第23話 : 第二ループ、歪み始める運命【改訂版】
ほんの少しの選択の違いが、
同じはずの世界を、わずかに狂わせていく。
それは偶然ではない――
運命が“拒絶”を始めた証。
それでも少年は、まだ知らない。
その歪みの先に待つものが、
どれほど残酷なのかを。
これは――
二度目の選択と、
二度目の“失敗”の物語。
目を覚ました瞬間、ラフリは理解していた。
――自分は、戻ってきたのだと。
だが同時に、胸の奥に残る違和感があった。
(……何かを、しなきゃいけない)
理由は分からない。
だが、何かを変えなければいけないという焦燥だけが、確かにそこにあった。
やがて、教室にいつもの面々が現れる。
ヨヨ。
セラ。
トワケ。
そして――ユナ。
すべてが前と同じはずなのに。
ふと視線を向けた壁掛け時計が、
ほんの一瞬だけ――前後に揺れた。
カチ、カチ。
進んで、戻って、また進む。
「……気のせいか」
目を閉じる。
再び開いた時、時計は元通りだった。
(考えすぎだ……ただの幻覚だろ)
そう思い込もうとした、その時。
――コトッ。
前回と同じタイミングで、同じ場所に、同じように落ちる消しゴム。
ユナが、小さく微笑む。
だが――
(……あれ? 座ってる位置、少し違う……?)
前回とは、ほんのわずかに、何かがズレていた。
ほんの数センチ。
だが、そのズレが妙に気持ち悪い。
違和感を抱えたまま、昼休みになる。
弁当を忘れたのも、同じ。
「ラフリ、どこ行く?」
ヨヨの声。
「食堂」
「じゃあ俺も――」
「行こう」
被せるように言った瞬間、
ヨヨが一瞬だけ驚いた顔をする。
だが、すぐにいつもの表情に戻った。
――同じ流れ。
のはずだった。
(……ミヤコが、来ない)
胸の奥の違和感が、さらに強くなる。
食堂で買い物を終えた直後。
まるで“遅れて配置された”かのように――
「せんぱ〜い!」
明るい声と共に、ミヤコが現れた。
ラフリは静かに答える。
「屋上に行くだけだ」
「じゃあ私も――」
そう言いかけた瞬間、
別の少女がミヤコの腕を掴んだ。
「ミヤコちゃん、担任が呼んでるよ? 授業中に寝てたでしょ?」
「えっ!?」
そのまま連れていかれるミヤコ。
ラフリは、その背中を見送りながら確信する。
(……ズレてる。全部が、少しずつ)
屋上へ向かう。
そこに――ユナはいた。
「……あら、ラフリ」
前回と同じ言葉。
だが、その声のトーンが、ほんの少しだけ違う。
「ここ、座れば?」
前回は断った。
だが今回は――
ラフリは、彼女の隣に座った。
距離が近い。
近すぎる。
心臓の音が、うるさい。
メロンパンと牛乳を口にする。
その時――
ユナが、そっと袖を引いた。
「……ねえ」
驚いて振り向く。
「私の弁当……食べない? 一人じゃ食べきれないの」
(……違う)
前回と、言葉が違う。
だが、拒む理由はなかった。
「……もらう」
ラフリは、からあげを選んだ。
だがユナは、それを彼の口元へ運ぶ。
「はい、あーん」
「……っ」
顔が熱くなる。
「どう? 私のからあげ」
「……美味い。幸せになる味だ」
空気が止まる。
ラフリは慌てて視線を逸らす。
だがユナは、ただ優しく微笑んだ。
「ふふ……ありがとう」
その笑顔に、胸が締め付けられる。
――守りたい。
何度でも。
そう、思った。
午後の授業。
そして――雨。
前回よりも、早い。
校門付近。
見覚えのある、三つの影。
(……こいつらだ)
ラフリは教師に早退を願い出る。
そして――走った。
「誰だお前」
「お前たちの計画を止めに来た」
殴られ、蹴られ、地面に倒される。
肺が潰れる。
視界が揺れる。
それでも――立つ。
やがて教師の声が響き、彼らは逃げた。
ラフリは一人、
道路に散らばった釘を拾い続けた。
雨に打たれながら。
血と泥で手を汚しながら。
――これで、事故は防げる。
そう信じて。
ユナと再会し、傘を差して送り届ける。
「ありがとう。また明日」
車が走り出す。
(……これで、助かった)
そう思った、その瞬間。
背後から――
ドゴッ。
鈍い衝撃。
頭蓋が揺れ、視界が赤に染まる。
倒れながら見たのは――
再び、衝突されるユナの車。
炎。
絶望。
そして聞こえる声。
「邪魔した罰だ。レディ・ローズの命令だ」
(……また、ダメだった……?)
意識が沈む。
その時。
世界が止まった。
空が――ひび割れる。
白い空間。
ページがめくれる音。
そして、あの声。
『ループ第二段階。対価、回収開始』
その瞬間――
ラフリの喉が焼ける。
胸が裂ける。
無数の刃で刺されるような痛み。
視界に映るユナが――二つに分裂する。
生きているユナ。
死んでいるユナ。
それが重なり、砕け散る。
タク……チク……タク……チク……
逆再生される時間の音。
そして――
ユナの声。
『ラフリ……忘れないで……』
ラフリは叫ぶ。
「待ってろ……! 必ず、お前を救う!!」
――次の瞬間。
彼は、屋上にいた。
昼休み。
ユナの隣。
その瞬間――
一瞬だけ。
ユナの声が、二重に重なった。
生きている声と、
さっき死んだ声が。
ラフリの心臓が跳ねる。
胸に、さっき受けたはずの痛みが残っている。
手が、わずかに震えていた。
(……あれ……)
(俺は……何回目だ……?)
分からない。
もう、分からない。
ただ――
衝動のままに、ラフリはユナを抱きしめていた。
理由は分からない。
けれど――
ただ一つだけは、確かだった。
「何度繰り返しても……」
「俺はまた、お前を選ぶ」
二度目の世界は、確かに変わり始めていた。
ほんのわずかな違いが、
やがて取り返しのつかない未来へと繋がっていく。
そして少年は、まだ知らない。
その選択の先に待つのが――
“救い”ではなく、
より深い絶望であることを。
それでも彼は進む。
何度壊れても、何度失っても。
――彼女を、救うために。




