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第13話 手放してしまうことへの恐れ 【改訂版】

人は――

幸せを手に入れた瞬間から、

少しずつ「恐れ」を知っていく。

守りたい人ができたとき。

その温もりを知ってしまったとき。

胸の奥に、静かに生まれる影。

それはきっと――

「失いたくない」という願いの裏側。

それでも。

その不安さえ抱きしめながら、

誰かを愛そうとする心があるのなら。

それはもう――

ただの弱さなんかじゃない。

放課後の帰り道。

ゆっくりと揺れる電車の中、

窓の外では夕焼けが流れるように景色を染めていた。

オレンジ色の光が、

隣に座るユナの横顔をやわらかく照らしている。

その光景は――

あまりにも穏やかで、

あまりにも、幸せすぎて。

……だからこそ。

胸の奥に、黒い不安が静かに広がっていった。

(もし俺が、まだユナにふさわしくなかったら――)

(もしこの幸せが、いつか終わってしまったら――)

今、握っているこの手の温もりが。

いつか消えてしまう未来を、勝手に想像してしまう。

怖くて、たまらなかった。

「……ラフリ?」

ふと、耳元で優しい声が落ちる。

気づけばユナが、

そっと俺の肩に頭を預けていた。

「え……な、なに、急に……?」

戸惑う俺に、ユナは少し頬を膨らませる。

「だって……さっきからずっと難しい顔してる」

「そんな顔ばっかりしてると、私……寂しくなるよ?」

その一言で、胸がぎゅっと締めつけられる。

逃げられない。

でも――逃げたくない。

「……何を考えてるの?」

静かで、優しい問い。

だからこそ、もう嘘はつけなかった。

「俺は……」

言葉が喉で止まる。

けれど――

「俺、本当の気持ちを言うのが怖いんだ」

「それを言ったら……ユナが離れていくんじゃないかって」

一瞬、空気が止まる。

けれど次の瞬間――

ユナの手が、俺の手をぎゅっと強く握った。

「じゃあ、言って」

逃げ道のない、優しい声。

「私は、ラフリの本音が聞きたい」

「弱いところも、怖がってるところも……全部」

心臓が大きく跳ねる。

それでも俺は――

全部、吐き出した。

「俺はユナを失うのが怖い」

「俺はまだ足りないんじゃないかって思ってる」

「いつか、もっといい誰かが現れて……」

「ユナが、そっちに行ってしまうんじゃないかって――」

胸の奥に閉じ込めていた言葉を、

全部、全部。

吐き出した。

そのあと――

ユナは、ふうっと小さく息を吐いて。

そして、やわらかく微笑んだ。

「なーんだ。そんなこと?」

「え……?」

「ラフリって、本当にバカだね」

くすっと笑いながら――

でもその瞳は、まっすぐで、揺るがなかった。

「私がラフリを離れるなんて――絶対にありえないよ」

その言葉は、まるで誓いみたいに。

まっすぐ胸の奥へ届いた。

「たとえラフリが弱くても、かっこ悪くても、泣き虫でも」

「私は離れない」

ユナは、さらに強く手を握る。

「だからもう、そんなことで悩まなくていいの」

「ラフリは――私を愛して、守ってくれるだけでいい」

その一言で。

胸に絡みついていた鎖が――

静かにほどけていく気がした。

「……ありがとう、ユナ」

ようやく、息ができる。

「これからは……ユナを幸せにすることだけ考える」

俺は、手を握り返した。

「“If I Let You Go”なんて、もう考えない」

小さく笑って――

「俺は絶対に手放さない。手放したくない」

まっすぐ、ユナを見つめる。

「俺は、ユナを一生愛する」

「運命も、時間も、死さえも――きっと俺たちを引き離せない」

そして、そっと囁いた。

「I love you, ユナ」

夕焼けの中を走る電車。

その小さな車内で交わした温もりは――

誰にも壊せない、

二人だけの、確かな約束になった。

恐れは、消えたわけじゃない。

でも――

その恐れを一緒に抱えてくれる人がいるなら。

その恐れを、分け合えるなら。

それはもう、弱さじゃない。

それはきっと――

誰かを本気で愛している証。

※本話は物語の一貫性のために加筆・修正を行いました

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