第五十三話:近すぎる距離
壊れる前の時間。
一番幸せで、
一番残酷な時間。
昼休み。
教室は少しだけ騒がしい。
でも――
ラフリの世界は、少し違っていた。
隣。
ユナ。
それだけで、意識が持っていかれる。
(……落ち着け)
弁当を広げる。
いつも通りのはずなのに。
落ち着かない。
その時。
ユナが、ふとラフリの方を見た。
「……また一人で食べるの?」
「悪いか?」
「別に」
少しだけ間を置いて――
「隣、空いてるけど」
ラフリの動きが止まる。
(……これ)
(前と、同じ流れ……?)
心臓がうるさい。
「……座れば?」
ユナが軽く自分の隣を叩く。
ラフリは一瞬迷う。
でも――
「……じゃあ、少しだけ」
座る。
距離が、近い。
思ったより、近い。
(近すぎるだろ……)
ユナの髪が、少し揺れる。
いい匂いがする。
(やめろ)
(意識するな)
ラフリは弁当を開く。
手が、少し震えていた。
その時。
ユナがじっと見てくる。
「……なに」
「別に」
でも、視線は逸らさない。
「それ、少なくない?」
「普通だろ」
「足りるの?」
「足りる」
ユナは少し考える。
そして――
「じゃあ、これ」
自分の弁当を少しラフリの方へ寄せる。
「……いらない」
「遠慮してるの?」
「してない」
「じゃあ食べて」
即答だった。
「……強引だな」
「嫌?」
一瞬。
目が合う。
「……いや」
断れなかった。
ラフリは卵焼きを取ろうとする。
その瞬間――
ユナが先にそれを取った。
「……え」
そのまま。
ラフリの口元へ。
「はい」
時間が止まる。
「……なにしてる」
「食べるんでしょ?」
「自分で食べる」
「いいから」
逃げ場がない。
(なんでこんなことになってる……!?)
周囲の視線。
少しざわついている。
「早く」
ユナの声。
少しだけ強い。
ラフリは観念した。
「……っ」
小さく口を開ける。
「……どう?」
「……うまい」
顔が熱い。
ユナは少しだけ微笑んだ。
「でしょ」
その笑顔に。
一瞬、見惚れる。
(……やばい)
心臓が、変な動き方をする。
その時。
ユナが少し身を乗り出す。
距離が、さらに近くなる。
「口元、ついてる」
「……は?」
次の瞬間。
ユナの指が、ラフリの口元に触れた。
思考が止まる。
「……っ!?」
「動かないで」
軽く拭われる。
それだけなのに。
体温が、一気に上がる。
「……はい、取れた」
ユナは何事もなかったように戻る。
ラフリは固まったまま。
(今の……なんだよ……)
周囲がざわつく。
「近くね……?」
「なにあれ……」
ラフリは顔を逸らす。
「……やめろ」
「なにが?」
「距離」
「近い?」
「近い」
ユナは少しだけ考えて――
「でも、嫌じゃないでしょ」
図星だった。
「……」
言い返せない。
ユナは少しだけ楽しそうに笑う。
「やっぱり変な人」
でもその声は。
どこか柔らかい。
ラフリは窓の外を見る。
(……こういう時間が)
胸の奥が締め付けられる。
(ずっと続けばいいのに)
その願いは。
あまりにも――
脆い。
教室の隅。
ローズが、その様子を見ていた。
「……順調ですね」
小さく呟く。
「だからこそ――壊しやすい」
微笑む。
静かに。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
ラフリとユナの距離が少しずつ近づいてきました。
だからこそ、
この後の展開がより重くなっていきます。
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次回更新もお楽しみに。




