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辞令:人災育成課配属を命ずる 〜ノルマ8192万人。転生した元最強勇者の転職先は、人災級のポンコツ勇者を 育てるブラック職場でした〜   作者: Ruru
ケース2 カイト

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15日目『三人目』

苛立ってた。


自覚は、あった。


昨日の夜、地図の西の端に、ちかりと灯ったもんがある。


数えたくもねぇもんを、指で数えちまった後だ。


機嫌がいいわけがねぇ。


だが、今朝にはもう、その赤は、霧の向こうに沈んでいた。


追おうにも、海の向こうだ。船がいる。金もいる。


――だから、まずは、あのバカを見つけることだ。


順番を間違えると、ロクなことにならねぇ。これは、経験だ。



「北へ戻る。二人とも、ついてこい」


「はい」


「……え、あの、わたしも、ですか?」


コハルが、外套の裾を握って、目を泳がせた。


「当たり前だろうが。テメェも勇者だ」


「で、でも、わたし、戦えなくて」


「知ってる」


「あの、足手まといに」


「うるせぇ! ついてこい!」


「ひゃいっ」


……調子が狂う。


前の担当も気弱なガキだったが、あいつは、少なくとも返事が「はい」だった。


こいつは「ひゃい」だ。


†================†


三人で、街道を北に戻った。


馬は二頭しかねぇ。コハルとカイトが乗って、オレはその横を走った。


二人乗りで馬を潰すよりゃ、このほうが早ぇ。


オレの体は、飯も食わねぇし、水もいらねぇ。疲れは、する。だが、死にはしねぇ。


こういう時だけは、便利な体だ。


「あ、あの」


半日ほど進んだ頃。


馬の上から、コハルが、おずおずと口を開いた。


「スヨンさん、って……勇者、なんですよね」


「そうだな」


「話を聞く感じ……その」


言いにくそうに、指をこすり合わせる。


「そんな、協調性がない人……探さなくても」


「あ?」


オレは、振り返った。


「ご、ごめんなさい!」


「――は?」


コハルは、びくりと肩を跳ねさせて、勢いよく目を逸らした。


顔を、伏せる。


「すみません、すみません、余計なことを」


「……おい」


「本当に、すみません」


(……なんも言ってねぇだろうが、オレは)


睨んだつもりも、怒鳴ったつもりもねぇ。


ただ、振り返っただけだ。


それだけで、こいつは、こうなる。


オレは、天を仰いだ。


(……掘るなら、順番が要る。今じゃねぇ)


長ぇ息を、吐き出した。


「……そういうわけにも、いかねぇんだ」


「え?」


「あいつは、面倒くせぇ。口も悪ぃ。人の話も聞かねぇ」


オレは、前を向いた。


「だがな。あいつがいなくなると、困る」


「……どうして、ですか」


「うるせぇ。困るもんは、困るんだよ」


(お前が死ぬと、全部、巻き戻るからだ)


そんなもん、言えるわけがねぇ。


「そうですか……」


コハルは、それきり、うつむいた。


――と。


「コハルさん」


隣の馬から、カイトが、穏やかに言った。


「大丈夫ですよ。スヨンさんは、そんなに悪い人じゃないです」


「そ、そうなんですか?」


「はい。この前も、僕と決闘して、負けを認めてくれましたし」


「……決闘」


コハルの顔が、また、白くなった。


「あ、あの、それって、その……血が」


「ええ、まあ、少しは」


「ひっ」


(――おい)


オレは、額を押さえた。


(フォローになってねぇんだよ、そのフォローは)


「あ」


カイトが、自分でも気づいたらしい。


「……すみません。今のは、その」


「い、いえ! わたしが、勝手に、怖がっただけで」


「僕の言い方が、良くなかったです」


「そんなこと!」


……謝り合いが、始まった。


どっちも、いい奴すぎる。いい奴すぎて、話が一ミリも進まねぇ。


「――お前ら、黙って歩け!」


「「すみません!」」


(……なんだこのパーティは)


暴れ牛が抜けた途端、これだ。



それでも、道中は、悪くなかった。


コハルは、無口ってわけじゃねぇ。


慣れてくると、ぽつぽつ喋る。


南の国の話。祭りの話。旅の途中で聞いた、街の噂話。


その、どれもが、やたら細けぇ。


「……歌にする時、細かいところが、大事なので」


そう言って、少しだけ、笑った。


背中の楽器には、一度も、手をかけなかった。


†================†


日が、傾きかけた頃。


「――マップ」


開いた地図の、少し先に。


赤い点が、灯った。


「……いやがった」


胸の奥が、どんと、鳴った。


弱くねぇ。しっかりした明滅だ。動いてる。


生きてる。


「近いんですか?」


カイトが、身を乗り出す。


「もう少しだ! 飛ばすぞ!」


「はい!」


「ひ、ひゃい!」


馬の腹を蹴る音。


蹄が、乾いた街道を、叩き始めた。


オレも、並んで走る。


このガキの足でついていくのは、正直、しんどい。


だが、止まる気は、なかった。


(――今度こそ、逃がさねぇ)


(首根っこ掴んで、引きずって、耳の穴に指突っ込んで説教してやる)


――と。


その時だった。


視界の隅で、地図が、ちらついた。


「……あ?」


赤い点が。


二つに、見えた。


「――は?」


ぴたりと、重なった二つが。


ほんの一瞬、離れて。


そして、また、一つに戻った。


「どうしました、梶さん?」


「…………」


オレは、地図を、指でこすった。


赤い点は、一つだ。


さっきと同じ場所で、じりじりと、点滅している。


二つなんぞ、どこにもねぇ。


西の端は、朝から霧のままだ。あそこの赤は、動きようがねぇ。


「……いや」


オレは、頭を振った。


「気のせいだ」


走りっぱなしで、目が、疲れてやがる。


そういうこともあるだろ。


(……そういうこと、あるよな?)


「――行くぞ! もうすぐだ!」


†================†


丘を、越えた。


その先に、集落があった。


十軒あるかないかの、小せぇ村だ。


畑と、井戸と、木の柵。干し草の匂いがする。


その、村はずれの木陰に。


――いた。


赤茶けた髪。剥き出しの腕。地べたに、あぐらをかいて座ってやがる。


生きてる。傷も、ねぇ。


「――スヨン! このクソ野郎ォ!」


オレは、走った。


そいつが、こっちに気づいて、顔を上げた。


「げっ」


「げっ、じゃねぇ! テメェ、どんだけ探させりゃ気が済むんだ、ああ!?」


「うるせぇな、めんどくせぇ……」


「めんどくせぇのは、テメェの捜索だ!」


――で。


そこで、気づいた。


そいつの、隣に。


もう一人、座っていた。


細っこい体格の、男だ。歳は、スヨンと同じくらいか。


軽そうな革の装備に、フードを目深にかぶってる。


膝の上で、小せぇナイフを、くるくると回していた。


そいつは、オレを見て。


――こっちを、見て。


にっ、と笑った。


「うわ、まじで見えるんだ。スヨンの言ってたやつじゃん」


「――」


オレの足が、止まった。


(……さっきの)


(二つに、見えたやつだ)


「鑑定」


指が、勝手に、動いていた。


『名前:マーク

 職業:盗賊

 称号:勇者

 状態:異常なし

 ――担当勇者と一致』


風が、畑の上を、渡っていった。


四人目だ。


「え? なに、その顔。えっ、こわ」


そいつは、ナイフを回す手を止めずに、へらへらと続けた。


「あー、はいはい。俺のこと、聞いてないって感じ?」


十五日目の記録だ。


一つ、白状しとく。


あの白い部屋で、女神は、言いかけたんだ。


『では、今回の担当勇者は――』


その先を、遮ったのは、オレだ。


聞いたって、どうせ肝心なところはダンマリだ。現地で調べりゃいい。


そう思って、床が抜けるのに任せた。


十五日かかった。


腹に、二回、穴が開いた。


答えは、最初っから、あの女の口の中にあった。


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