第一観測発令所
「はいはい、そのままエレベーターに乗って、地下四階に……着いた! よしよし。これでよし。やれやれ、これでこっちはどうにかなったね。ふうー」
モニターから顔を上げ、どかりと椅子に身を投げ出すなり天井を見上げて大袈裟に息を吐く女を、隣で優雅に紅茶を嗜んでいた男が労う。
「気苦労が絶えませんねぇ。あちらを立てればこちらが立たず、ですか。どうせなら、最初から手元に置いておけばよかったのでは?」
女が首を竦める。
「まあ、それはそうなんだけど、そんな簡単な話じゃないのよ。技術総監だからって好き勝手できるわけでもないし、夜魔のヒエラルキーは絶対だしね。フェルキア王に仕える私がそれを破るわけにはいかないでしょ。軍団長はさておくとしても、王城組の技術部に対する不信感は根強いし……」
「今更そこを気にしても、とは思いますがねぇ」
「それは言わない。努力したってことが大事なの。私だって本意じゃないんだから」
「その割にはノリノリで改造していたようでしたが」
「んー、否定できない! だってー、そそられるんだもん。やっぱ楽しいわ。人間を分解するのって。再構築するのは手間だったけど」
「それで、使えそうですか?」
「出たとこ勝負ってところかな。領域からの魔力供給プロセスも効率激悪だけど組み込めたし、あとは彼の屈強な精神力に期待するとしましょう。保険も揃ったことだしね」
ニンマリと眼を細める女を見遣り、男は悠然とカップを傾ける。
「それはそれは。いやはや、どちらに転ぶにしても面白いことになりそうですねぇ」
「まったく、他人事みたいな口ぶりしないでよね。元はと言えば貴方との茶飲み話が発端……っと。うん……、バイタルサインは安定。第十四次修正プロトコルの再走まで、カウントダウン。……2,1、ゼロ。……うん、うん。よしよし。以降のモニタリングは第二観測発令所に移管する。異常を検出した場合はすぐさま私に直電ね」
『了解しました』
コンソール画面の向こうで、待機していた白衣姿の夜魔たちが慌ただしく動き出す。
「これでどうにかうまくいってくれれば御の字なんだけど。ったく、ほーんと、空気が読めないバカの相手は疲れるわー。気まぐれと言うか、行き当たりばったりと言うか、付き合わされる方の身にもなって欲しいものね」
「………」
「ん? どーしたの? 何か言いたげに黙っちゃって」
「いえ……、なんでもありません。お気になさらず」
「そう? じゃあ、いいやぁわわわ……。ふう。欠伸が出ちゃった。夜魔だって一週間も徹夜を続ければ脳がバグって来るものね。もー、シャワーだって浴びてないのよ。こっちは二週間。ま、これは私がお風呂嫌いなだけだけど」
「えっ。それ、私、初耳なんですが……。あんまり近寄らないでくれません?」
距離を取る男に、女は慌てて手を横に振る。
「違う、違うって。臭くないって。代謝分泌物は体内で飼っている触手型生命体に食べさせているから衛生面では完璧。ほら、無味無臭だから。ね?」
「はあ。しかし、あまり大きな声で言わない方がいいですよ。生活習慣がだらしないと宣伝しているようなものですから」
「ラボのみんなもそう言うんだよね。別にいいと思うんだけどな。結果が同じなら身嗜みとか入浴とか時間の無駄にしか思えないんだけど。だって、自分磨きってそういうことじゃないでしょ? どうせ磨くなら、私は生体科学知識の集積とその魔導転用化にリソースを割きたいの。眷属間での内ゲバとかにじゃなくってさー」
「まあ、貴方であればそうでしょうねぇ」
含み笑いの男へと振り返り、女は告げる。
「さてと。それじゃあ、食事がてら準備といきましょうか。愛しき実験体たちを盛大に歓迎してあげないとね」




