表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
107/110

第127話:崩壊寸前の均衡と、失いかけた現実

人は、“失いかけた瞬間”にすべてを理解する。

それまで曖昧だった感情も、

誤魔化していた想いも、

その一瞬で、すべて形になる。

だが――

理解したときには、すでに遅いことが多い。

放課後。

空はどんよりと曇っていた。

雨の気配。

重い空気。

「……降りそうだな」

ラフリが空を見上げる。

「……うん」

ユナも同じように視線を上げる。

(……また)

嫌な予感。

理由はない。

でも――

胸の奥がざわつく。

「傘、あるか?」

「……ある」

嘘。

本当は持っていない。

でも。

(……一緒に帰れるなら)

それでいい。

校門を出る。

空気は冷たい。

風が強くなる。

「……ユナ」

「なに?」

「なんか、顔色悪くないか」

「……平気」

即答。

でも、

その手は少しだけ冷えていた。

(……おかしい)

胸の奥の違和感が強くなる。

“何かが起きる”

そんな感覚。

「……ラフリ」

「ん?」

「今日、遠回りして帰らない?」

突然の提案。

「……どうした急に」

「なんとなく」

本当の理由は言えない。

(……この道じゃダメ)

根拠はない。

でも――

“ここじゃない”と感じる。

ラフリは少し考える。

「……いいけど」

その一言で、

少しだけ安心する。

だが――

その瞬間。

キィィィィィン――

耳鳴り。

視界が揺れる。

(……っ)

一瞬だけ、

景色が“ズレた”。

道路。

車。

“ぶつかる”

「……ユナ?」

ラフリの声で、意識が戻る。

「……何でもない」

でも――

心臓が強く打っている。

(……今の)

ただの気のせいじゃない。

“見たことがある光景”

でも思い出せない。

「……行くぞ」

ラフリが歩き出す。

「……うん」

ユナも続く。

だが、

数歩進んだ瞬間。

バンッ!!!

大きな音。

「っ!?」

横から飛び出してきた車。

スピードが速い。

止まらない。

(……あ)

さっきの光景と、重なる。

“同じ”

「ユナ!!」

ラフリが叫ぶ。

腕を引かれる。

強く。

乱暴に。

そのまま、

地面に倒れ込む。

ドンッ!!!!!!

すぐ横を車が通り過ぎる。

数センチ。

ほんの数センチの差。

「……っ……」

呼吸ができない。

心臓が、

壊れそうなほど鳴っている。

「……大丈夫か!?」

ラフリの声。

近い。

顔を上げる。

目の前に、

ラフリの顔。

(……生きてる)

その事実だけで、

視界が滲む。

「……ユナ?」

「……っ」

言葉が出ない。

代わりに――

ぎゅっ

ラフリの服を掴む。

強く。

離さないように。

「……ユナ」

「……やだ」

小さな声。

でも――

はっきりとした拒絶。

「……やだ」

もう一度。

(……今の)

理解してしまった。

“失うところだった”

たった一瞬で。

何もできずに。

何も守れずに。

「……離れないで」

震える声。

「……ここにいて」

ラフリは少しだけ驚く。

でも――

「……ああ」

それだけ答える。

それだけで、

十分だった。

だが――

(……違う)

それだけじゃ足りない。

(……足りない)

もっと確実に。

もっと絶対に。

(……いなくならないように)

その考えが、

初めて“はっきりと形”になる。

夜。

ユナはベッドの上に座っていた。

手がまだ震えている。

思い出す。

さっきの光景。

車。

音。

距離。

そして――

(……いなくなる)

その未来。

「……やだ」

はっきりと言う。

(……もう二度と)

同じことを繰り返すわけにはいかない。

理由は分からない。

でも――

確信だけはある。

(……私は、失ったことがある)

その感覚。

記憶はない。

でも、

“知っている”。

「……だから」

ゆっくりと呟く。

「……もう、離さない」

その声は静か。

でも――

確実に、

一線を越えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ