第五十四話:間違えないために
同じ失敗を繰り返さないために。
人は、少しずつ変わっていく。
それは成長か、
それとも――ただの恐怖か。
朝。
ラフリは目を覚ました瞬間、
すぐに起き上がらなかった。
天井を見つめる。
無言で。
(……ある)
記憶。
消えていない。
ナカムラ。
血。
ユナの目。
恐怖。
そして――事故。
「……はぁ」
深く息を吐く。
(今回は、やり直しじゃない)
(失敗したら――終わりだ)
体が、少し震えていた。
「フリお兄ちゃん?」
ドアの外からユメの声。
「……起きてる」
ドアが開く。
「今日、顔やばいよ?」
「知ってる」
ユメは少しだけ不安そうに見る。
「……大丈夫?」
ラフリは少しだけ黙る。
(大丈夫じゃない)
(でも)
「……なんとかする」
ユメはじっと見つめて――
少しだけ笑った。
「それ、Furiお兄ちゃんの悪い癖」
「……は?」
「一人で抱えるやつ」
ラフリは言葉を失う。
「ちゃんと考えてる顔してるけど」
「結局、無茶するでしょ」
図星だった。
「……今回は違う」
「ほんとに?」
少しだけ間。
「……多分」
「ダメじゃん!」
少しだけ、笑いが生まれる。
でも。
すぐに消える。
ラフリは机に向かう。
ノートを開く。
・共通点:雨
・共通点:帰り道
・共通点:車
・キーワード:白いバン
「……原因は一つじゃない」
前回(過去のループ)を思い出す。
釘を取った。
→ダメだった
止めに行った。
→殴られた
(つまり)
「……準備が足りない」
ペンを強く握る。
「感情で動くと、負ける」
小さく呟く。
(……冷静に考えろ)
ラフリは立ち上がる。
「今日は――学校行かない」
ユメが驚く。
「え!?ズル休み!?」
「違う」
「戦略的撤退」
「言い方かっこよくしてるだけじゃん!」
それでも。
ラフリの目は真剣だった。
外。
空は曇っている。
(来る)
直感。
確信に近い。
ラフリは通学路ではなく、
別の道へ向かう。
目的地。
事故現場。
まだ、何も起きていない。
だが――
ラフリは立ち止まらない。
周囲を見る。
「……いるはずだ」
呼吸を整える。
(今回は、“待つだけ”じゃない)
時間が過ぎる。
やがて。
白いバン。
「……来た」
心臓が跳ねる。
だが。
逃げない。
男たちが降りる。
周囲を確認する。
ラフリは気づく。
(……前より、警戒してる)
違う。
(世界が……警戒してる?)
一瞬の違和感。
だが今は――
考えるな。
(どうする)
前回は「タイヤを止めた」
今回は――
「……時間をズラす」
小さく呟く。
ラフリはポケットからスマホを出す。
震える指。
(頼む……出てくれ)
通話。
「……もしもし?」
ユナ。
「……ラフリ?」
ラフリは一瞬、言葉を失う。
(生きてる)
それだけで、
胸が締め付けられる。
「今日、帰り――」
声が震える。
「絶対に、一人で帰るな」
沈黙。
「……どういうこと?」
説明できない。
でも――
「いいから」
「……お願いだ」
その一言に、
全部を込める。
ユナは少し黙ってから言う。
「……分かった」
短い返事。
でもそれだけで、
少しだけ救われる。
通話が切れる。
ラフリは息を吐く。
(これで一つ)
だが。
それだけじゃ足りない。
男たちが動き始める。
「……くそ」
ラフリは走る。
正面からじゃない。
横から。
死角を使う。
(見られるな)
息を殺す。
近づく。
一瞬。
足音。
「誰だ!?」
バレた。
「っ!」
ラフリはそのまま逃げる。
追われる。
でも。
(いい)
目的は達成している。
「時間をズラした」
男たちの動きが乱れる。
予定が崩れる。
焦りが見える。
ラフリは物陰に隠れながら、
空を見上げる。
雨が降り始める。
(……来る)
時間。
タイミング。
すべてがズレる。
遠く。
車の音。
ユナの車。
ラフリは息を止める。
通り過ぎる。
何も起きない。
衝突もない。
炎もない。
ただ――
普通に、走り去る。
「……はは」
膝から崩れる。
「……やった」
でも。
笑いは小さい。
(……終わったか?)
その時。
背後。
「――面白いことしてるね」
ラフリの体が凍る。
振り向く。
そこにいたのは――
ローズ。
微笑んでいる。
「計画、崩されたの初めてかも」
ラフリは言葉を失う。
(こいつが……)
ローズは一歩近づく。
「ねえ、ラフリ」
優しい声。
でも――
冷たい。
「どうして、知ってたの?」
沈黙。
ラフリは答えない。
答えられない。
ローズはくすっと笑う。
「まあ、いいや」
「でも――」
目が細くなる。
「あなた、ちょっと“違う”ね」
ラフリの心臓が跳ねる。
「前より、ずっと」
「面白い」
その言葉が、
妙に重く残った。
ラフリは、初めて“自分で考えて”未来を変えました。
でもそれは、
物語の終わりではなく――
本当の始まりです。
ここから、
敵もまた動き出します。
もしよければ、
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次回もお楽しみに。




