第30話 試される沈黙【改訂版】
翌日。
朝の学院。
校舎の窓から光が差し込んでいた。
廊下には生徒たちの足音が響く。
笑い声。
雑談。
いつも通りの朝。
……のはずだった。
だけど俺は落ち着かなかった。
理由は分かっている。
教室の前。
扉の向こう。
そこに――
ローズがいる。
教室に入る。
ユナはすでに席に座っていた。
そしてその隣には――
ローズ。
二人は楽しそうに話している。
「おはよう、ラフリ」
ユナが気づいて手を振る。
「……おはよう」
俺は席についた。
その瞬間。
ローズの視線がこちらに向く。
「おはよう」
彼女は軽く微笑んだ。
普通の挨拶。
普通の朝。
だけど。
なぜか胸の奥がざわつく。
(……気にしすぎだ)
そう思おうとする。
その時。
ローズがユナに聞いた。
「ねえユナ」
「今日って午後、授業少ないよね?」
「うん、そうだけど」
ユナは少し考える。
「どうして?」
ローズは楽しそうに笑った。
「ちょっと学院を探検したくて」
「まだ知らない場所多いから」
ユナは少し嬉しそうに言う。
「じゃあ案内しようか?」
「本当?」
ローズは嬉しそうに言った。
そして。
ゆっくりこちらを見る。
「ラフリも来る?」
俺は少しだけ黙る。
昨日と同じだ。
また。
この流れ。
「……暇ならな」
短く答える。
ローズは満足そうに微笑んだ。
放課後。
学院の廊下は静かだった。
夕方の光が長い影を作っている。
ユナが前を歩く。
「次は図書館かな」
「学院で一番静かな場所だよ」
ローズは興味深そうに周りを見る。
「へえ」
「いい学院だね」
三人で歩く。
静かな時間。
でも。
俺だけは落ち着かなかった。
ローズの視線。
時々、こちらを見る。
まるで――
何かを確かめるみたいに。
図書館に入る。
静かな空間。
ページをめくる音だけが聞こえる。
ローズは本棚の前で立ち止まった。
「すごい」
「本がいっぱい」
ユナが笑う。
「この学院、古いからね」
ローズはゆっくり本を見ていく。
そして。
一冊の本を手に取った。
「ねえ、ラフリ」
突然呼ばれる。
「なんだ」
ローズは本を見ながら言う。
「こういう話、知ってる?」
「どんな話だ」
ローズはページを軽くめくる。
そして静かに言った。
「世界が何度も繰り返される話」
俺の手が一瞬止まる。
ローズは続ける。
「同じ時間」
「同じ出来事」
「同じ人」
「でも」
彼女はゆっくり顔を上げた。
「たまに――」
その視線が俺に向く。
「それに気づく人がいる」
空気が一瞬止まった気がした。
ユナが少し驚く。
「え?」
「そんな話あるの?」
ローズは軽く笑う。
「うん」
「面白いよね」
そして。
もう一度聞いた。
「もし本当にそんなことが起きたら」
少し首を傾ける。
「ラフリはどう思う?」
心臓が強く鳴る。
「……知らないな」
俺は短く答えた。
ローズはじっと俺を見る。
数秒。
沈黙。
やがて。
彼女はふっと笑った。
「そっか」
本を棚に戻す。
「変な質問だったね」
図書館を出た後。
帰り道。
夕方の空はもう暗くなり始めていた。
三人で歩く。
少し静かな時間。
その時。
ローズが小さく言った。
「でもさ」
ユナが聞く。
「なに?」
ローズは少しだけ笑う。
そして。
静かに言った。
「もし誰かが未来を知ってたら」
一瞬だけ。
俺を見る。
「きっと」
小さく続ける。
「すごく怖い顔で生きるんだろうね」
その言葉を聞いた瞬間。
俺は確信した。
ローズは――
ただの転校生じゃない。
そして。
もしかしたら。
こいつはもう。
かなり近くまで――
気づいている。




