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第八十五話:変わらないはずの日常

変わらないはずだった。

昨日と同じように、

今日も続いていくはずだった。

笑って、話して、

少しずつ前に進んでいく。

そんな日常が――

どこまで本物なのか、

まだ誰も知らない。

朝。

教室。

窓から差し込む光が、いつもより少しだけ眩しい。

ラフリは席に座っていた。

机の上にはノート。

開かれているページ。

昨日の続き。

『協力者』

・ナカムラ

・アオイ

ペン先が止まる。

(……ユナ)

書くか、迷う。

「……やめとくか」

小さく呟く。

理由は分からない。

でも――

(あいつは……違う気がする)

言葉にできない違和感。

その時。

「おはよー」

明るい声。

アオイ。

いつもより、少しテンションが高い。

「ラフリくん、今日も一緒にお昼食べよ?」

「……昨日も一緒だっただろ」

「いいじゃん」

笑う。

自然に、隣の席に座る。

距離が近い。

(近いな……)

ラフリは少しだけ視線を逸らす。

その様子を――

「……仲いいね」

ローズ。

いつの間にか、近くにいる。

微笑んでいる。

でも。

その目は、少しだけ細い。

「別にそんなんじゃねえよ」

ラフリが答える。

「そう?」

ローズが少し首を傾ける。

「でも、楽しそうだよ」

その言葉に、

アオイが少しだけ照れる。

「そ、そんなこと……」

「あるでしょ?」

軽い会話。

普通の空気。

でも――

ラフリは、どこか落ち着かない。

(……なんだ?)

違和感。

理由は分からない。

でも確かにある。

その時。

「ラフリ」

声。

ユナ。

いつもの位置。

静かに立っている。

「今日、少し時間ある?」

「……放課後なら」

「そう」

短く頷く。

それだけ。

会話は終わる。

でも。

その一言だけで、空気が少し変わる。

ナカムラが後ろから声をかける。

「おいラフリ」

「なんだよ」

「今日、体育あるぞ」

「……最悪だな」

「だろ?」

ナカムラが笑う。

そのまま、いつもの空気が流れる。

授業。

休み時間。

何気ない会話。

すべてが、普通。

普通すぎるくらいに。

(……こんなもんか)

ラフリは小さく息を吐く。

昨日のこと。

ナカムラ。

アオイ。

少しずつ、前に進んでいる。

(悪くない)

そう思った――

その時。

カタン。

小さな音。

誰かの机。

一瞬だけ、教室が静まる。

でもすぐに戻る。

誰も気にしない。

ラフリも、最初は気にしなかった。

でも――

(……今の)

ほんの少しだけ。

“ズレた”気がした。

説明できない。

でも。

確かに。

「……気のせいか」

自分に言い聞かせる。

そのまま、視線を戻す。

でも。

その違和感だけは、

消えなかった。

放課後。

教室。

人は少ない。

ラフリは窓の外を見ていた。

夕焼け。

いつもと同じ景色。

そのはずなのに。

(……なんか)

落ち着かない。

背後から足音。

振り向く。

ユナ。

「来たか」

「うん」

短い会話。

ユナは少しだけラフリを見る。

「今日の教室」

「……ああ」

「何か感じた?」

その言葉に。

ラフリの心臓が、わずかに跳ねる。

「……やっぱりか」

ユナは小さく頷く。

「説明はできない」

「でも、ズレてる」

完全に同じ言葉。

ラフリは少しだけ苦笑する。

「便利だな、お前」

「効率的なだけ」

いつも通りの返し。

でも。

その内容は、軽くない。

「……どうする」

ラフリが聞く。

ユナは少しだけ考える。

そして。

「まだ動かない方がいい」

「情報が足りない」

ラフリは静かに頷く。

「……分かった」

そのまま、二人は黙る。

夕焼けの中。

静かな時間。

でも。

その裏で。

確実に、何かが動いている。

誰にも見えない場所で。

静かに。

確実に。

日常は続いている。

何も変わらないように見える。

笑い声も、会話も、

すべてがいつも通り。

だが――

ほんの小さな違和感が、

確かにそこにあった。

気づく者は少ない。

だがそれは、確実に。

崩壊の始まりを告げている。

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