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第七十八話:足りない私

人は比べてしまう生き物だ。

誰かと。

無意識に。

そして気づいた時には――

自分が一番、嫌いになっている。

昼休み。

教室は、いつものように賑やかだった。

笑い声。

会話。

でも――

(……うるさい)

アオイは小さく眉をひそめた。

手元のノート。

きれいにまとめられた文字。

完璧に近い。

それなのに――

「すごいね、ミサキ」

その一言。

視線が自然とそちらへ向く。

ミサキの周りに、数人集まっている。

楽しそうに話している。

「テストも上位だし」

「ほんと憧れる」

その言葉。

胸の奥が、チクッと痛む。

比較の始まり

(……私だって)

アオイはノートを見下ろす。

(ちゃんとやってる)

(努力してる)

それなのに。

誰も見ない。

誰も言わない。

「……」

ペンを持つ手が、少し強くなる。

インクがにじむ。

(……なんで)

その時。

“優しい声”

「アオイちゃん」

後ろから声がする。

振り向く。

ローズ。

いつもの柔らかい笑顔。

「そのノート、すごく綺麗だね」

優しい声。

自然すぎる言葉。

アオイは少しだけ驚く。

「……え?」

ローズは近づく。

机の上を覗く。

「本当に丁寧」

「こういうの、なかなかできないよ」

その言葉。

胸に、じんわり広がる。

(……見てくれた)

たったそれだけで。

“種”

ローズは少しだけ首を傾ける。

「でも、不思議だよね」

小さく呟く。

「こんなに頑張ってるのに」

一瞬、間。

「なんで評価されないんだろうね」

その一言。

静かに。

深く。

刺さる。

アオイの指が止まる。

「……」

言葉が出ない。

でも――

心の中で、何かが動く。

ローズはすぐに微笑む。

「ごめん、変なこと言っちゃった」

軽く笑う。

「でも、私はちゃんと見てるよ」

そのまま去っていく。

“芽生え”

教室の音が戻る。

でも――

アオイの中では違う。

(……見てるよ)

(評価されない)

その言葉が、ぐるぐる回る。

視線が、またミサキへ向く。

楽しそうな笑顔。

周りの声。

胸がざわつく。

さっきまでとは違う。

(……なんで、あの子だけ)

小さな変化

その日の授業。

先生が問題を出す。

ミサキが答える。

正解。

「さすがだな」

先生の言葉。

クラスの反応。

アオイの手が止まる。

ペン先が、紙に強く当たる。

(……また)

ノートを見る。

完璧なはずのページ。

でも今は――

価値がないものに見える

“気づかないラフリ”

ラフリはそれを見ていた。

アオイ。

様子がおかしい。

でも――

(……どうした?)

原因が分からない。

ナカムラの時みたいに、分かりやすくない。

視線を巡らせる。

そして――

一瞬。

ローズと目が合う。

ローズは微笑む。

いつも通り。

何も問題ないように。

でも。

ほんの一瞬だけ。

その目が――

細められた気がした。

“まだ書けない”

放課後。

ラフリはノートを開く。

ペンを持つ。

でも――

書けない。

(……何が起きてる?)

分からない。

見えているのに。

繋がらない。

小さな違和感。

小さな言葉。

それだけで――

心は簡単に揺れる。

まだ誰も気づかない。

何が始まったのか。

そして少年もまた、

まだ知らない。

“見えない崩壊”が始まったことを。

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