表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
60/96

第六十話:見え始めた輪郭

気づくことは、

強くなることじゃない。

ただ――

逃げられなくなるだけだ。

見えてしまった違和感は、

もう“気のせい”では済まされない。

そして少年は、

初めて“敵”の存在を意識し始める。

朝。

教室。

ラフリは席に座ったまま、何も書かれていないノートを見ていた。

(……昨日の続き)

頭の中で、何度も場面を再生する。

ナカムラのプリント。

ローズの動き。

図書室。

会話。

全部が――

小さい。

小さすぎる。

でも。

(全部、繋がってる気がする)

ペンを握る。

ゆっくり書く。

・ローズ → プリント操作?

・ナカムラ → 偶然じゃない可能性

・図書室 → “知ってる動き”

手が止まる。

「……証拠がない」

小さく呟く。

(でも)

視線を上げる。

ローズを見る。

(あいつ、何かやってる)

確信に近い“違和感”。

その時。

「ラフリ」

横から声。

ナカムラだった。

「……なんだ」

「ちょっといいか」

いつもより少し真面目な顔。

ラフリは小さく頷く。

廊下。

人の少ない場所。

ナカムラが壁にもたれながら言う。

「昨日のことなんだけどさ」

ラフリの心臓が少し早くなる。

「……ああ」

「お前、なんか知ってるよな」

直球だった。

逃げ場がない。

「……なんでそう思う」

ナカムラは肩をすくめる。

「勘」

少し間を置いて。

「でも外れてる感じしねえ」

沈黙。

ラフリは目を閉じる。

(どうする)

言うか。

隠すか。

「……全部は分からない」

やっと出た言葉。

ナカムラの目が少しだけ変わる。

「でも」

ラフリは続ける。

「何かがズレてる」

「誰かが、わざとやってる」

そこまで言って、止まる。

名前は出さない。

まだ確信がない。

ナカムラはしばらく黙る。

そして。

「……面白いな」

「は?」

予想外の反応。

ナカムラは少し笑う。

「じゃあさ」

顔を上げる。

「その“ズレ”、一緒に探すか?」

一瞬、思考が止まる。

(……一緒に?)

「お前一人じゃ無理だろ」

ナカムラはあっさり言った。

「見てて分かる」

その言葉が、妙に刺さる。

でも。

否定できない。

「……ああ」

小さく頷く。

それが――

ラフリにとって初めての“共有”だった。

教室に戻る。

その瞬間。

視線を感じる。

ローズだった。

じっとこちらを見ている。

(……バレたか?)

心臓が鳴る。

でも。

ローズはすぐに視線を外した。

何事もなかったかのように。

(違う)

ラフリは気づく。

(見られてるんじゃない)

(試されてる)

昼休み。

ユナが近づいてくる。

「ラフリ」

「……ん?」

「今日さ」

少しだけ迷う。

「放課後、一緒に帰らない?」

その言葉。

胸が少しだけ締まる。

(……本当は)

行きたい。

でも。

(今は)

視線を逸らす。

「……悪い」

また、同じ答え。

ユナの表情が一瞬だけ曇る。

「そっか」

それだけ。

でも。

その距離が、少しだけ広がった気がした。

その様子を。

ローズは見ていた。

(いいね)

心の中で呟く。

(孤立していく)

でも。

少しだけ首を傾げる。

(でも……完全じゃない)

ナカムラの存在。

それがノイズだった。

放課後。

校舎裏。

人の少ない場所。

ラフリとナカムラは立っていた。

「で?」

ナカムラが言う。

「何から見る」

ラフリは少し考える。

「……小さいとこからだ」

ノートを開く。

まだ雑なメモ。

「今日の違和感、全部書く」

ナカムラは少し笑う。

「地味だな」

「でも、それしかない」

ラフリは真剣だった。

その時。

少し離れた影。

ローズがいた。

静かに、二人を見ている。

(……なるほど)

目を細める。

(やっと気づいた)

でも。

遅い。

「でもいいよ」

小さく呟く。

「その方が楽しい」

スマホを取り出す。

画面には、

クラスの簡単な情報。

時間。

位置。

関係。

すべてが整理されている。

「次は」

ローズは微笑む。

「もう少しだけ、“ズレ”を増やす」

少年は初めて、

一人で戦うことをやめた。

それは弱さではなく――

変化の始まりだった。

だが。

相手はすでに、

何手も先を読んでいる。

小さな違和感は、

やがて大きな歪みへと変わる。

そしてその中心で、

二人の思考が静かにぶつかり始める。

――ゲームは、次の段階へ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ