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第32話 違和感の正体

昼休みの終わり。

俺は廊下の窓にもたれながら、ぼんやりと外を見ていた。

校庭では何人かの生徒がまだ話している。

普通の学院の風景。

だけど――

頭の中はさっきの教室のことでいっぱいだった。

ローズ。

あの言葉。

「ストーカーみたい」

……くだらない。

そう思うのに。

なぜか心に残る。

それよりも――

もっと気になることがある。

ユナの視線だ。

あの目。

まるで。

「知っている人を見る目」だった。

(……ありえない)

俺は小さく息を吐く。

この世界で。

俺のことを知っている人間なんて――

いないはずだ。

「ラフリ先輩」

後ろから声がした。

振り向くと、そこにはローズが立っていた。

「……またお前か」

ローズは楽しそうに笑う。

「ひどいなぁ」

「せっかく探したのに」

俺は少しだけ眉をひそめる。

「何の用だ」

ローズは少し近づいてきた。

そして、窓の外を見ながら言った。

「ユナさんのこと」

「気になるんですよね?」

「……」

答えない。

ローズは構わず続ける。

「でも」

「ちょっと不思議なんです」

彼女は俺を見る。

その瞳は――

さっきよりも真剣だった。

「ユナさん」

「あなたのこと、ずっと見てましたよ」

その言葉。

胸の奥で小さく何かが動く。

「それがどうした」

俺がそう言うと、ローズは小さく笑った。

「普通」

「逆じゃないですか?」

「え?」

「ラフリ先輩がユナさんを見るならわかる」

「でも」

「ユナさんもラフリ先輩を見てる」

ローズは少しだけ首を傾けた。

「まるで」

少し間を置く。

「昔から知ってる人を見るみたいに」

その言葉。

頭の中でゆっくり響く。

昔から知っている。

……そんなはずがない。

だけど。

もし。

本当にそうなら?

その時だった。

教室のドアが開く音がした。

ユナが廊下に出てくる。

静かな足取り。

長い黒髪。

そして――

俺を見る。

まっすぐ。

逃げない視線。

ローズが小さく笑う。

「ほら」

「また」

ユナはゆっくり近づいてくる。

数歩。

そして。

俺の前で止まった。

一瞬の沈黙。

廊下のざわめきだけが聞こえる。

そしてユナは言った。

とても静かな声で。

「……ラフリ」

その名前。

俺は少し驚く。

まだ自己紹介もしていない。

なのに――

どうして。

ユナは続ける。

小さく。

だけど、はっきりと。

「やっぱり」

「あなたなんですね」

俺は一瞬、言葉を失った。

ローズも少し驚いた顔をしている。

「え?」

「二人、知り合いなんですか?」

だけどユナは答えない。

ただ。

少しだけ微笑んだ。

その表情は――

初めて見るはずなのに。

どこか懐かしかった。

そして小さく呟く。

「ずっと探してました」

俺を見ながら。

「ラフリ」

その言葉の意味を聞こうとした瞬間。

学院の鐘が鳴った。

午後の授業開始。

会話はそこで終わった。

だけど。

俺の心には。

新しい疑問が残った。

(……ユナ)

お前は――

誰だ?

その日の放課後。

誰もいない教室。

ユナは一人、窓の外を見ていた。

そして小さく呟く。

「やっと見つけた」

静かな声。

だけど。

どこか嬉しそうな声で。

「今度は」

「逃がしません」

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