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第29話 帰る場所【改訂版】

夕方。

学院の門を出る頃には、空はオレンジ色に染まっていた。

今日の授業も終わり。

生徒たちはそれぞれの帰り道へ向かっていく。

笑い声。

足音。

少し騒がしい学院の外。

俺もゆっくり歩き出した。

石畳の道。

少し冷たい風。

静かな帰り道。

だけど――

俺の頭の中は、昨日のことでいっぱいだった。

ローズ。

あの質問。

そしてあの視線。

(……考えすぎか)

小さく息を吐く。

今はもう考えるのはやめよう。

そう思いながら、家の扉を開けた。

「フリおにいちゃん!おかえり!」

元気な声が家の中に響いた。

「……ただいま」

家に入った瞬間。

温かい匂いが鼻をくすぐる。

キッチンから声がした。

「ラフリ、ちゃんと手を洗いなさい」

母さんの声だった。

「もうすぐ夕飯よ」

「分かってる」

俺は軽く返事をして洗面所へ向かう。

その途中。

ぱたぱたと足音が近づいてきた。

「フリおにいちゃん!」

小さな影が勢いよく抱きついてくる。

「うわっ」

俺の腕にしがみついてきたのは――

妹のユメだった。

「今日は遅かった!」

「別に普通だろ」

「うそ!」

ユメはむっとした顔をする。

「最近ずっと考え事してる顔してる!」

「そうか?」

「うん!」

ユメは真剣な顔で頷く。

「フリおにいちゃん、すぐ顔に出るもん」

俺は思わず苦笑する。

その時。

リビングの方から低い声が聞こえた。

「帰ったのか、ラフリ」

父さんだった。

新聞を読みながらこちらを見る。

「学院はどうだ?」

「……普通だよ」

俺がそう答えると、父さんは小さく頷いた。

「そうか」

それだけ言ってまた新聞に目を落とす。

いつもの光景だった。

しばらくして夕食の時間になった。

テーブルには温かい料理が並ぶ。

湯気の立つスープ。

焼きたてのパン。

そして母さんの手料理。

家の中は静かで落ち着く空気だった。

「いただきます」

四人で食事を始める。

しばらく静かな時間。

その時。

ユメが急に俺を見てにやっと笑った。

「ねえねえ」

「フリおにいちゃん」

「なんだよ」

ユメは少し身を乗り出して聞いた。

「学院に可愛い子いる?」

「ぶっ」

俺は思わずむせた。

母さんが少し笑う。

「ユメ、急に何言ってるの」

「だって!」

ユメは楽しそうに言う。

「フリおにいちゃん最近ずっと変なんだもん!」

父さんが新聞越しにちらっとこちらを見る。

「ほう」

ユメはさらに続ける。

「絶対好きな子できたんだよ!」

「……違う」

俺はすぐに否定する。

「本当かな~?」

ユメは疑うような目で見る。

「金髪?」

「黒髪?」

「それとも――」

少し楽しそうに言う。

「優しいお姉さんタイプ?」

「……ただのクラスメイトだ」

俺はため息をついた。

ユメはじっと俺を見つめる。

そして。

にやっと笑った。

「ふーん」

「怪しい」

母さんが苦笑する。

「ユメ、ラフリをからかいすぎよ」

「えへへ」

ユメは楽しそうに笑った。

だけど。

その賑やかな時間が、少しだけ心地よかった。

夕食の後。

俺は自分の部屋に戻った。

窓を開ける。

夜の風が静かに入ってくる。

外はもう暗い。

静かな夜だった。

家の中は安心する。

ここにいると、学院のことを忘れられる。

……はずだった。

机の上に置かれた学院のノート。

それを見た瞬間。

頭に浮かんだのは――

ローズの顔だった。

そして。

あの言葉。

「未来を知ってる人みたい」

俺は小さく目を閉じる。

(……気のせいだ)

そう思おうとする。

だけど。

胸の奥の違和感は消えなかった。

まるで――

何かが。

ゆっくりと。

近づいているみたいに。

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