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第4話 子供じみた作戦が世界を救う日

もしも、もう一度やり直せるなら。

もしも、間違える前に戻れるなら。

それでも人は、 正しい選択をできるのだろうか。

答えは、まだ分からない。

だがこの日、 ラフリは――

天才ではなく、 ただの少年として選択をする。

「どうして……まだ助けてくれないの?」

その声は、 すぐ耳元で囁かれた。

ラフリは動けなかった。

目の前には、ユナが立っている。

責めているわけじゃない。 怒っているわけでもない。

ただ―― 悲しそうだった。

「ラフリ……遅いよ」

その瞬間、 ユナの身体に細かなひびが入る。

血ではない。

光でもない。

まるでガラス細工みたいに、 静かに、崩れていく。

「待っ――」

視界が白く染まった。

ラフリは勢いよく身体を起こした。

荒い呼吸。 冷たい汗。

見慣れた天井。

自分の部屋。

窓から差し込む朝日。

震える手で、 机の上のカレンダーを見る。

入学初日。

「……また、戻ったのか?」

屋上じゃない。

事故の後でもない。

もっと前。

――最初の朝だ。

コンコン。

「お兄ちゃん? 起きてる?」

ドアが開く。

そこに立っていたのは―― なぜかメイド服姿のユメだった。

ラフリは数秒、 無言のまま彼女を見る。

「……なんでそれ着てるんだよ」

「今日から高校生でしょ? 応援イベント♪」

「応援の方向性が迷子すぎるだろ」

「可愛いから問題なし!」

ユメはくるりと回る。

スカートがふわりと揺れた。

いつもなら、 ラフリも軽く笑って返していた。

けれど今日は、 そんな余裕がない。

ユメが不思議そうに首を傾げる。

「お兄ちゃん、顔死んでるよ?」

「……寝不足」

もちろん嘘だ。

眠れてなんかいない。

頭の中では、 何度もユナが死んでいた。

ユメが部屋を出ていく。

静かになった部屋で、 ラフリは椅子に腰を下ろした。

ノートを開く。

震える手で、 これまでの情報を書き出していく。

・一回目:タイヤパンク → 事故

・二回目:パンク阻止 → 別方向から事故

・共通点:白いバン

・謎の言葉:「レディ・ローズ」

ペンが止まった。

「……俺って、そんな頭良くないんだよな」

小さく呟き、 机に額をぶつける。

成績は普通。

推理だって、 飛び抜けて得意なわけじゃない。

もっと頭の良い奴なら、 もう答えを見つけてるのかもしれない。

失敗したら、 またユナが死ぬ。

その事実だけが、 胸を重く締め付けていた。

「……何も思いつかねぇ」

その時だった。

コトッ。

足元に何かが落ちる。

ラフリはゆっくり拾い上げた。

古いノート。

表紙には、 子供っぽい落書きがびっしり描かれている。

『世界征服極秘作戦ノート

フリ&ユメ』

「……懐かし」

小学生の頃、 ユメと一緒に作った馬鹿みたいなノートだ。

ページをめくる。

『アイス屋さんがチョコ少なかった時の復讐計画』

『母に怒られた後の心理戦作戦』

くだらない。

本当にくだらない。

ラフリは思わず苦笑した。

だが――

あるページで、 手が止まる。

『こっそりタイヤ作戦』

目的: 意地悪な近所の子の自転車を一時使用不能にする。

その下には、 幼い字でこう書かれていた。

1.本体を狙うな。

2.移動手段を止めろ。

3.時間より前に動け。

4.見られるな。

ラフリはしばらく黙り込んだ。

そして――

「……これ、今の状況と同じじゃないか」

ゆっくりと立ち上がる。

胸の奥の重さが、 ほんの少しだけ軽くなっていた。

天才じゃない。

でも、 昔の自分たちは無駄に発想力だけはあった。

「借りるぞ。 ガキの頃の悪知恵」

その日、 ラフリは学校へ向かわなかった。

向かったのは、 通学路の外れ。

あの白いバンが現れた場所。

草むらに身を潜め、 息を殺す。

しばらくして――

白いバンが現れた。

男たちが降りる。

周囲を警戒している。

ラフリは地面を見る。

小さな釘。

前回は、 これを拾った。

だが事故は起きた。

なら今回は――

“本体を狙うな。移動手段を止めろ。”

ラフリは数本の釘を握る。

タイミングを待つ。

男たちの視線が逸れた瞬間―― 走った。

心臓が爆発しそうだった。

震える手で、 タイヤに釘を押し込む。

プシュゥ……

空気が抜ける音。

一本。

二本。

そして最後の一本を刺した瞬間、 ラフリはすぐ草むらへ飛び込んだ。

数分後。

男たちが戻ってくる。

「は?」

パンク。

怒号。

焦り。

飛び交う舌打ち。

誰かが慌てて電話をかけ始める。

その間に――

黒い車が通り過ぎた。

ユナの車。

衝突は起きない。

炎も上がらない。

ただ静かに、 道路の向こうへ消えていく。

ラフリはその場に座り込んだ。

「……成功、した」

笑えなかった。

全身の力が抜けていく。

ただ、 胸の奥だけが熱かった。

「小学生の作戦…… 意外と役に立つんだな」

帰り道。

大型ビジョンにニュース映像が流れていた。

『若手女優、レディ・ローズ――最新ドラマ出演決定』

ラフリの足が止まる。

画面に映る少女。

美しい赤い瞳。

胸元には、 赤薔薇のブローチ。

レディ・ローズ。

あの男が口にした名前。

『レディ・ローズの命令だ』

偶然なのか。

それとも――

その瞬間。

画面の中の彼女が、 ゆっくりとこちらへ視線を向けた気がした。

背筋が冷える。

事故は止めた。

だが――

本当に、 これで終わったのか?

強い風が吹く。

ラフリは静かに拳を握った。

「まだ…… 終わってないのか」

子供の頃の落書き。

笑われるような作戦。

それでも、 誰かを守れるのなら。

それはきっと、 間違いなんかじゃない。

だが世界は甘くない。

一つの選択が未来を救っても、 別の影が静かに動き始める。

そして少年は、 まだ知らない。

本当の戦いは―― これから始まるのだということを。

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