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辞令:人災育成課配属を命ずる 〜ノルマ8192万人。転生した元最強勇者の転職先は、人災級のポンコツ勇者を 育てるブラック職場でした〜   作者: Ruru
ケース2 カイト

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10日目『妹の名』

俺は、はじめから、あの優等生が気に入らなかった。


カイト。東の国から来た、勇者だ。


同じ勇者だってのに、俺――スヨンとは、何もかもが違う。



他の国に、俺以外の勇者がいる。それは、聞いていた。


どんな奴か、興味がなかったと言や、嘘になる。


強ぇのか。俺より、上か下か。会ったら一発、殴り合ってみてぇ。


その程度には、思っていた。


港に来る商人どもが、東の勇者の話をしていた。


優しい。賢い。礼儀正しい。あんな勇者は、見たことがない。


ふん。反吐が出る。


そんで、実物を見た。


先に来たのは、気持ち悪さだった。


笑い方も、喋り方も、頭の下げ方も、何もかもが、癇に障る。


理屈じゃねぇ。腹の底が、ざらついた。


……八つ当たりだってのは、分かってる。


分かってるが、無理なもんは、無理だ。


俺は、認めねぇ。認めるもんか。


†================†


前世の俺が生まれたのは、坂の多い、灰色の街だ。


冬が長い。風が、骨まで冷やす。


あの国じゃ、弱いってことは、罪だった。


いい学校に入れなきゃ、人間じゃねぇ。いい会社に入れなきゃ、負け犬だ。


朝から晩まで机にかじりついて、それでも、上には上がいる。


隣の家のガキより、一点でも上を取れ。取れなきゃ、意味がねぇ。


そういう国だ。


その頃の俺は、今とは、まるで違った。


聞き分けのいい、出来のいいガキを、やっていた。


親の言うことは聞いた。先生には従った。成績も、上のほうを保った。


近所からは、あそこの子はしっかりしてる、と言われていた。


強くならなきゃ、いけなかったんだ。


俺には、妹がいた。


歳の離れた、小せぇ妹だ。


体が弱くて、よく熱を出す。俺の後ろに、いつも隠れてるような子だった。


親父は、早くにいなくなった。


残ったのは、身を粉にして働く母親と、病弱な妹と、俺。


だから、俺が強くなきゃ、ならなかった。


あの国じゃ、弱ぇ者は踏まれる。


金のある奴に、力のある奴に、いいように搾り取られる。


弱音を吐いた瞬間、終わりだ。誰も守っちゃくれねぇ。


守れるのは、強ぇ奴だけだ。


俺が稼いで、俺が上に行って、俺が、母親と妹を守る。


そう信じていた。


守れ、なかった。



妹は、ある日、いなくなった。


俺が、バイトと勉強で、家を空けてる間に。


理由は、後から少しずつ分かった。


学校でのこと。逃げ場のなかったこと。誰にも言えなかったこと。


背後に、金と力のある家の子がいたこと。


俺は、妹の苦しみに、一つも気づいてやれなかった。


強くなろう、上へ行こう。それだけを見てた俺の、すぐ後ろで。


あの子は、一人で、暗ぇ場所に沈んでいってた。


冷たくなった、小せぇ手を握った時の感触は。


今でも、指が覚えてる。



俺は、その家に乗り込んだ。


止める母親を、振り払って。


その先のことは、あんまり覚えちゃいねぇ。


ただ、赤かったのだけは、覚えてる。


捕まった。裁かれた。


弱ぇ者が、強ぇ者に手を出したんだ。結末は、決まってた。


俺は、あの灰色の国で死んだ。



気がついたら、真っ白な部屋にいた。


作り物みてぇな女が、立っていた。


満面の笑みで、瞳には何も宿っちゃいねぇ女だ。


「あなたは、勇者です」


抑揚のねぇ声で、そいつは言った。


わけの分からねぇ話だった。


だが、俺は聞いちゃいなかった。


宙に浮いた自分の情報を、じっと見ていた。


そこに書かれた、前世の名前を。


「……なあ」


俺は、女に言った。


「名前を、変えたい」


「どうぞ」


「スヨンに、しろ」


女は、瞬き一つせずに、うなずいた。


スヨン。


妹の、名前だ。


俺は、あの子を忘れねぇ。


強くなれなかったから、あの子を守れなかった。


なら、次は。次の生では。


あの子の名前を背負って、二度と、誰にも踏まれねぇ。


二度と、大事なもんを、こぼさねぇ。


戒めだ。


弱かった前の俺を殺して、スヨンとして、強くあり続ける。


それだけを、決めた。


†================†


だから、優等生ってのが、嫌いだ。


昔の俺が、そうだったからだ。


中身を空っぽにして、周りの求める顔だけを、貼り付けてた。


それを、しっかりしてる、と褒められてた。


あの頃の俺は、たぶん、ひでぇ面をしてたと思う。


だから、ああいうのを見ると、腹の底が、ざらつく。


鏡を、無理やり顔に押し付けられてるみてぇで、たまんねぇ。


分かってる。全部、俺の勝手だ。


あいつは、何もしちゃいねぇ。


それでも、無理なもんは無理なんだ。



それから、俺は、強さだけを求めた。


他は、何も考えなかった。


つるむ相手も、いらねぇ。頼る相手も、いらねぇ。


頼るってことは、弱さをさらすってことだ。


弱さをさらしゃ、踏まれる。踏まれりゃ、また、こぼす。


一人で突っ込んで、一人で狩る。


それが一番強ぇ。それが一番、間違いねぇ。


前も、後ろも、見ずに。


そんな時に、あいつが現れた。


相変わらず気に入らねぇ優等生の、後ろに。


ちっこいのを、一人、連れて。


銀色の髪の、小せぇガキだ。


口は悪ぃ。態度もでけぇ。俺を「梶っ子」なんて、舐めた呼び方をしやがる。


言動は、まるで違う。ぜんぜん違う。


……なのに。


なんでか、あの子を思い出させた。


俺の後ろに隠れてた、小せぇ妹を。


そのガキは、俺をまっすぐ見上げて。


臆する様子も、なく。


こう言った。


「――オレが、お前を、強くしてやる」


ふざけんな。


俺より頭二つも小せぇガキが、何を言ってやがる。


俺は、これ以上ねぇほど強ぇんだ。


教わることなんざ、何も――


「おい。聞いてんのか、コラ」


「うるせぇな。めんどくせぇ」


犬でも追い払うみてぇに、手を振った。


ガキは、どかなかった。


腕を組んで、そこに突っ立ったまま、俺を見上げてやがる。


……ちっ。


足元の、この小せぇのが。


どうしても、目に、入る。


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