表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
次元破断の魔術師  作者: 秋原
早蕨の塔

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/214

掃討命令

 

「……何をしている?」


 久慈原の声に、柊は呻くように喉を鳴らす。

 掌に生み出した炎鎖。

 それは、投擲(とうてき)の直前で停止したまま動かない。


「どうした? 早くしろ」


 苛立ちが透ける久慈原の催促に、息が荒くなる。口の中が渇く。


(……彼等は、生きている。まだ、生きている……)


 もがき、喘ぎ、地を這い、血に濡れる石像の眼に、殺意はない。

 邸を襲ったあの肉腫のような、憎悪や復讐心もない。

 あるのは、純粋なまでの嘆願。

 助けてくれ、と、ひたすらに訴えて……。


「まさかとは思うが……。もしかして、君、彼等に同情でもしているのかい?」


 言外に、正気か、とぼやく久慈原に、柊は奥歯を噛み締める。

 騏堂成叡への復讐を果たすために、私は生き続けなければならない。

 それを建前に、どれだけ手を汚して来ただろう。

 今更だ。躊躇(ためら)う必要なんてないはず。

 だけど……。


(そんな眼で見ないで……。私は……。私は……)


 救いを求めて伸ばされる指先。

 柊はそこに見た。見てしまった。

 魔術師に(さら)われ(もてあそ)ばれた過去――かつての自分たちを。


「あっ……」


 だが、それは無情にも、神速の鋼線によってバラバラにされる。指だけではなく、全身全てがサイコロ状に切断されて……。

 久慈原が、盛大に悪態を吐く。


「見ろ。神経と器官の一部を除いて、肉体のほとんどが石になっている。表層ならいざ知らず、ここまで侵蝕されたなら、元に戻ることは決してあり得ない。化石になった恐竜が蘇生しないのと同様にな。つまりは死人、屍だ」


 そうかもしれない。

 だけど、あの必死に語り掛ける瞳は……。


「……違う。生きているんです、彼等はまだ。あんな姿になっても、必死に……!」


 考えるより先に反論していた。

 細面の久慈原の顔が、ぴくぴくと痙攣(けいれん)する。


「生きているだと……。違う、違うな。あれは生かされているだけだ。上位者の愉悦を満たすためだけに生かされた鑑賞物だ。そんなものにどれだけの価値がある? しかも、それを憐れむだと……?」


 久慈原の突然の激高に柊は戸惑う。

 何が虎の尾を踏んだのかもわからない。

 久慈原は柊へと語気を荒げて命じた。


「火津摩、温情だ。戦意喪失した貴様などすぐに粛清してやってもいいが、あえて挽回のチャンスをくれてやる。僕が最上階から帰ってくるまでに、この手の石像を全て見つけて破壊しろ。戻って来た時に不愉快なこいつらが未だ徘徊(はいかい)しているようなら、その時は覚悟しておけ。決して楽には殺さない」


 それだけ吐き捨てると、柊の返答を待たず、久慈原は独り階段に向かって歩き出す。

 行く手を阻む石像を切断しながら、踏み潰そうと脚をあげた巨人の軸足を真一文字に両断。倒れた巨人が派手に転倒する様を一顧だにせず、無造作に蹂躙(じゅうりん)を重ねていく。


「………」


 久慈原が通り過ぎたことで出来た、一本の道。

 そこには、輪切りになったいくつもの石の残骸が、艶めかしくも無機質な臓物の断片を見せて転がっている。

 同時に、運悪く殺されるに至らなかった者たちも。


「痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いいいいいいいいいぃ!」

「なんで、なんでよぉ……‼ どうしてよぉっ‼」

「わあああああん、あああぁん、あああぁん、とれちゃったよぉ! 私の手がとれちゃったよぉ!」


 彼等には痛覚がある。体組織の大部分が石化しているのに? ……おそらくだが、わざと遺したのだ。石像が第三者に破壊されることを想定した上で、この地獄の様相を演出するために。

 

「……くっ‼」


 死に絶えた仲間の破片を無造作に踏みつけて、生き残った石像が再び迫る。

 体力にも魔力にも限界はある。先の展開を考えれば、是が非でも温存を図るべきだ。

 久慈原に私刑宣告もされている。何が最善なのか。それがわからない柊ではない。

 倒れた巨人は既に起き上がっている。

 左脚の(くるぶし)から先を失って斜めに傾いではいるが、重機以上の巨躯は健在。その腕から繰り出される一撃は、魔術師であっても致命傷になりかねない。

 逡巡(しゅんじゅん)している暇はない。廊下から延々と石像が吐き出されている。ホールが埋め尽くされるような事態になったら、それこそ詰みだ。


「……くそっ‼」


 石像が迫る。

 どうしようもなく前に。

 (わら)にも(すが)るように、私を引き()り込もうと……。


「どうしろって言うのよ……! 私なんかに、どうしろと……!」


 苦悩、反問、葛藤(かっとう)綯交(ないま)ぜに、柊は炎鎖を振るう。


「ぎゃあああああああああああああああああああっ‼」

「だずげでででえええええええぇぇ……ごろざないでででえでででえええぇぇえぇ……!」

「いだあああい、いだあああああいよおおお‼ ママああああぁぁぁあああぁ‼」 


 存外(もろ)い石の外殻。

 炸裂する悲鳴。

 途方もない無力感。

 ごめんなさいと謝ることさえ烏滸(おこ)がましく、ただひたすらに奥歯を噛み締める。

 そして、阿鼻叫喚(あびきょうかん)は尚も続いていく……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ