第四十五話:崩れ始める距離
午後。
学院の廊下には学生たちの足音が響いていた。
授業と授業の間。
短い休み時間。
みんな次の教室へ急いでいる。
普通の光景。
でも。
ラフリには――
その全てが少し違って見えていた。
次の授業の教室へ向かっている。
ユナは少し困った顔をしていた。
「ラフリ」
ラフリは横を見る。
「どうした?」
ユナは少し迷いながら言う。
「最近さ」
「なんかみんな…」
言葉を探す。
「ちょっと距離ある気がする」
ラフリは黙った。
ユナは続ける。
「ミサキとかユイも」
「前は普通に話してたのに」
「なんか最近少し変」
ラフリの視線が廊下の先へ向く。
そこには。
ミサキたちのグループがいた。
ミサキ。
ユイ。
ナツキ。
三人は笑いながら話している。
でも。
ラフリとユナが近づくと。
会話が一瞬止まった。
ユナは少しだけ気づいた。
でも。
ミサキはすぐ笑う。
「ユナ」
「次の授業一緒?」
ユナは少し安心した顔で頷く。
「うん」
でも。
ラフリの視線は違っていた。
三人の動き。
目線。
沈黙の一瞬。
全部を見ている。
ラフリの胸の奥で。
違和感が広がる。
その時。
ナカムラが後ろから歩いてきた。
「おー」
「ユナ」
ユナが振り向く。
「ナカムラ?」
ナカムラは笑う。
「昨日の図書室の件さ」
「また今度行こうぜ」
ユナは笑った。
「うん」
でも。
その瞬間。
ラフリの手がユナの腕を軽く引いた。
「行くぞ」
ユナが驚く。
「え?」
ラフリは前を見たまま言う。
「授業始まる」
ナカムラは少し困った顔をした。
「まだ時間あるけど…」
ラフリは振り向かない。
ユナは小さく言う。
「ごめん」
ナカムラは肩をすくめた。
「まあいいけど」
ユナはラフリの横を歩きながら言う。
「ラフリ」
ラフリは答えない。
ユナは少し困った声で言う。
「そんなに急がなくても」
ラフリは小さく言う。
「……あいつ」
ユナが聞き返す。
「え?」
ラフリは少しだけ振り向く。
ナカムラの背中が遠くに見える。
ラフリの目は鋭い。
「気をつけろ」
ユナは驚いた。
「え?」
ラフリはそれ以上言わなかった。
でも。
ユナの心には。
小さな不安が残った。
その頃。
教室の中。
ローズは窓際の席に座っていた。
サクラが話しかける。
「ローズ」
「さっき見た?」
ローズは首を傾げる。
「なにを?」
サクラは小さく言う。
「ラフリ」
「またナカムラに変な態度だった」
ローズは少し考える。
そして小さく笑う。
「ラフリは」
「ユナのこと大事なんですね」
サクラは少し困った顔をする。
「でもさ」
「ちょっとやりすぎじゃない?」
ローズは少し黙る。
そして言う。
「もしかしたら」
「不安なのかもしれません」
サクラが聞く。
「不安?」
ローズは窓の外を見た。
「誰かを失うことが」
「怖いのかもしれませんね」
その言葉は。
優しい。
でも。
同時に。
ラフリの印象を作っていく。
不安定な人。
その頃。
ラフリは席に座っていた。
教室を見ている。
ミサキ。
ナツキ。
ナカムラ。
タカハシ。
みんな普通に話している。
でも。
ラフリの心の中では。
疑いが大きくなっていた。
その時。
耳の奥で。
残響。
『……近い』
ラフリの目が動く。
『危ない』
『もうすぐ』
声は消えた。
ラフリは拳を握る。
そして心の中で思う。
守らないと。
今度こそ。
放課後。
教室には数人の学生が残っていた。
ミサキが小さく言う。
「ユナさ」
ユイが聞く。
「なに?」
ミサキは少し心配そうに言う。
「大丈夫かな」
ナツキも頷く。
「ラフリ」
「最近ちょっと怖いよね」
その言葉は。
静かに教室の中へ広がっていく。
窓際の席。
ローズはそれを聞いていた。
そして小さく呟く。
「いいですね」
視線はラフリへ。
「少しずつ」
「孤独になっています」
遠くの屋上。
ミヤコが足を揺らしていた。
空のヒビは。
また少し広がる。
ミヤコは笑う。
「ラフリ」
「もう逃げ場はないよ」
「このクラスは」
「君を壊すための箱だから」。




