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第三十七話 : 残響の朝

朝。

学院の鐘が静かに鳴っていた。

寮の廊下には学生たちの足音が少しずつ増えていく。

新しい一日。

いつもと同じ朝。

でも。

ラフリの中では――

何かが違っていた。

ラフリは廊下を歩いていた。

制服。

少し寝不足の顔。

目の下には薄い影。

「……眠い」

小さく呟く。

昨日の夜。

あまり眠れなかった。

夢のせいだ。

割れた空。

炎。

そして――

倒れていたユナ。

ラフリは眉をしかめた。

「……ただの夢だろ」

そう言い聞かせる。

でも。

胸の奥の違和感は消えない。

その時。

ラフリはふと足を止めた。

廊下の窓。

ガラスの表面に――

一瞬。

ヒビが見えた。

「……?」

目を細める。

もう一度見る。

ガラスは普通だった。

ヒビなんてない。

ラフリは小さく息を吐いた。

「……気のせいか」

その瞬間。

耳の奥で。

小さな音が響いた。

――残響。

『……まだ……』

ラフリの心臓が跳ねる。

「……誰だ」

振り返る。

誰もいない。

廊下には普通の学生たちだけ。

笑い声。

会話。

何もおかしくない。

でも。

確かに聞こえた。

声。

ラフリは頭を軽く振った。

「……疲れてるのか俺」

その時。

後ろから声がした。

「おはよう、ラフリ」

ラフリは振り向いた。

ユナだった。

長い髪。

白い制服。

朝の光の中で静かに立っている。

その姿を見た瞬間。

ラフリの胸が強く締め付けられた。

夢の光景がよぎる。

地面に倒れていたユナ。

血。

炎。

ラフリは思わず言った。

「……ユナ」

ユナは首をかしげた。

「どうしたの?」

「顔、ちょっと怖いよ」

ラフリは慌てて目を逸らした。

「いや……なんでもない」

ユナは小さく笑った。

「変なの」

二人は並んで歩き始めた。

朝の学院。

学生たち。

いつも通りの風景。

でも。

ラフリの中の違和感は消えない。

むしろ。

少しずつ強くなっている。

その時。

また。

残響。

今度は別の声だった。

『……観察……開始……』

ラフリの視界が一瞬揺れる。

そして。

教室の前。

一人の少女が立っていた。

銀色の髪。

緑色の瞳。

静かな視線。

ラフリを見ている。

少女は小さく呟いた。

「……興味深い」

ラフリは眉をひそめた。

「……誰だ?」

少女は答えない。

ただ。

わずかに笑った。

その瞬間。

ラフリの頭の中に。

別の声が響いた。

優しい声。

どこか懐かしい。

『……ラフリ……』

ラフリの呼吸が止まる。

『まだ思い出さなくていい』

『今はまだ……』

『壊れるには早すぎる』

声はそこで消えた。

ラフリは頭を押さえた。

「……なんなんだよ」

ユナが心配そうに覗き込む。

「大丈夫?」

ラフリは小さく息を吐いた。

「……大丈夫」

でも。

心の奥では分かっていた。

何かが。

確実に始まっている。

遠く。

学院の塔。

ローズは静かに校庭を見下ろしていた。

ラフリ。

ユナ。

そして。

新しい変化。

ローズは小さく笑う。

「残響」

「やっぱり始まりましたね」

指先で窓をなぞる。

ガラスに。

一瞬だけ。

小さなヒビ。

ローズは呟いた。

「今回は」

「どこまで壊れるんでしょう」

昼休み。

学院の屋上。

風が静かに吹いていた。

ラフリは空を見上げていた。

青い空。

普通の空。

でも。

一瞬だけ。

小さなヒビが見えた。

ラフリは小さく呟いた。

「……残響」

その瞬間。

どこか遠くで。

少女の声が笑った。

『まだ始まったばかりだよ』

誰にも見えない場所で。

一人の少女が空を見ていた。

黒と桃色の髪。

左右で違う瞳。

少女は楽しそうに笑う。

「ねえ」

「ラフリ」

「今回は」

「どこまで行けるかな?」

その少女の名前は――

ミヤコ。

そして。

世界のヒビは。

また少しだけ広がった。

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