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第四話『夕暮れの最後の約束』【改稿版】

夕焼けは、いつも優しい色をしている。

まるで――別れの痛みさえも、

そっと包み込んでくれるみたいに。

けれどその優しさは、ときどき

どうしようもなく残酷だ。

終わりが近いことを、

静かに教えてしまうから。

病院の廊下は、静かだった。

白い壁。

消毒液の匂い。

そして規則正しく響く、時計の音。

その一つ一つが、

残された時間を刻んでいるみたいで――

胸が締め付けられる。

俺は手に持っていた花束を見下ろした。

――ユナが一番好きな花。

ドアの前で、一度だけ目を閉じる。

悲しい顔は、見せたくない。

彼女の前では、最後まで――

笑っていたい。

ゆっくりと息を吐き、

表情を整える。

そして、ドアを開けた。

窓のそばで、ユナは座っていた。

夕焼けを見つめながら、

細い体で、静かに。

「……ユナ」

声をかけると、

彼女はゆっくり振り向いた。

そして、いつものように――

少しだけ、優しく微笑む。

その笑顔が、

痛いくらい愛しかった。

俺は隣に歩み寄り、

静かに腰を下ろす。

少しの沈黙。

やがて俺は、震えそうになる声を抑えながら聞いた。

「……ユナ。俺と一緒にいて、幸せか?」

彼女は少し目を細めて、

そして答えた。

「うん。幸せだよ。

だって、いつも一緒にいてくれたから」

一瞬だけ、声が揺れる。

でもすぐに――

「今日はね、最後に一緒にいられる日だから」

その言葉は静かで、

でも確かで――

俺の心に深く突き刺さった。

けれど彼女は、すぐに明るく言う。

「ねえ、今日の一日どうだった?楽しかった?」

俺は笑って答えた。

「ああ。楽しかったよ」

それから――

いつものように、他愛のない会話をした。

けれど時間は、

あまりにも短くて。

やがて、医者に告げられていた

“その時”が近づいてくる。

俺は彼女の手を、そっと握った。

細くて、軽くて――

壊れてしまいそうな手。

「……ユナ」

声が震える。

それでも、言わなきゃいけない。

「俺に――お前を守らせてくれ」

ユナは、ゆっくりと頷いた。

そして柔らかく微笑む。

「……ラフリ」

小さく手を伸ばし、

彼女は言った。

「最後に、抱きしめさせて」

その一言で――

堰き止めていたものが、全部崩れた。

俺は彼女を、強く抱きしめた。

壊れそうなくらい。

離れないように。

消えてしまわないように。

彼女の体は、あまりにも軽くて――

あまりにも儚くて。

「……ありがとう」

胸元で、ユナの声が震える。

「たくさんの優しさをくれて

たくさん愛してくれて

一緒に時間を過ごしてくれて」

涙が、俺の服を濡らす。

「私ね――

世界で一番幸せな女の子だったよ」

俺の涙も、止まらなかった。

そして彼女は、最後の言葉を紡ぐ。

「さようなら、ラフリ」

少し息を整えて、

優しく微笑みながら――

「またね。次の人生で、会おうね」

その瞬間。

彼女の体から、力が抜けた。

温もりが、少しずつ消えていく。

冷たくなっていく体を、

俺は離せなかった。

そのまま崩れ落ちるように、抱きしめる。

静寂。

何も音がしない。

ただ――

俺の嗚咽だけが、

小さく部屋に響いていた。

「……やっぱり俺は」

震える声で、呟く。

「お前が言った通り……

泣き虫な男のままだな、ユナ」

冷たくなった彼女を、

それでも強く抱きしめながら――

涙が止まらない。

そのとき――

ふいに。

背中に、温もりを感じた。

優しく、包み込むような抱擁。

懐かしい、あの温かさ。

「……ユナ?」

振り返ることはできない。

でも、確かに感じる。

彼女の“存在”。

消えていない。

ここにいる。

ほんの一瞬だけ――

確かに、抱きしめてくれていた。

夕焼けは、ゆっくりと夜に溶けていく。

別れは、終わりじゃない。

ただ、少しだけ遠くなるだけ。

もし魂が巡るのなら――

きっとまた、どこかで出会う。

そしてその時も、きっと彼は言うだろう。

「ただ君だけを愛している」と。

「※本話は物語の一貫性のために加筆・修正を行いました」

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