第七十七話:隣にいる理由
人は簡単には変われない。
過去は消えないし、傷も残る。
それでも――
誰かが隣にいるだけで、
少しだけ前に進めることがある。
放課後。
教室には、まだ数人残っていた。
静かな空気。
でも、昨日までとは違う。
ほんの少しだけ――
張り詰めたものが、緩んでいる。
ナカムラは席に座っていた。
机に肘をついて、外を見ている。
ラフリは、少し離れた場所からそれを見ていた。
(……どうする)
昨日。
止めた。
でも――
—> それで終わりじゃない
足が、ゆっくり動く。
ナカムラの席へ向かう。
止まる。
今度は、近づきすぎない。
適度な距離。
「……よう」
ラフリが軽く声をかける。
ナカムラは少しだけ視線を動かす。
数秒。
「……何だよ」
でも――
—> 拒絶ではない
ラフリは、隣の席に座る。
何も言わない。
沈黙。
でも、重くない。
—> “完全じゃない現実”
ナカムラがぽつりと呟く。
「……昨日のこと」
ラフリは黙って聞く。
「……覚えてる」
短い言葉。
でも、それだけで十分だった。
ナカムラは少しだけ笑う。
自嘲気味に。
「ダサいよな」
視線を逸らす。
「またやりかけて」
拳を握る。
「止められて」
ラフリは首を振る。
「止まったんだろ」
ナカムラは一瞬だけ固まる。
「……違いねえけど」
小さく返す。
でも――
—> 少しだけ、受け入れている
—> “関係の始まり”
しばらくして。
ナカムラがぼそっと言う。
「……お前さ」
「ん?」
「なんであそこまで来た」
ラフリは少し考える。
でも――
うまく言葉にならない。
だから。
「……分かんねえ」
正直に言う。
ナカムラは呆れたように笑った。
「は?」
ラフリは続ける。
「でも」
少しだけ視線を向ける。
「放っとくの、嫌だった」
その一言。
ナカムラは何も言わない。
でも――
視線が少しだけ下がる。
—> “小さな変化”
「……迷惑だ」
ナカムラが言う。
ラフリは肩をすくめる。
「だろうな」
即答。
数秒。
そして――
ナカムラが小さく息を吐いた。
「……でも」
言葉が続く。
「……昨日よりはマシだ」
その一言。
小さい。
でも――
確かな変化。
—> ラフリの成長
ラフリは何も言わない。
前みたいに、踏み込まない。
ただ――
隣にいる。
それだけ。
沈黙。
でも、苦しくない。
ナカムラがぽつりと呟く。
「……またやりそうになったら」
ラフリが視線を向ける。
「……止めろ」
短い言葉。
でも――
—> 初めての“許可”
ラフリは小さく頷いた。
「ああ」
それだけ。
—> 見えない歪み
教室の後ろ。
ゼータが立っている。
腕を組んで、静かに見ている。
その目は――
少しだけ、細められている。
(……つまらない)
そんな感情が、一瞬だけ滲む。
でもすぐに消える。
その隣。
ローズも立っていた。
微笑んでいる。
でも――
その目は、わずかに揺れている。
(……予定と違う)
小さなズレ。
誰にも気づかれないまま。
静かに広がっていく。
—> ノート(初めての名前)
夜。
ラフリはノートを開く。
ページをめくる。
そして――
新しい項目を書く。
『協力者』
少しだけ迷ってから。
名前を書く。
ナカムラ
ラフリはその文字を見つめる。
小さく息を吐く。
「……一人じゃ、足りない」
でも。
—> 一人じゃなくなった
救えたわけじゃない。
何も解決していない。
それでも――
隣にいる理由が、生まれた。
少年は知る。
“支える”ということは、
“変える”ことじゃないと。
小さな一歩。
小さな関係。
だがそれは確かに、
未来を変える始まりだった。




