表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
3/110

第3話 第二ループ、歪み始める運命

ほんの少しの選択の違いが、

同じはずの世界を、 わずかに狂わせていく。

それは偶然ではない。

運命そのものが、 “拒絶”を始めた証。

それでも少年は、 まだ知らない。

その歪みの先に待つものが、 どれほど残酷なのかを。

これは――

二度目の選択と、 二度目の“失敗”の物語。

目を覚ました瞬間。

ラフリは理解していた。

――戻ってきた。

昨日へ。

いや。

“あの日”へ。

呼吸が浅い。

胸が痛い。

焼けた匂いが、 まだ鼻の奥に残っている気がした。

(……覚えてる)

炎。

壊れた車。

血。

ユナの最期。

全部。

夢じゃない。

あれは確かに、 自分が見た現実だった。

けれど同時に。

胸の奥には、 説明できない違和感が残っていた。

(……何かを、 変えなきゃいけない)

理由は分からない。

だが。

何もしなければ、 また同じ未来になる。

そんな確信だけが、 異様なほど強く残っていた。

ラフリは重い身体を起こし、 教室へ向かう。

そして。

教室の扉を開いた瞬間――

既視感が、 全身を貫いた。

YOYO。

セラ。

トワキエ。

クラスメイトたちの声。

すべてが、 昨日と同じだった。

なのに。

どこか、 微妙に違う。

ラフリは席へ座り、 ふと壁掛け時計を見る。

カチ。

カチ。

秒針が進む。

――その瞬間。

カチ。

秒針が、 一瞬だけ逆へ戻った。

「……っ」

ラフリは目を見開く。

時計は再び普通に動き始める。

まるで何事もなかったみたいに。

(……気のせいか?)

疲れているのかもしれない。

精神が混乱しているだけだ。

そう思い込もうとした。

だが。

――コトッ。

前回と同じタイミング。

同じ場所。

同じ角度。

ユナの消しゴムが床へ落ちる。

ラフリの心臓が跳ねた。

「……はい」

無意識に拾って差し出す。

「ありがとう」

ユナは小さく微笑む。

だが。

ラフリは違和感に気づいた。

(……位置が違う)

席に座る角度。

肘の置き方。

視線。

ほんの数センチ。

だが確かに、 前回とズレていた。

その小さな誤差が、 妙に気持ち悪かった。

まるで。

世界そのものが、 少しずつ壊れ始めているみたいだった。

昼休み。

ラフリは立ち上がる。

「ラフリ、どこ行く?」

YOYOが聞く。

「食堂」

「じゃあ俺も――」

「行こう」

被せるように答えた瞬間。

YOYOが、 ほんの一瞬だけ驚いた顔をした。

「……お前、 ちょっと変わった?」

「そうか?」

「いや。 なんでもない」

だが。

その視線は、 何かを探るみたいだった。

ラフリは食堂へ向かう。

本来なら、 ここでミヤコが来る。

だが――

来ない。

(……なんでだ?)

胸の奥がざわつく。

流れが、 変わっている。

ラフリが買い物を終えた直後。

まるで“遅れて配置された”みたいに。

「せんぱ〜い!」

ミヤコが駆け寄ってきた。

だが前回より、 少し息が乱れている。

「どうした?」

「えへへ…… 先輩探してた〜」

その時。

別の女子生徒が、 ミヤコの腕を掴んだ。

「ミヤコちゃん! 先生呼んでるって!」

「えっ!? 今!?」

「授業中寝てたでしょ?」

「うっ……」

そのまま連れていかれるミヤコ。

ラフリは、 無言でその背中を見送った。

そして確信する。

(……ズレてる)

全部が。

少しずつ。

確実に。

前回と違う。

ラフリは屋上へ向かった。

扉を開く。

そこには、 やはりユナがいた。

風が吹く。

黒髪が揺れる。

赤い瞳が、 静かにこちらを見た。

「……あら、ラフリ」

同じ言葉。

なのに。

声の温度が、 ほんの少しだけ違った。

「ここ、座れば?」

前回。

ラフリは断った。

けれど今回は。

「……じゃあ、 少しだけ」

ユナの隣へ座る。

距離が近い。

近すぎる。

甘い香りが、 微かに漂う。

心臓がうるさい。

ラフリは誤魔化すように、 メロンパンへ齧りついた。

その時。

ユナが、 そっと袖を引く。

「……ねえ」

「ん?」

「私のお弁当、 食べない?」

ラフリは目を瞬く。

「一人じゃ、 食べきれないの」

前回とは、 微妙に言葉が違う。

だが。

拒絶する理由はなかった。

「……じゃあ、 少しもらう」

ラフリは、 からあげへ箸を伸ばす。

だが。

ユナは先にそれを摘まみ――

ラフリの口元へ運んだ。

「はい、あーん」

「っ!?」

顔が熱くなる。

「な、なんでそうなる……」

「嫌?」

悪戯っぽい視線。

逃げ場がない。

ラフリは観念して口を開けた。

「……どう?」

「……美味い」

ラフリは小さく笑う。

「なんか…… 幸せになる味だ」

その瞬間。

空気が止まった。

ユナが、 少しだけ目を見開く。

やがて。

ふわりと微笑んだ。

「ふふ…… ありがとう」

その笑顔を見た瞬間。

胸が締め付けられる。

守りたい。

今度こそ。

絶対に。

午後の授業。

そして――雨。

前回より、 降り始めるのが早い。

ラフリは窓の外を見つめる。

そして。

校門付近に立つ、 三つの人影を見つけた。

(……あいつら)

記憶と一致する。

ラフリは立ち上がった。

「先生。 体調悪いんで早退します」

「お、おいラフリ――」

返事も待たず、 教室を飛び出す。

雨の中を走る。

校門。

男たち。

道路へ撒かれた釘。

全部。

前回と同じ。

「誰だお前」

男の一人が睨む。

ラフリは低く答えた。

「お前たちの計画を止めに来た」

次の瞬間。

拳が飛ぶ。

腹へ衝撃が突き刺さる。

肺の空気が潰れる。

地面へ倒され、 何度も蹴られる。

痛い。

苦しい。

視界が揺れる。

それでも。

ラフリは立ち上がった。

「邪魔すんなガキ!!」

「うるせぇよ……」

口の端から血を流しながら、 ラフリは睨み返す。

その時。

遠くから教師の声が響いた。

「おい!! 何してる!!」

男たちは舌打ちし、 雨の中へ逃げていく。

ラフリは、 一人その場へ残った。

雨に打たれながら。

道路へ散らばった釘を、 一つずつ拾い集める。

手が切れる。

泥で汚れる。

血が流れる。

それでも拾い続けた。

(……これで、 事故は防げる)

そう信じて。

やがて。

ユナと合流し、 傘を差して送り届ける。

「ありがとう。 また明日」

「……またな」

車のドアが閉まる。

エンジンがかかる。

ラフリは、 小さく息を吐いた。

(……助かった)

そう思った。

その瞬間。

ドゴッ。

鈍い衝撃。

視界が赤く染まる。

「……ぇ?」

後頭部。

熱い。

身体が崩れる。

倒れながら、 ラフリは見てしまった。

再び。

ユナの車へ、 大型バンが突っ込む瞬間を。

炎。

爆発。

絶望。

そして。

耳元で、 誰かが笑った。

「邪魔した罰だ」

冷たい声。

「レディ・ローズの命令だよ」

(……ローズ……?)

意識が沈む。

世界が遠ざかる。

その時。

再び。

時間が止まった。

空へ、 巨大なヒビが走る。

白い空間。

ページをめくる音。

そして。

あの声が響いた。

『ループ第二段階。 対価、回収開始』

次の瞬間。

激痛。

喉が焼ける。

胸が裂ける。

全身を、 無数の刃で刺されるみたいな痛み。

「あ゛……ぁ……!!」

視界の中で。

ユナが、 二つに分裂した。

生きているユナ。

死んでいるユナ。

二つの姿が重なり、 砕け散る。

タク……

チク……

タク……

チク……

時間が逆再生される音。

そして。

遠くから、 ユナの声が聞こえた。

『ラフリ…… 忘れないで……』

ラフリは叫ぶ。

「待ってろ!!」

涙混じりの声。

「必ず!! お前を救う!!」

次の瞬間――

ラフリは、 屋上にいた。

昼休み。

ユナの隣。

世界が、 巻き戻っている。

その瞬間。

ユナの声が、 一瞬だけ二重に重なった。

生きている声。

さっき死んだ声。

ラフリの呼吸が止まる。

胸が痛い。

さっき受けた傷の感覚が、 まだ残っている。

手が、 小さく震えていた。

(……あれ……)

頭が混乱する。

(俺は…… 何回目だ……?)

分からない。

もう。

分からない。

けれど。

ただ一つだけは、 確かだった。

ラフリは衝動のまま、 ユナを抱きしめる。

「……っ!?」

ユナが目を見開く。

だが。

ラフリは離さなかった。

理由なんて、 もう分からない。

それでも。

「何度繰り返しても……」

震える声。

「俺はまた、 お前を選ぶ」

ユナは、 しばらく何も言わなかった。

ただ静かに。

その背中へ、 そっと手を回した。

二度目の世界は、

確かに変わり始めていた。

ほんのわずかな違いが、 やがて取り返しのつかない未来へ繋がっていく。

そして少年は、 まだ知らない。

その選択の先に待つのが――

“救い”ではなく。

より深い絶望であることを。

それでも彼は進む。

何度壊れても。

何度失っても。

――彼女を、 救うために。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ