第27話 ローズの視線【改訂版】
昼の教室。
窓から柔らかな光が差し込んでいる。
いつも通りの授業。
黒板にチョークの音。
ページをめくる音。
静かな時間。
……のはずだった。
だけど。
俺だけは落ち着かなかった。
理由は一つ。
転校生――ローズ。
彼女がユナの隣に座っているからだ。
初めて会ったはずなのに。
どうしても胸の奥がざわつく。
理由は分からない。
それでも俺の視線は、何度も彼女の方へ向いてしまう。
「ユナって、この学院長いの?」
ローズが楽しそうに聞いた。
「うん、まあ……そうかな」
ユナは少し考えてから答える。
「へえ」
ローズは興味深そうに頷いた。
「じゃあ学院のこと、いっぱい知ってるんだね」
「そんなに詳しくないけど……」
ユナは少し照れたように笑う。
二人はそのまま会話を続けた。
好きな授業。
学院の噂。
食堂の人気メニュー。
どれも普通の話だ。
普通のはずなのに――
俺は落ち着かなかった。
(……なんだ、この感じ)
ローズが笑う。
ユナも笑う。
その光景を見ているだけなのに、胸の奥が妙にざわつく。
まるで――
何かが起きる前触れみたいに。
その時だった。
ローズがふと、こちらを見た。
そして小さく首を傾げる。
「ねえ」
突然声をかけられた。
「……俺か?」
「うん」
ローズは微笑む。
「ラフリ、だよね?」
名前を呼ばれて、少し驚く。
「……そうだけど」
「さっき先生が呼んでたから覚えちゃった」
そう言って、くすっと笑う。
「でもさ」
ローズは少しだけ目を細めた。
「ラフリって、ずっとこっち見てるよね?」
その瞬間。
近くのクラスメイトが笑った。
「確かに」
「めっちゃ見てるよな」
「気になるのか?」
しまった。
一瞬で視線が集まる。
ユナもこちらを見る。
「ラフリ?」
少し不思議そうな顔。
「いや、その……」
言葉が出ない。
言い訳が見つからない。
その時。
ローズがゆっくり立ち上がった。
そして一歩、こちらへ近づく。
「ねえ」
小さな声。
他の人には聞こえないくらいの距離。
「なに?」
俺は小さく答える。
ローズは少しだけ首を傾げた。
まるで観察するみたいに。
「私のこと」
少し間を置く。
「どこかで会ったことある?」
心臓が一瞬強く鳴る。
「……ない」
俺は短く答えた。
だけど。
ローズはまだ俺を見ている。
「ほんとに?」
「ほんとだ」
少しだけ沈黙が流れた。
やがてローズは小さく笑った。
「そっか」
そう言って席へ戻る。
授業はまた普通に続いた。
先生の声。
ノートを書く音。
クラスの空気。
何も変わらない。
……はずなのに。
俺の胸のざわつきは消えなかった。
その時。
ローズが小さくつぶやいた。
「でもさ」
ユナが聞き返す。
「え?」
ローズは軽く首を傾げた。
そして言った。
「ラフリって、不思議だよね」
「どうして?」
ユナが聞く。
ローズは少しだけ笑った。
そして――
静かに言った。
「まるで」
ほんの一瞬。
ローズの視線が俺に向く。
「ずっと前から私を知ってる人みたいな顔してるんだもん」
その言葉を聞いた瞬間。
背中に冷たい感覚が走った。
……どうしてだ。
どうしてこいつは。
そんなことを言えるんだ。




