誰か。名前とか聞かないもん、そんなん」


「――ちっ」


そこで、行き止まりだ。


荷揚げ場のおっさんを、オレは、捕まえられねぇ。


声も届かねぇ。顔も見えねぇ。


オレに届くのは、いつだって、誰かが誰かから聞いた話の、そのまた又聞きだけだ。


「スヨン。なんで、オレに言わなかった」


「…………」


「頼れっつっただろうが。あの晩、テメェは何を聞いてたんだ」


「…………」


「一言でよかったんだよ。『南に行く』って、それだけで」


「――うるせぇな!」


そいつが、顔を上げた。


耳が、赤い。


「村がやられるって話だぞ! 悠長に相談してる場合か!」


「相談してから行きゃ、四日も探さずに済んだんだよ!」


「あの」


一拍、あった。


それから、カイトが、静かに口を開いた。


「……結果だけ見れば、スヨンさんが動いたから、僕たちはマークさんに会えたんじゃないですか」


「あ?」


「四人目です。梶さんが、ずっと探していた」


「…………」


「それに、村は、無事でした」


オレは、口を開いて――閉じた。


(……ちくしょう)


正論だ。


腹は立つが、正論だ。


「……ちっ。今回だけだぞ」


「めんどくせぇ……」


「聞こえてんだよ!」


(――マークは、後で締める)


オレは、腹の中に、それだけ書き留めておいた。


†================†


翌朝。


村の連中が、畑を荒らす猪型が出ると言うんで、四人まとめて叩き込んだ。


腕を見るには、ちょうどいい。


「一発でカタをつけようとすんな。今日は、テメェらの棚卸しだ」


「棚卸し?」


「持ち物を数えんだよ。何ができて、何ができねぇか」


麦畑の外れ。土の匂いと、獣の臭ぇのが混ざる。


黒い塊が、四つ。牙が、腕くらいある。


――で、結果だ。


スヨンは、問題ねぇ。


真正面から受けて、力で押し返して、割る。


一度だけ、後ろを振り返らずに、こう言った。


「――カイト。右」


「はい」


(……お)


「そっち」から、名前になった。


半歩だ。だが、半歩は、半歩だ。


カイトも、問題ねぇ。


後ろから、崩す、止める、抜く。無駄がねぇ。


問題は、残りの二人だった。


まず、マーク。


こいつは――上手ぇ。


一番、上手ぇ。


斬り合わねぇ。まず、逃げる。


逃げながら、猪の鼻先に石を投げて、進む向きを変える。


畑の畝を使って、足を取らせる。


気づいたら、三匹が、スヨンの正面に、綺麗に並んでいた。


「はい、まとめといたよー」


「……テメェ」


「え、なに」


「盗賊ってのは、そういう仕事か」


「そりゃそーでしょ」


そいつは、けらけら笑った。


「正面から殴るのは、そっちの人らの仕事じゃん」


(……分かってやがる)


自分に何ができて、何ができねぇか。


それを一番よく分かってるのが、この、一番軽ぇ男だった。


そんで――コハル。


こいつは、畝の陰から、一歩も出なかった。


「あ、あの、わたし」


「歌え。バフだろ、テメェの仕事は」


「……っ」


喉が、上下した。


一度。二度。


音は、出なかった。


代わりに、腰から小せぇ太鼓を外して、思いっきり、叩いた。


どん、と、地面が鳴る。


猪の足が、わずかに、鈍った。


「……できるじゃねぇか」


「……これだけ、です」


コハルは、うつむいた。


「歌えないと、力を上げるほうは、できなくて」


オレは、地面を鳴らし続けるそいつの背中を、見ていた。


デバフはある。だが、オマケだ。


本命のバフが、まるごと、抜けてやがる。


(……こいつが、一番、重いな)



猪の死骸を前に、オレは、四人を並べた。


「よし。今日から、四人で動く」


「えー」


「めんどくせぇ」


「あ、あの、わたしが、いても」


「うるせぇ」


オレは、指を四本、立てた。


「四人揃わねぇと、話にならねぇ。そういう仕組みらしいからな」


四人が、ばらばらに、返事をした。


揃ってねぇ。一つも、揃ってねぇ。


だが、並んじゃいる。


今日は、それで、いい。


十六日目の記録は、ここまでだ。


棚卸しの結果を、書いとく。


戦士、良し。魔法使い、良し。盗賊、上等。


吟遊詩人――保留。


バーゲンセールだと思ってたが、訂正する。


在庫は、四つきりだ。


一つ欠けたら、店ごと、畳むことになる。


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