第十話 そこにいるよ――君が彼といても 【改訂版】
それでも俺は――
君のそばに、いられなくてもいいと思った。
恋人じゃなくていい。
夫じゃなくてもいい。
ただ――
君がつらいときに、
寄りかかれる場所でいられるのなら。
それだけで、
よかった。
ユナは――別の男と結婚した。
あの日から、
俺の時間は止まったままなのに、
彼女の時間だけが、
前へ、前へと進んでいった。
本当なら――
それで幸せになってくれるなら、
それでよかったはずなのに。
……でも現実は、違った。
彼女の夫は、怠惰で、
自分の欲望と気分だけで生きているような男だった。
ユナは、いつも疲れた顔をしていた。
笑っていても――
どこか無理をしている笑顔だった。
その笑顔を見るたびに、
胸の奥が、静かに壊れていく。
それでも俺は――
何もできなかった。
何もする資格なんて、ないから。
だから俺は、
あの頃と同じように――
あの公園に通い続けていた。
ユナと、まだ何も失っていなかった頃に、
何度も一緒に来た場所。
ベンチも、
木も、
風も、
全部――あの頃のままだった。
ただ、違うのは――
隣に君がいないことだけ。
そして、今日。
偶然なのか、必然なのか――
その場所で、ユナと再会した。
「……久しぶり」
その一言だけで、
胸の奥が強く締めつけられる。
俺たちは、昔みたいに話した。
まるで――
何も変わっていないみたいに。
でも。
変わってしまったものは、
確かにそこにあった。
少しの沈黙のあと――
俺は、静かに言った。
「……なあ、ユナ。ひとつ、歌ってもいいか?」
彼女は少し驚いた顔をして、
でも――小さく頷いた。
俺は空を見上げて、
ゆっくりと息を吸い込んで――
静かに、歌い始めた。
「きっと君は、また立ち上がれる
一人だなんて思わないでくれ
苦しいときは、向き合えばいい
――ここに、俺がいる」
声は大きくなかった。
でも――
この胸に残っていた想いを、
すべて込めた。
「たとえあいつが
もう君のそばに長くいなくても
君が今、幸せじゃないのなら――
もう全部、忘れていい
置いていけばいい
無理に抱えなくていい」
ユナは、何も言わずに聞いていた。
その瞳の奥にある感情を、
俺は読み取ることができなかった。
それでも俺は――
歌い続けた。
「目を開けてみてくれ
この世界は、思っているより広くて
君のことを想ってる人は、
ちゃんといる
過去なんて振り返らなくていい
後悔もしなくていい
――ここに、俺がいる」
最後に、俺は目を閉じて、
静かに言葉を落とした。
「ほんの一瞬でもいい。
それが一生でもいい。
君にとって――
意味のある存在でいさせてくれ」
風が、静かに吹いた。
ユナはしばらく何も言わず、
ただ空を見上げていた。
その横顔は――
泣いているのか、笑っているのか、わからなかった。
でも、ひとつだけ確かなことがある。
たとえ彼女が誰を選んでも。
たとえ俺が選ばれなくても。
それでも俺は――
彼女のそばに、
“想い”として残り続ける。
愛されなくてもいい。
ただ――
君が、もう一度笑えるのなら。
それだけで、いい。
夜空を見上げる。
夕風がそっと頬を撫でる中で――
ここで…静寂と記憶の中で、
ひとことだけ、ささやきたい。
「ありがとう……ここまで僕の物語を読んでくれて。」
ほんの一瞬でも、
君たちが僕とユナの歩みを追いかけてくれた時間は、
確かに意味のあるものだった。
この物語は――
たとえ暗く、苦く、時に虚しくても。
それでも、
僕たちの大切な旅の一部だから。
そして――
次の章まで。
どうか、ここで一緒に待っていてほしい。
※本話は物語の一貫性のために加筆・修正を行いました




