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第122話:選ばれる側から、選ぶ側へ

人は、誰かに選ばれることを望む。

けれど――

“選ばれ続けること”に慣れたとき、

その立場は静かに変わっていく。

気づかないうちに、

自分が“選ぶ側”に立っていることに。

それが優しさなのか、

それとも支配の始まりなのかは――

まだ分からない。

朝。

教室に差し込む光は柔らかい。

いつも通りの風景。

なのに――

ユナの中では、少しだけ違っていた。

(……今日は)

席に着く。

鞄を置く。

ノートを出す。

一つ一つの動作が、妙に意識される。

「おはよう」

隣から声。

「……おはよう」

ラフリ。

いつも通り。

それだけで、少しだけ安心する。

「昨日の続き、やるか?」

突然の提案。

「……え?」

「数学。途中だっただろ」

覚えている。

細かいところまで。

それが――

ほんの少しだけ嬉しい。

「……うん」

自然に頷く。

(……なんで)

こんなことで。

ただ覚えていただけなのに。

それだけで、胸が軽くなる。

授業前。

ノートを広げる。

距離が近い。

肩が触れそうな位置。

昨日と同じ。

でも――

今日は、少し違う。

「ここ、こうだろ」

ラフリが指を指す。

「……あ」

理解できる。

すぐに。

「分かった?」

「うん」

頷く。

でも――

視線は、少しだけ長く残る。

(……近い)

安心する距離。

でも同時に、

少しだけ“怖い”距離。

休み時間。

「ラフリ〜!」

アオイが駆け寄る。

「また教えて〜!」

「またか」

「だって分かんないんだもん!」

「ナカムラに聞け」

「冷たい!!」

いつもの流れ。

変わらないやり取り。

「……ラフリ」

その中に、静かな声。

ユナ。

「さっきの続き、少しだけ」

言い方は柔らかい。

でも――

タイミングは、完全に“重ねている”。

アオイが一瞬止まる。

「え、今?」

「……うん」

ユナは視線を逸らさない。

「……じゃあ、先にいいよ」

アオイが一歩引く。

「後で聞く」

「ありがと〜!」

軽く笑う。

でも――

その奥に、少しだけ違和感が残る。

(……今の)

ユナ自身も気づく。

ほんの少しだけ。

“割り込んだ”ことに。

でも。

「……ラフリ」

自然に続ける。

止まらない。

止めない。

「ここ、もう一回」

「……ああ」

ラフリは特に気にしない。

ただ説明する。

いつも通りに。

(……別に)

問題はない。

順番が少し変わっただけ。

それだけ。

昼休み。

「今日はどうする?」

ナカムラが聞く。

「屋上でいいんじゃない?」

アオイが答える。

「ミサキは?」

「どこでもいい」

いつも通りの流れ。

「……屋上」

ユナが小さく言う。

誰に向けたわけでもない。

でも――

確かに、その場に落ちる。

「じゃあ決まりだね!」

アオイが明るく言う。

誰も反対しない。

屋上。

風は穏やか。

空は高い。

いつもの場所。

いつもの時間。

でも――

座る位置が、少し変わっていた。

ラフリの隣に、ユナ。

その反対側に、他のメンバー。

自然な配置。

誰も疑問に思わない。

でも――

それは確実に“選ばれた位置”だった。

「ラフリ」

また呼ぶ。

「ん?」

「これ、食べる?」

弁当を差し出す。

昨日と同じ。

一昨日と同じ。

「……もらう」

ラフリが受け取る。

その瞬間、

ユナの視線がほんの少しだけ柔らかくなる。

ミサキがそれを見る。

何も言わない。

ただ――

少しだけ目を細める。

「……ほんと、鈍いね」

小さく呟く。

誰にも聞こえないくらいの声で。

午後。

授業。

ノート。

ペンの音。

静かな時間。

その中で――

ユナは気づく。

ほんの少しずつ。

確実に。

(……私)

選んでる。

場所も。

タイミングも。

距離も。

そして――

ラフリも、それを受け入れている。

拒まない。

気づいていない。

だからこそ――

成立している。

放課後。

「じゃあ帰るか」

ラフリが立ち上がる。

「……うん」

自然に並ぶ。

昨日と同じ。

でも――

一歩だけ、ユナの方が先に動いた。

夕焼け。

長く伸びる影。

その距離は――

さらに少しだけ近い。

「……ラフリ」

「ん?」

「明日も、一緒にやる?」

勉強のこと。

でも――

それだけじゃない。

「いいぞ」

即答。

迷いなし。

「……そっか」

小さく頷く。

その声は、昨日よりも安定していた。

その夜。

ユナはベッドに座っていた。

静かな部屋。

暗い天井。

「……違う」

小さく呟く。

また否定する。

でも。

今日は、少しだけ違う。

(……私が)

思い出す。

昼のこと。

屋上。

位置。

距離。

「……選んだ」

自分で。

無意識に。

自然に。

それが何を意味するのか、

まだ完全には理解していない。

でも――

確実に一歩進んでいる。

「……大丈夫」

自分に言い聞かせる。

「これは、普通」

ただ仲がいいだけ。

ただ一緒にいるだけ。

でもその言葉は――

少しずつ、重みを失っていた。

“選ぶ”という行為は、

すでに始まっている。

そしてそれは――

もう、止められない。

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