第33話 ありえない既視感
朝の学院。
空は澄んでいて、風も穏やかだった。
いつもと変わらない朝。
……のはずだった。
だけど。
ラフリには、どこか違って見えた。
学院の門の前で足を止める。
しばらく校舎を見上げた。
見慣れているはずの建物。
それなのに――
なぜか。
「……またか」
小さく呟く。
最近、こういうことが増えていた。
初めて来た場所なのに。
まるで。
何度も来たことがあるような気がする。
そんな感覚。
もちろん、ありえない。
ラフリは小さく首を振った。
「気のせいだ」
そう思おうとした。
その時。
「ラフリ!」
後ろから声がした。
振り向くと、ユナが走ってくる。
長い髪が風に揺れていた。
その姿を見た瞬間。
ラフリの胸が、強く締めつけられる。
理由は分からない。
ただ――
怖かった。
一瞬だけ。
頭の中に、奇妙な光景が浮かぶ。
地面に倒れているユナ。
静かな空気。
そして――
赤い色。
「ラフリ?」
ユナの声で我に返る。
「どうしたの?」
「……いや」
ラフリは目をそらした。
「なんでもない」
ユナは少し不安そうな顔をする。
「最近、変だよ?」
「疲れてるの?」
「大丈夫だ」
ラフリは短く答えた。
自分でも分からない。
どうしてこんな気分になるのか。
ただ。
一つだけ確かなことがあった。
ユナの顔を見るたびに。
胸の奥で、何かがざわつく。
まるで――
失いたくないものを見るように。
校舎の二階。
窓のそばに、一人の少女が立っていた。
ローズ。
静かな目で、下を見ている。
視線の先には――
ラフリとユナ。
ローズは小さく笑った。
「まだ一緒なんですね」
誰に聞かせるでもなく、呟く。
その表情は穏やかだった。
けれど。
瞳の奥は、冷たい。
「やっぱり」
「覚えてないんだ」
ローズはゆっくり目を閉じた。
遠い記憶を思い出すように。
そして。
もう一度、窓の外を見る。
「約束」
その言葉を、静かに口にした。
「忘れたのは」
少しだけ微笑む。
だけど。
その笑みは優しくなかった。
「あなたたちですよ」
廊下を歩くラフリの足が止まる。
胸の奥が、ざわついた。
誰かに見られているような感覚。
ラフリは上を見上げた。
二階の窓。
でも。
そこには誰もいない。
「……気のせいか」
小さく呟く。
ユナが不思議そうに聞いた。
「どうしたの?」
「いや」
ラフリは首を振る。
「なんでもない」
だけど。
胸の奥の違和感は消えなかった。
むしろ――
少しずつ大きくなっていく。
まるで。
何かが。
静かに。
近づいているみたいに。




