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第三十九話 : 最初の違和感

昼休み。

学院の空は青かった。

学生たちは中庭で昼食を食べている。

笑い声。

穏やかな時間。

誰も知らない。

その平和な景色の中で。

一つの計画が静かに動き始めていた。

ラフリは中庭のベンチに座っていた。

手にはパン。

でも。

ほとんど食べていない。

視線はずっと同じ場所に向いていた。

ユナ。

彼女は友達と話していた。

笑っている。

普通の昼休み。

ラフリは小さく息を吐いた。

「……なんでだろうな」

最近。

どうしても目が離せない。

ユナから。

まるで。

何かが起きると分かっているみたいに。

その時。

耳の奥で。

小さな声。

――残響。

『……近い……』

ラフリの眉が動く。

「……?」

視線が動く。

校舎の二階。

手すり。

そこに。

一人の男子生徒が立っていた。

何かを持っている。

金属のバケツ。

ラフリの心臓が強く打つ。

なぜか。

嫌な予感がした。

その男子生徒は。

バケツを持ち上げた。

下には――

ユナ。

ラフリの体が先に動いた。

「ユナ!!」

叫びながら走る。

ユナが振り向く。

その瞬間。

バケツがひっくり返った。

大量の水。

でも。

その中には。

油が混ざっていた。

地面は一瞬で滑りやすくなる。

ユナの足が滑った。

倒れる。

そのまま。

近くの石の段差に頭をぶつける――

はずだった。

でも。

ラフリが先に飛び込んだ。

ユナの体を抱えて。

地面に転がる。

二人とも濡れる。

静まり返る中庭。

ユナは驚いた顔でラフリを見た。

「ラフリ……?」

ラフリは息を荒くしていた。

心臓がまだ激しく打っている。

「……大丈夫か」

ユナはゆっくり頷いた。

「う、うん……」

周りの学生たちはざわつき始めた。

「何だ今の?」

「誰がやった?」

二階を見る。

さっきの男子生徒はいない。

ラフリは眉をしかめた。

その時。

遠く。

校舎の影。

ローズが立っていた。

静かな目で中庭を見ている。

ローズは小さく呟いた。

「やっぱり」

「来ますね」

ラフリ。

ユナ。

そして。

ほんの少しだけ笑う。

「まだ始まったばかりです」

その瞬間。

背後から声。

低い声。

『観察を続けろ』

ローズは静かに答えた。

「はい」

「ヤド先生」

夕方。

寮の部屋。

ラフリはベッドに座っていた。

濡れた制服はもう乾いている。

でも。

胸の奥の違和感は消えない。

「……なんで俺」

「分かったんだ」

本当に偶然だったのか。

それとも。

何かが警告していたのか。

その時。

耳の奥で。

また。

残響。

今度は。

優しい声。

『……よくやったね』

ラフリの目が揺れる。

その声は。

少しだけ嬉しそうだった。

そして。

遠く。

誰にも見えない場所。

黒と桃色の髪の少女が笑っていた。

「ふふ」

「ちゃんと守った」

少女は空を見上げる。

「でも」

「ローズも動き始めた」

静かな声で呟く。

「ラフリ」

「これからもっと大変だよ」

その少女の名前は――

ミヤコ。

世界のヒビは。

また少しだけ広がった。

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