第五話 空に残された軌跡 【改稿版】
人は、たった一つの選択で――
永遠に取り戻せないものを失うことがある。
あの日、私はそれを知った。
そして今も、その後悔と一緒に生きている。
私は、静かな墓地に立っていた。
白い花を抱え、
そして――手の中には、小さな指輪。
彗星の形をした指輪。
私はゆっくりと膝をつき、
その一つを墓石の前に置いた。
指先が震える。
「……ありがとう」
小さく、かすれた声。
「私を……助けてくれて」
涙が頬を伝う。
「……そして、ごめんなさい。
あなたを守れなかった……私のわがままのせいで」
墓石に刻まれた名前を見つめる。
――ラフリ。
◇ 回想
「それが欲しいの、ラフリ!」
腕を組んで、私は頬を膨らませた。
「彗星の指輪、買ってくれないなら、ずっと怒ったままだし、許さないからね。ふんっ」
ラフリは困ったように笑った。
「はは……わかったよ。買ってくるから、車で待ってて」
彼はそう言って、車から降りていった。
私はまだ拗ねながら、窓の外を見ていた。
――その時。
耳を裂くクラクション。
強烈な光。
そして、猛スピードで迫るトラック。
どうして、あの時……
あんなわがままを言ってしまったんだろう。
「ラ――」
名前を呼び終える前に、
彼の体は宙へと弾き飛ばされた。
世界が、止まる。
「ラフリ!!」
私は車から飛び出し、走った。
息が乱れる。足が震える。
彼の元へ辿り着き、体を揺らす。
「ラフリ……お願い……起きて……」
返事は、ない。
呼吸も、ない。
ただ静かに――そこに横たわっているだけ。
その瞬間、理解した。
彼はもう、戻らない。
私のせいで。
私のわがままのせいで。
◇ 二年後
季節は巡り、
何度も春と冬を繰り返した。
風が、やさしく吹いた。
私は今も、同じ場所に立っている。
もう一つの彗星の指輪は――
私の左手の薬指に。
そして、もう一つは――ここに。
あなたのそばに。
「私は……まだ、ここにいるよ」
小さく呟く。
「今でも……あなたを愛してる」
私は墓地を後にして、歩き出した。
向かう先は――あの公園。
私たちが、何度も一緒に来た場所。
同じベンチに座り、空を見上げる。
夜が降りてきて、
星が一つずつ灯る。
その中で――
一筋の光が、空を横切った。
彗星。
胸が震える。
あの日の光景が蘇る。
衝突音。
叫び声。
喪失。
涙がこぼれた。
指輪を握りしめ、目を閉じる。
「もし……もう一度だけ、チャンスがあるなら」
震える声で、願う。
「もし……運命が、私の声を聞いてくれるなら」
深く息を吸って――
そして、そっと。
「どうか……もう一度……あなたに会わせてください」
一瞬の沈黙。
そして最後に、心からの想いを。
「だって私は――
あなただけを、愛しているから」
その時。
夜風が、そっと頬を撫でた。
まるで――
誰かが隣にいるような、温もりと共に。
あの夕焼けの日と同じように――
失ったものは、戻らない。
けれど――
愛した記憶は、決して消えない。
それはやがて、空へと昇り、
新しい軌跡となって、再び交わる。
だから――
もし、次の世界があるのなら。
その時もきっと、私は――
あなたを見つける。
「※本話は物語の一貫性のために加筆・修正を行いました」




