↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
辞令:人災育成課配属を命ずる 〜ノルマ8192万人。転生した元最強勇者の転職先は、人災級のポンコツ勇者を 育てるブラック職場でした〜   作者: Ruru
ケース2 カイト

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/35

8日目『胸騒ぎ』

言っておくが、オレは、そこそこ勘のいいほうだ。


殴り合いで飯を食ってた頃、後ろから来る一発ってのは、当たる前に、首の後ろがざわつく。


そのざわつきってのは、たいてい、当たる。


――この日の朝、オレの首の後ろは、朝からずっと、ざわついていた。



目が覚めたら、スヨンが消えていた。


宿の、そいつが寝てたはずの床には、丸めた毛布だけが残っている。


窓が、開けっぱなしだ。冷てぇ風が、部屋に吹き込んでいた。


「……おい、スヨン?」


便所か。いや、荷物が、無ぇ。


宿の裏も、井戸端も、昨日暴れた酒場も覗いた。


どこにも、あの赤茶けた頭は、なかった。


「梶さん!」


カイトが、息を切らして駆けてくる。


「街の人に、聞いたら……この付近で、ゴブリンキングが出たって」


「まじか」


胃の底が、ずくりと重くなった。


「じゃあ、あのバカ……もしかして」


「たぶん、向かったんだと思います」


「ちっ……あのド阿呆がァ!」


オレは、頭を掻きむしった。


冷や汗が、こめかみを伝う。


「あの、梶さん?」


「なんだ」


「僕が言うのも、なんですけど……」


カイトは、言いにくそうに、続けた。


「ゴブリンキングなら、スヨンの実力で、大丈夫かと」


「わかってる!」


つい、声が跳ねた。


「……わかってんだよ。でも、違うんだ」


「?」


こいつの言うことは、正しい。


スヨンは、口は悪いが、腕は本物だ。氷で足を掬われなきゃ、カイトにだって、そう簡単には負けなかった。


ゴブリンキングの一匹くらい、あいつなら、鼻歌交じりでカタをつけるだろう。


でも――違う。


問題は、そこじゃねぇ。


「……日付は、とっくにズレてる」


オレは、床を睨んで、小声で吐き捨てた。


「え? 日付?」


「……いや」


言えるわけがねぇ。


一回目のループで、オレが腹から血を噴いて死んだのは、四日目だ。


今日は、八日目。


四日、遅ぇ。


(……だったら、なんで、首の後ろがざわつきやがる)


分かってる。


あの時、オレはカイトと山にいた。北の空じゃ、こいつが――スヨンが、腹をやられて、死んだ。


たった一人で、誰の指図も受けずに、どこかへ突っ込んで。


日付は、ズレた。オレが北へ来たぶん、全部が後ろへ動いた。


だが、形は、同じだ。


一人で出て行った。でかいのが待ってる。


(……今度も、腹だ)


確証なんざ、どこにもねぇ。


外したところで、無駄骨を一日ぶん背負うだけだ。


当たってたら、全部、巻き戻る。


賭けるほうは、決まってる。


「止めねぇと」


オレは、顔を上げた。


カイトを、見る。


「カイト。オレは、スヨンを連れ戻しに行く」


「なら、僕も」


「お前は、この街に残れ」


「え?」


カイトが、目を丸くした。


「ゴブリンは、群れで動く」


オレは、早口で続けた。


「キングが出たってこたぁ、他の連中も、うろついてる。お前まで出払ったら、街にゴブリンが来た時、誰が守るんだ」


「……なるほど」


「お前は残って、この街を守れ。それが、お前の役目だ」


(それに、二人まとめて動かして、二人まとめて死んだら、笑い話にもならねぇ)


一瞬だけ、カイトは、何か言いかけた。


だが、すぐに、うなずいた。


「わかりました」


いつもの、素直な顔で。


「梶さんも、気をつけて」


「おう」


†================†


門を抜けると、風が、さらに冷えた。


「マップ」


薄青い地図が、目の前に広がる。


赤い点は、街の北――山の裾を回り込んだ、谷のあたりで、点滅していた。


そして、その周りに。


薄い線が、うっすらと残っている。


スヨンが、たった今、通っていった、足跡の履歴だ。


赤い糸みてぇに、街道を外れて、まっすぐ山へ伸びていた。


「……律儀に、獣道を突っ切ってやがる」


こいつは、道を、選ばねぇ。最短距離を、力ずくで進むタイプだ。


だが――そのぶん、無駄も多い。


沢を大回りして、崖を無理に登ってる。


オレは、地図の上で、その線を、指でなぞった。


(ここを、こう抜けりゃ、半分だ)


スヨンが大回りした沢を、まっすぐ渡る。


崖は登らず、脇の獣道を回る。


足跡の履歴と、地形を照らし合わせりゃ、近道は、いくらでも見える。


それに、オレには、もう一つ、でかい強みがあった。


歩き出すと、藪の中から、ゴブリンが二匹、顔を出した。


赤い目が、こっちを――


見ない。


素通りだ。


(そうだ。オレは、認識されねぇ)


このガキの体は、モンスターの目に、映らねぇ。


スヨンなら、一匹ずつ相手取って、時間を食う。オレは、その横を、素通りできる。


戦わずに、やり過ごせる。


十歳の、短ぇ足でも。


近道と、認識阻害。


この二つがありゃ、あの直進バカに、追いつくのは、不可能じゃねぇ。


「待ってろ、クソが」


オレは、獣道を、駆けた。


†================†


走ること、小一時間。


息が、上がる。


このガキの体は、持久力が、まるでねぇ。すぐに、心臓が悲鳴を上げやがる。


膝に手をついて、オレは、マップを覗いた。


「……止まってやがる」


赤い点が、動かねぇ。


さっきまで、じりじりと山を登っていた点が、谷の一点で、ぴたりと張り付いている。


その周りに、小さな点が、いくつも、群がっていた。


(――戦ってやがるな)


心臓が、跳ねた。


汗が、一気に冷える。


「チッ……間に合え!」


オレは、また、駆け出した。


木の根に、つまずく。膝を、擦りむく。かまわず、立ち上がる。


このガキの体を、ぶっ壊す勢いで、谷へ、下った。



木立が、途切れた。


開けた谷底。


濁った獣の匂いと、血の匂いが、風に混ざる。


そこに、いた。


赤茶けた頭が、剣を振り回している。


周りには、ゴブリンの死骸が、山になっていた。


その、真ん中で。


そいつを見下ろす、一回り、いや、二回りでかい影があった。


錆びた鉄の冠。だらりと下げた、鉈みてぇな剣。


ゴブリンキングだ。


「――スヨン!!」


オレの叫びは、たぶん、届いていた。


だが、そいつは、振り向きもしなかった。


「うおおおおおッ!!」


血を吐くみてぇに吠えて、たった一人で、その巨体に、斬りかかっていく。


八日目の記録は、ここまでだ。


……間に合ったのか、間に合わなかったのか。


そいつは、次に書く。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。