↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/44

勉強会


 玄関の扉をノックすれば中から開けられる。シックなお仕着せをきた使用人に出迎えられた。


「お名前を確認してもよろしいでしょうか」


「ニール・ワーグナーです」


 送られてきた金縁の封筒を見せる。


「お待ちしておりました。お帽子をお預かりします」


 手を出されたので、とりあえず預かってもらう。……どうなんだ? 制服規定で帽子もほぼ一緒だぞ。見分けつくんだろうか。

 ちょっと心配になった。新品ですからね。変な香水とかヤニ臭いものと入れ替わったら嫌なんですけど……。俺の心配をよそに、さくっとクロークに仕舞われていった。


 立ち止まっていても仕方ないので、先導してくれる使用人についていく。

 控えめに周囲の内装を見渡した。


「ほー」


 なんとも言いづらいのを誤魔化すような嘆息だった。


 さっぱりした外観と一変して、内装はものが多くてごちゃごちゃしている。荘厳な見た目をしている校舎と逆だな。

 あまり建物自体が広くないのもあるだろうが、それにしても所狭しとでかい絵画がかけられすぎではないだろうか。風景画もあるけれど、大抵が人物画だ。エイデンの歴代校長や、入学された歴代の王子殿下、歴代の”勉強会”の会長の人物画が、玄関ホールや今歩いている廊下の壁にもずらりと飾られている。


 それらに埋もれているが、壁紙はロイヤルワラントを賜ったヘック社の一番値を張るやつだ。緑と紫って重たい組み合わせに思えるけど、プロにかかると抜け感が出てる。ヒ素グリーンの時代は過去なので安全安心。


 とある部屋の前で立ち止まる。使用人がノックして何かしら確認すると、目を伏せて数歩下がった。ここからは一人で行けというジェスチャーだ。


 あー、心細い。気が重い。中の子供のバックを考えたら、波風立たせない逆行動力が求められる。胆力があれば違うのだろうが、俺は前世も今世も性根は小市民だ。

 とりあえず制服の裾を正してしずしず入ってみる。こういう時手持ち無沙汰になるから、帽子が恋しい。


 日当たりのいい広い部屋だった。品もいい感じだ。おそらく居間を改装したものだろう。

 ゆったりとしたソファやテーブルが何脚も置かれていて、そこにこれまたゆったりと10人ほどの生徒が座っていた。いくつかの調度品はパッと見ただけでも有名ブランドのロゴが浮かんでくる。贅沢なサロンだ。


 いつの時代も勉強会のメンバーは総員20名を超えないそうなので、半数以上はいる計算になる。うーむ顔も知らないヴィクトル兄さん、この中にいるかしら。

 ソファに座っていた上級生がこちらに手招きしてくれたのでほいほい近寄ることにする。ウェーブがかった長めの茶髪がなんか芸術肌っぽい。なんか、見覚えがあるような。ヴィクトルか?


「彼、うちの寮に新しく入ってきた後輩なんだ」


「へえ、パシーのか。第四寮だっけ」


 パシー? アルフレド・パシー。思い出したぜ、貴族名鑑に乗ってたな、そして俺に自分の本を返却させたやつでもある。ぴろぴろした髪型しやがって。

 そんなこと思ってるわけないじゃないですか、俺は純真な一年生ですからね。


「パシー先輩! 覚えていてくださったんですか」


「可愛い後輩ができたんだ。忘れるわけないよ」


 テーブルを囲んでいた他の面々に深々とお辞儀をして笑顔を作った。


「ニール・ワーグナーです。ご指導よろしくお願いします」


 まとめ役と思われる上級生が鷹揚に笑った。


「ははは、真面目だな。そんなに固くならなくていい。勉強会などと銘打ってはいるが、強制されることなど何もないさ。もう一つの家のようなものだと思ってくれたまえ」


「家ですか?」


 上級生の笑みが種類を変えた。何やら含みがある感じに。パシー先輩に隣の席に招待された。それとどこからともなく紅茶をサーブされた。話、長くなりそうなんすかね…。


「学校の、……賑やかな生活は、この学校に通うことを選ばれた王子殿下や、俺たちみたいな人間には疲れるところがあるからな。息抜きの場所が必要なのだよ。——君にもわかるだろう」


「……そうですね。慣れるには時間が必要かなとは」


 まあ寮の6人部屋は、根っからのお坊ちゃんには割と辛いかもしれない。あとはやっぱ、一番は雑役生制度なんじゃあないすかね。自分の紅茶も入れたことないやつばっかなのに、いきなり小間使いなんて難易度高いっすよ。


 だから、このわちゃわちゃ感が苦しいというのは、別に俺たちだけというよりも、もっと学生全体に言える問題だと思うんだけど、そうは問屋が卸さないのがエイデン校というトップオブトップお坊ちゃん学校の原罪である。


 ここでは王侯貴族の子息も石油王の息子も奨学金で入ってきた平民階級の子供も同じ釜の飯を食べ、同じ部屋で就寝し、同じ授業を受けるが、残念ながら同じでないことがある。

 生徒の親の権力と気位と学校に納めている金の量である。

 それによるなんやかんやがあって、エイデン校の長い歴史の中形を多少変えながらも”勉強会”は続けられてきたそうだ。古事記にそう書いてあった。


「慣れねえ。下に合わせる必要はないだろう?」


「オルグレン、言い過ぎだよ」


「この場でだけは許される冗談だろ。大目に見てくれパシー、ははは」


 まとめ役もといオルグレン先輩は大仰に肩をすくめた。パシー先輩とタメ口ってことは四年生でいいのかな。


「ワーグナー、紅茶が冷めてしまうよ」


 勧められたので飲む。今まで飲みづらかっただけなんだけども。……お、


「美味しい。ダージリンですよね? とても飲みやすいです」


 お高い味がする。転生してから紅茶ばっか飲んでるから、なんとなくわかる。かつて愛と勇気をゆりかごに、アンパンを生湯に育った男はもういない。こっちじゃ紅茶が生湯である。


「わかるかい。俺は初摘みの茶葉が一番好きでね。

 ワーグナーと言えば、確か有名なキジの遊猟地を持っているよね?」


「はい。ご存知なんですか」


「毎年父が楽しみにしていてね、話を何度か聞いていたんだ。ぜひ俺が参加した暁にはよろしく頼むよ」


 そう言ってオルグレン先輩は俺の肩に手を乗せた。なんか満足そうな顔してる。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。