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次元破断の魔術師  作者: 秋原
炎術師の森

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北部連絡通路Ⅱ

 

「なに?」


 眉根を寄せるハウザーに、三体の騎士が滔々(とうとう)と語る。


「そもそもの話。盾計画の再開は、眠れる王の預かり知らぬこと。王は神体と断片のみで雌雄を決するつもりであった。いわば、あぶく銭よ。失ったとしても何ら支障は(きた)さない」

「それどころか娘を引き渡せば、軍団長の独断に我々騎士団も賛同したものと見做(みな)される。騎士団総監であった貴君が献上したものだと知れれば尚の事だ」

「それを危惧するからこそ、貴君もその娘をジゼルに引き渡すことを良しはしなかった。ゆえに重要器物特別警護などという閑職に回され、事実上の更迭(こうてつ)となったわけだが、その判断は敬服に値する」


 ハウザーにその座を奪われながら、再び騎士団総監へと返り咲いた男が芝居がかった動作で天を仰ぐ。


「我々は軍団長を諫めた。正道に戻るよう説得もした。しかし、聞き入れなかった。ならば従うしかないのか。違う。我らは王への忠誠を忘れたわけではない。ゆえに、あえて盾を壊すのだ。軍団長の命令よりも優先されるべきものがあることの証左として」


「………」


 ハウザーは無言。それを承諾と解釈したのか、騎士の手が女に伸びる。

 だが――


「弱い者ほど群れたがるというのは真実だな。(やま)しさから目を背けるにも仲間がいないと心細いとは。呆れて物も言えん」


 魔術師の娘へと伸ばされた手を冷然と払い除けて、ハウザーは鼻を鳴らす。


「軍団長のすべてを否定する必要はないだろう。盾は有用であり、献上したとしても忠誠を揺るがすことにはならない。私はそう判断する」


 真っ向からの反論に、三体の夜魔騎士は色めき立つ。


「弱者? 弱者だと⁉」

「我らに後ろ暗いものなどない!」

「軍団長の(しもべ)と見做されても良いのか! それとも既に籠絡(ろうらく)されたか!」


 叫ぶ同胞へと、ハウザーは酷薄に告げる。


「貴様らは王のためではない。保身のために動いている。目覚めた王が軍団長に怒りの雷霆(らいてい)を振り下ろす際、連座となって処罰されることを恐れている。貴様らが示したいのは忠義ではない。潔白だ。ジゼルの暴走を止めようと努力はした。そう主張したいがための言い訳だ」

「違う!」

「そして無実を証明するのに、最も幼稚な手段を取ろうとしている。拘束されて身動きのとれない魔術師であれば、貴様らでも簡単に殺せるからな」

「違う!」

「ならば、どうして赫船を討たない? この娘は盾として役立つが、あれは何の益も(もたら)さない。此度の軍団長の施策の根幹には赫船がいる。ならば、赫船を取り除け。簡単な話だ。それとも、まさかとは思うが奴の炎術に怯えているわけではあるまいな? 異議を唱えるならば赫船を討て。もっとも、貴様らに出来るのであればの話だが」


 ぎりりと奥歯を噛み締めるような音が聞こえる。


「我らを愚弄(ぐろう)するのか」

「生意気な。恩寵賜(おんちょうたまわ)った身であるからと(おご)りおって」 

「我らにも逆三日月の大鎌(クレセント)があれば……」


 この期に及んで、とハウザーは(わら)う。


「道具に頼らねばならないとはな。夜魔の誇りが泣くぞ?」


 せせら笑いに、現騎士団総監が目を()く。


「では、貴様はどうなのだ? 王がお眠りの中では新たに眷属を生み出すことは叶わず、実質、炎術師に肉薄し得る武具を有しているのは特務騎士団の生き残りである貴様だけ。貴様だけが王に次ぐ力を持っている……。なのに、なぜその力を振るわない? なぜ、力を持って状況を打開しない? それさえあれば軍団長を屈服させることも容易いはず!」


 これだから思考を硬直させた(やから)は。

 ハウザーは言ってのける。


「無能どもから言われる台詞ではないな。私は私の役目を全うしている。(ひるがえ)って貴様らはどうだ? 姿を見失って以来、この娘の仲間の消息を未だ掴めずにいるのだろう? 巡回警邏に多大な過失があるというのに、なぜこんなところで油を売っている? 森に潜伏している可能性が排除されるまで警戒を怠るな。職務への励行。それこそが王への忠誠の第一義だ。さあ、働け。私に尻を叩かれている内が華だとまで言わせるな」


 激高し、今にも飛び掛からんとする二体の騎士。

 それを、腕を真横に払った騎士団総監が制止する。


「今の言葉、忘れぬぞ。失礼する」


 すれ違いざまに吐かれた言葉にハウザーは息を吐く。

 彼らの怒りはもっともだ。自分もいい加減、覚悟を決めるべきだろう。

 ふと視線を感じ、顔を下に傾ける。

 横抱きにしていた魔術師の娘が、こちらを凝視していた。


「………」


 何か、言いたいことでもあるのだろうか。

 探ろうとして、ハウザーはやめる。内輪揉めする醜態さを嘲弄(ちょうろう)されるならともかく、(あわ)れまれでもしたらどうすれば良い? それとも、生命を助けられたと勘違いしている?

 いや、それはない。それよりかは、私の性格や価値基準を評価しているのだと思った方が良さそうだが、さりとて、それも……。

 

「………」

「………」


 居心地の悪さにハウザーは閉口する。

 仕方ない。このまま見詰められるよりかは幾分マシだ。

 ハウザーは横抱きにしていた少女を、自身の馬の背へと放り投げる。

 夜魔が人間風情を背に座らせるなど言語道断の行いではあるが、自身の奴隷(イコール)財産である。金貨が詰まった袋なら、少しくらい丁重に扱ったとしても(とが)められたりはしないだろう。

 さてと。立ち話で浪費した時間を取り戻さなくては。


「振り落とされるなよ」


 一応声を掛けて、ハウザーは全力疾走を開始する。

 背後で何やら悲鳴のような(うめ)きが聞こえ、バタバタと小動物が激しく暴れるような震動が伝わって来るが問題ない。魔術師の身体機能があれば落馬することはないだろう。

 ハウザーはそのまま疾走を続け、五分後、モノリスを彷彿(ほうふつ)とさせる巨大な一枚の鋼鉄門扉へと辿り着いた。


「珍しい登場ですね」


 扉の前で待っていたのは、束ねた金髪を白衣の襟に垂らす夜魔の女。

 手にはクリップボード型の電子端末。画面に表示されているデジタル時計を眺める怜悧(れいり)な顔には、感情一つ浮かんでいない。


「遅れたか?」

「はい。三十七秒の遅刻ですが、特に問題ありません。とはいえ、貴重な素体をそのような運搬手段で輸送することについては正式に抗議しますが」


 言われて、ハウザーは背後を振り返る。

 清楚(せいそ)なドレスを太腿(ふともも)まで(めく)り上げ、()()うの体と言った感じの魔術師の娘が、荒い呼吸混じりにこちらを(にら)んでいた。

 そういえば、手枷(てかせ)(はま)っていたのを忘れていた。道理でしがみついてこないわけだ。


「……それは()びる。すまない。それで、貴様一人きりか? 拘束台も施設警備兵の姿も見えないが……」


 普段であれば、魔術師の娘を拘束するために多数の人員が待ち構えている。なのに、今回に限っていない。虜囚(りょしゅう)とはいえ危険な炎術師だ。引き渡しには万全を期すべきだが、どうしたのだろうか。

 馬上からぐったりとしている娘を降ろした女が、てきぱきとした動作で体温、瞳孔運動、脈拍、心音などの簡単な診察を済ませながら答える。


「先刻、我々の管理するブロックの一つで爆発事故が発生しました。原因は、地下空間の拡充工事中であった掘削機がメタンのガス溜りを掘り当ててしまったこと。現在、救助活動のため、多数の医療スタッフが緊急投入されています。そのため、追加検診についてもすぐには開始できません。申し訳ありません」


 初耳だが、研究区画の管理権限は全て技術総監に一任されており、研究区画の警備部隊も技術部独自のもの。軍団長管轄であるハウザーたちとの間に情報共有網が敷かれているわけでもないので、関係者からそうだと言われれば、そうなのだろうと納得するしかない。


「……了解した。では、どうする? 状況が落ち着いた後に再度出向いた方が良いのか?」

「いえ、それには及びません。二時間もあれば事態も収束し、検診の準備も整うかと。それまでの間は研究区画内(こちら)で待機して頂ければ幸いです。それと、これは私の上司からの提案なのですが、もし興味がありましたら研究施設の見学が可能です。勿論、見学が許される範囲で、ですが。私がご案内差し上げます」

「ほう……」


 悪くない提案だった。

 謎のベールに包まれている技術部の一端を暴ける機会はそうはない。

 王の大切な身体を預けている場所でもある。軍団長と技術総監に(まつ)わる噂を精査する観点からも、現地の様子を探ることには意味がある。


(技術部としては騎士団内の不穏な動きを察知し、私を通じて噂が虚偽であることを喧伝(けんでん)させたい狙いがあるのか……?)


 そうであるならば、それでいい。

 だが、本当に王が(とりこ)となっているのなら、その時は……。


「いいだろう。それで、この娘はどうする?」

「ご一緒に同行を。何かあればハウザー様が取り押さえて頂けるものと期待しております」


 奴隷の瞳が微かに揺れるのを、ハウザーは見逃さなかった。

 逃亡のための絶好の機会が到来したとでも思っているのだろう。だが、そうはさせん。私の管理下にある内は。

 壁のパネルを操作し、技術総監の個人秘書官が金属門扉を開け放つ。


「どうぞ」


 扉の先は、一面純白の無機質な空間。

 個人秘書官の案内の元、中央にぽつんと寂しく設置されたボックス型の昇降機へと向かい、少女と並び立つハウザーは鉄の鎖を手に進む。

 こちらの姿を捕らえて追従する監視カメラのレンズ。

 エアゾル噴霧されている滅菌剤の鼻を突く匂い。

 整然と碁盤(ごばん)目状に並べられた、白いビニールシートに覆われている丸太らしきもの。


「………」


 待ち受けているものは、果たして――


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