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第118話:隣にいる理由と、気づかない依存

人は、理由がなくても誰かの隣にいられる。

けれど――

“理由が必要になる瞬間”が来たとき、

その関係は、もう以前とは同じではいられない。

それが、ただの偶然だったのか。

それとも、選ばれた結果なのか。

まだ誰も、気づいていない。

放課後。

教室にはまだ何人か残っていた。

「はぁぁ……終わらない……」

アオイが机に突っ伏す。

「課題、多すぎない!?これ!」

「普通だと思うけど」

ミサキが淡々と返す。

「普通じゃないよ!?ナカムラもそう思うよね!?」

「……いや、量自体は平均的かな」

「裏切り者ぉぉぉ!!」

教室に小さな笑いが広がる。

いつも通りの空気。

――のはずだった。

「ラフリ」

静かな声。

振り向くと、ユナが立っていた。

「今日、残る?」

「……少しだけ」

「そっか」

その返事は短かった。

だが――

ユナはそのまま席に座った。

帰る様子はない。

まるで最初から、そのつもりだったかのように。

「……何するんだ?」

ラフリが聞く。

「勉強」

それだけ。

シンプルな答え。

だが――

「一人だと、あんまり進まないから」

視線を少しだけ逸らしながら言う。

「……別に、俺がいなくてもできるだろ」

「できるよ」

即答。

だが、その後に続いた言葉は――

「でも、いた方がいい」

静かで、揺るがないものだった。

ラフリは一瞬だけ言葉を失う。

「……そうか」

それ以上は何も言わない。

言えなかった。

数分後。

机がいくつか並べられ、自然と“勉強会”の形になる。

「ナカムラ先生〜ここ分かんない〜」

「どこ?」

「ここここ!」

「……これは公式を使えば――」

「むりぃぃぃ!!」

アオイが騒ぎ、ミサキがため息をつく。

「うるさい」

「ミサキ冷たっ!」

「事実」

そんなやり取りの中で――

ラフリはノートを見ていた。

そして、その横には――

ユナがいる。

「……ラフリ」

「ん?」

「ここ、教えて」

まただ。

距離が近い。

肩が触れそうな位置。

「どこだ?」

「ここ」

指が同じ場所を指す。

ほんの少しだけ、触れる。

一瞬だけ。

それだけなのに――

(……なんでこんなに気になるんだ)

「これはこうだな」

説明する。

いつも通り。

だが視界の端で、

ユナの視線がずっとこちらに向いているのが分かる。

「……分かった?」

「うん」

返事はある。

だが――

ペンは動いていない。

「……書かないのか」

「……あとで書く」

そう言いながらも、視線は外れない。

ラフリを見たまま。

しばらくして。

「ねえ」

ユナが小さく言う。

「なんだ?」

「ラフリってさ」

また少しだけ言葉を選ぶ。

「……なんで、そんなに普通なの?」

「普通ってなんだよ」

「そのままの意味」

曖昧な問い。

だが――

ユナの中では、確かな意味を持っている。

「……分からないな」

正直に答える。

「そっか」

ユナは小さく頷く。

そして――

ほんの少しだけ、安心したように息を吐いた。

時間が過ぎる。

外はすっかり夕焼けに染まっていた。

「そろそろ帰る?」

ナカムラが時計を見る。

「やっとかぁ……」

アオイが伸びをする。

「疲れた……」

ミサキも小さく肩を回す。

それぞれが帰る準備を始める中――

ユナは動かなかった。

「……ユナ?」

ラフリが声をかける。

「……うん」

少し遅れて返事。

「帰らないのか」

「帰るよ」

そう言いながら、ゆっくりと立ち上がる。

だがその動きは――

どこか名残惜しそうだった。

帰り道。

人数は自然と減っていき、

最後に残ったのは――

ラフリとユナだけだった。

「……静かだな」

「うん」

短い会話。

でも――

その沈黙は、嫌じゃない。

むしろ――

どこか心地いい。

「ラフリ」

「ん?」

「今日、ありがとう」

「何がだ」

「……全部」

曖昧な言い方。

でも、そこに嘘はなかった。

ラフリは少しだけ考えてから言う。

「大したことしてない」

「してるよ」

即答。

迷いなく。

「……そっか」

それ以上は何も言わない。

だが――

その言葉は、確かに届いていた。

別れ際。

「また明日」

「うん」

ラフリが歩き出す。

その背中を、ユナは見つめる。

昨日よりも。

今日よりも。

少しだけ長く。

その夜。

ユナは机に向かっていた。

開かれたノート。

だが――

そこに書かれているのは、ほんの数行だけ。

ペンは止まっている。

代わりに、

彼女の視線は――

何もない空間を見つめていた。

「……一人だと」

小さく呟く。

「進まないんだよね」

理由は分かっている。

でも、認めたくはない。

まだ――そこまでじゃない。

そう思いたい。

けれど。

「……でも」

指先が、わずかに震える。

「一緒だと……落ち着く」

その言葉は、

誰にも聞かれないまま、静かに消えた。

それはまだ、“依存”と呼ぶには早い。

けれど確実に――

その形は、ゆっくりと作られ始めていた。

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