第九話:わがままを手放すということ 【改訂版】
私はただ、あなたを守りたかった。
それだけだった。
でも――
その想いが、あなたを苦しめてしまうのなら。
私は……
あなたの隣にいる資格なんて、ないのかもしれない。
だから私は、
離れることを選んだ。
私は、戸惑っていた。
自分の気持ちが――
あまりにも重くて。
あまりにも溢れすぎていて……
怖かった。
この愛が、
あなたを押し潰してしまうんじゃないかって。
だから私は――
離れることを選んだ。
捨てたわけじゃない。
嫌いになったわけでもない。
ただ……
あなたに、ちゃんと呼吸をしてほしかっただけ。
時間は、残酷なほど静かに流れていく。
何日も。
何週間も。
あなたのいない日々は、
まるで色のない世界みたいで。
どれだけ手を伸ばしても――
もう届かない場所に、あなたはいた。
それでも私は――
戻ってきた。
もう一度、あなたの隣に立つために。
もう一度、あの頃みたいに笑うために。
でも――
あなたは、変わっていた。
話し方も。
仕草も。
そして――
私を見る、その目さえも。
すべてが、知らない人みたいだった。
怖かった。
私が知っているあなたは……
もうどこにもいないんじゃないかって。
震える勇気を、かき集めて。
私は――聞いた。
そして――知ってしまった。
あなたの隣には、
もう別の人がいるって。
その事実は、
あまりにも静かで、
あまりにも残酷で。
私の居場所は――
もう、そこにはなかった。
胸が締め付けられる。
息が、うまくできない。
叫びたかった。
泣きたかった。
「戻ってきて」って――
言いたかった。
それでも――
口から出たのは、
たった一つの言葉だった。
「……幸せ、なの?」
私たちは言い合った。
想いについて。
過去について。
一緒に守ってきた、すべてについて。
でも――
気づいてしまったの。
あなたの目は、
もう私を見ていない。
あなたは――
あなた自身を選んだ。
あなたの道を選んだ。
そしてその道は――
もう、私と交わることはない。
その瞬間、私は理解した。
愛するってことは、
必ずしも“そばにいること”じゃない。
時には――
手放すことなんだって。
まだ好きなのに。
まだここにいるのに。
それでも私は――
あなたを手放す。
あなたを傷つける存在には……
なりたくないから。
私は、笑った。
きっと……
一番綺麗な、最後の笑顔で。
そして背を向けて、歩き出す。
もう振り返らないように。
振り返ったら――
きっと、壊れてしまうから。
そして、声にならない声で――
小さく、そっと、つぶやいた。
「……さよなら、私の愛した人」
背を向けて歩き出す。
もう、振り返らない。
……振り返ったら、きっと壊れてしまうから。
小さく、小さく――
誰にも聞こえない声で、私はつぶやいた。
「さようなら……私が愛した人」
風が、静かに吹いた。
まるで、私の中に残っていた最後の“わがまま”を
空へ連れていくみたいに。
※本話は物語の一貫性のために加筆・修正を行いました




