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第126話:優しさの形をした独占と、静かな選択

人は、自分の行動に理由を与えることで、安心する。

たとえそれが間違っていても、

“正しい理由”をつければ、心は納得してしまう。

守りたいから。

大切だから。

失いたくないから。

その言葉は優しい。

けれど――

時にそれは、最も残酷な行動の言い訳になる。

朝。

空は相変わらず曇っている。

光は弱く、どこか落ち着かない。

教室。

いつもの席。

いつもの景色。

「おはよう」

「……おはよう」

短いやり取り。

もう慣れた距離。

(……大丈夫)

昨日よりも、心は安定している。

理由は分かっている。

(……昨日、一緒に帰ったから)

たったそれだけで、

不安が薄れている。

(……単純)

自分で思う。

でも――

それを否定しない。

授業前。

「ラフリ」

「ん?」

「今日も、昨日の続きやる?」

自然な流れ。

いつもの提案。

「いいぞ」

即答。

(……よかった)

それだけで、また安心する。

休み時間。

昨日と同じような流れ。

「ラフリ!」

また別の女子。

(……来る)

予測できる。

もうパターンが見えている。

「ちょっといい?」

「……悪い」

ラフリが先に言う。

「今、少し手が離せない」

「え?」

女子が少し驚く。

「後でいいか?」

「……あ、うん」

戸惑いながらも引く。

その光景を見て、

ユナは一瞬、動きを止めた。

(……今の)

ラフリが、断った。

自分から。

理由は――

分からない。

でも。

(……違う)

違和感が残る。

(……なんで)

少しだけ、

胸がざわつく。

「……どうした?」

ラフリが聞く。

「……なんでもない」

すぐに答える。

でもその視線は、

さっきの女子の方へ一瞬だけ向いた。

(……本当に?)

その疑問は、

小さく残る。

昼休み。

屋上。

今日は少し風が強い。

髪が揺れる。

「……寒い?」

ラフリが言う。

「平気」

答える。

でも次の瞬間、

ラフリが少しだけ位置を変えた。

風を遮るように。

(……あ)

ほんの些細なこと。

でも――

それだけで、

胸の奥が大きく揺れる。

(……なんで)

こんなことで。

「……ラフリ」

「ん?」

「なんで、さっき断ったの?」

少しだけ踏み込む。

「さっき?」

「休み時間」

「ああ」

少し考える。

「別に、急ぎじゃなさそうだったし」

それだけ。

「……それだけ?」

「それだけだな」

嘘はない。

でも――

全部でもない。

ユナは少しだけ黙る。

(……違う)

分かってしまう。

“理由”は一つじゃない。

でも――

それを聞くのが怖い。

「……そっか」

それだけで終わらせる。

午後。

授業。

でも、

ユナの中では整理が進んでいた。

(……大丈夫)

(……私は間違ってない)

思考が、少しずつ形を持つ。

(……守ってるだけ)

(……大切だから)

その言葉が、

自然に出てくるようになる。

放課後。

「ラフリ」

「今日も帰るか」

「……うん」

並んで歩く。

距離は、もう完全に“固定”されている。

自然に。

当たり前のように。

(……これでいい)

誰にも邪魔されない距離。

「……ラフリ」

「ん?」

「もしさ」

またその前置き。

「……私がいなくなったら」

ラフリの足が一瞬止まる。

「……なんだそれ」

「……もしもの話」

少しだけ声が揺れる。

「……考えたくないな」

その答え。

曖昧で、

でも――

はっきりしている。

(……そっか)

胸の奥が、強く締め付けられる。

安心と、

不安が同時に来る。

夜。

部屋。

ユナは鏡の前に立っていた。

自分の顔を見る。

「……大丈夫」

小さく呟く。

「私は、間違ってない」

繰り返す。

(……守ってるだけ)

(……離さないために)

その言葉は、

もう完全に“理由”になっていた。

「……ラフリ」

小さく名前を呼ぶ。

「……大丈夫」

その声は、

優しい。

でも――

その奥にあるものは、

もう優しさだけではなかった。

“選択”は終わっている。

あとは――

どこまで進むかだけだった。

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