表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
94/110

第114話『雨の予報と、届かなかった警告』

悲劇は、突然落ちてくるようでいて――

その前から、いくつもの予兆を置いていく。

見過ごした違和感。

笑って流した不安。

言えなかった一言。

もし、あの時気づけていたなら。

そんな後悔は、いつだって後から来る。

朝。

空は曇っていた。

厚い雲が空を覆い、太陽の姿は見えない。

湿った風が窓から入り込み、教室の空気まで重くしている。

アオイは窓の外を見て肩を落とした。

「うわー……絶対雨じゃん。私の髪、今日終わった」

「天気より先に生活態度直しなさい」

ミサキが即座に切る。

「辛辣!?」

ナカムラは笑いながら傘を畳んだ。

「でも確かに降りそうだな」

その何気ない会話の中で、ラフリだけは笑えなかった。

雨。

その言葉だけで胸がざわつく。

濡れた道路。

割れる音。

炎。

泣き叫ぶ自分。

「……っ」

まただ。

断片的な記憶が、現実に滲んでくる。

ユナが席に着く。

「顔色、悪いわよ」

「お前もな」

「私は平気」

「嘘つけ」

自然に返した言葉だった。

ユナは少し目を見開き、それから苦笑する。

「……最近、強引ね」

「誰のせいだよ」

「さあ?」

短いやり取り。

その時間だけ、ラフリの不安は少し薄れた。

一時間目。

教師の声が教室に響く。

だが、外の空ばかり気になった。

雲はさらに濃くなっている。

カチ、カチ。

時計の音。

また一瞬だけ針が揺れた気がした。

ラフリは立ち上がりそうになる。

「……ラフリ?」

ユナの声で我に返る。

周囲が不思議そうに見ていた。

「なんでもない」

座り直す。

だが、心臓の音は収まらない。

昼休み。

ラフリは購買にも行かず、窓際に立っていた。

ミサキが近づく。

「まだ引きずってんの?」

「……嫌な予感がする」

珍しく本音だった。

ミサキは少し黙る。

「根拠は?」

「ない」

「最悪ね」

「分かってる」

彼女はため息をついた後、隣に立つ。

「でも、そういう時って当たるのよね」

「お前も言うのか」

「なんとなくよ」

その時、アオイが飛び込んできた。

「大変! 今日の下校時間、雨すごいって!」

「情報源どこよ」

「勘!」

「帰れ」

少しだけ空気が緩む。

だがラフリの不安だけは消えなかった。

放課後。

窓を叩くような雨が降り始めていた。

教室の外は灰色に霞んでいる。

生徒たちは慌ただしく帰り支度を始めた。

「やば、部活なくなった!」

「助かった……」

「傘ねえ!」

騒がしい教室。

その中でユナは静かに荷物をまとめていた。

迎えの車が来るはずだ。

その光景を見た瞬間――

ラフリの中で何かが弾けた。

『タイヤが破裂した』

『横から突っ込んできたバン』

『ユナを――俺に救わせてくれ!!』

鮮明すぎる断片。

ラフリは立ち上がる。

「ユナ、今日は帰るな」

教室が静まる。

ユナが瞬きをした。

「……え?」

「車に乗るな。今日はダメだ」

「急に何を――」

「いいから!」

思わず声が強くなる。

アオイが息を呑む。

ナカムラも表情を変えた。

ミサキは目を細める。

ユナは困ったようにラフリを見る。

「理由を言って」

「……言えない」

「それじゃ納得できないわ」

正しい返答だった。

けれど今のラフリには、その正しさが苦しい。

「頼むから……今日はやめてくれ」

その声は、懇願に近かった。

ユナの瞳が揺れる。

だがその時、教室の扉が開く。

「お嬢様、お迎えに参りました」

使用人だった。

完璧なタイミング。

ラフリの背筋が冷える。

まるで決められていた流れみたいに。

ユナは静かに立ち上がる。

「……ごめんなさい」

その一言だけ残し、歩き出す。

ラフリは腕を掴もうとして止まった。

掴めない。

強制する権利なんてない。

ただ見送ることしかできない。

ユナは一度だけ振り返った。

何か言いたそうにして、結局何も言わず去っていく。

数秒の沈黙。

次の瞬間、ラフリは走り出していた。

「おい、ラフリ!」

ナカムラの声も聞こえない。

傘も持たず、雨の中へ飛び出す。

ミサキが舌打ちする。

「……最悪」

アオイは震えた声で呟く。

「これ、絶対なんか起きるやつじゃん……」

校門前。

激しい雨。

水しぶき。

遠ざかる黒い車。

ラフリは全力で走る。

間に合え。

間に合え。

間に合え。

道路の先、信号の向こうで――

大型車両のライトが、不自然な速度で迫っていた。

届かなかった警告。

止められなかった背中。

そして再び降り出した雨。

少年は走る。

過去と同じ結末を、今度こそ壊すために。

だが運命は、

そう簡単に譲るつもりはなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ